子猫を拾ったはずなんだけど

ぱるゆう

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実家

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本物の美弥に意思を確認するのは、すぐと言う訳にはいかないので、とりあえず実家に電話することにした。

「もしもし母さん、詩織いる?」

「仕込み中だけど」

「すぐ終わるから、代わって」


電話の奥で歩く音がして、
「詩織ぃ~、若菜から電話ぁ」と母が大きな声を出しているのが聞こえた。

「えっ!今手が離せないよぉ!」と詩織の声も聞こえた。

「だって」と母が電話口で言った。

「まぁ、仕方ないか」料理中よりも仕込み中の方が話しかけられたくないのは、よく分かる。仕込みの準備が上手くいかないと、一日の全ての段取りが狂う。

「母さん、後で詩織に言っておいて欲しいんだけど」と若菜は真面目な声を出した。

「何よ、改まって」

「少し先になるけど、料亭を辞めて、そっちに戻る」詩織が加藤さんのことを、何処まで話しているか分からないので、名前を出さないことにした。

「えっ!何か問題でも起こしたの!」と母が慌てているのが、声で分かった。

「違うよ。迷惑かけないように働いてる」

「あぁ、ビックリしたぁ」と本人はそんなつもりはないのだろうが、大袈裟に聞こえた。

「それじゃあ、何で辞めるなんてこと」

「詩織も年頃だろ。そろそろ相手を探し始めないと、いき遅れちゃうよ」と半分冗談っぽく言った。

「それはそうだけど。あなたこそ、いい歳なんだから」

あっ!墓穴を掘った、と思った。母さんと話すつもりがなかったから、深く考えていなかった。
「僕はいいんだよ。僕は」と話を戻そうとする。

「いい訳ないでしょ?」と当然母は言った。

「そんなことを話すために電話したんじゃないんだよ」

「あなたが変なことを言い出したんでしょ?」

あぁ、ダメだ。遠回しに話ができない。流石に僕の性格をよく知っている。

「実は加藤さんが、加藤さん、覚えてる?」

「もちろん、詩織の彼氏、今は婚約者なのかしら?だからね」

「なんだ、知ってたんだ?」

「詩織と店のこと、凄く心配してくれてるから」

「それで、昨日、加藤さんが僕に会いに来て、隣の工場の増設が決まったから、客が増えて詩織の身体が心配だって話しをするから、僕が戻ることにした」

加藤さんから頼まれたと言うと、詩織が意固地になりかねない。

「工場の話は本当なんだけど、まだまだ大丈夫よ。私も調子いいし」

「調子が悪くなってから言われる方が迷惑なんだよ。とにかく、料亭に僕の代わりが見つかったら、戻るから。詩織の子供も早く見たいし」

「私は、あなたの子供が見たいわ」

また墓穴を掘ってしまったらしい。
「それは期待しないで欲しいんだけど」

「今は色々と忙しいでしょうから、いいけど、こっちに帰って来たら、本格的に見合いさせるからね」

「ちょっと待ってよ。帰りたくなくなるじゃないか!」

「それなら、いい人を連れてきなさい。別に、年上でも、離婚歴があろうと、子供がいようと気にしないから」

はぁ~、母親には敵わない。でも、事件のことで結婚する気がないなんて言ったら、あなたは悪くないとコンコンと諭されるのは目に見えている。

「分かった。微力だけど努力するよ」

「期待してるわ。あっ!店辞める日が決まったら教えてよ。長い間お世話になったんだから、私もご挨拶したいわ」

「いいよ、一人で。僕もいい歳なんだから」

「こういうのはダメ。あなただけじゃないのよ。オーナーの方はもちろん、お店の方々に感謝してるのは」

「分かったよ。連絡するから。詩織に言うの忘れないでよ」

「ちゃんと言っておくわよ。あれ?今、料理してるの?」

「えっ?」キッチンを見たら、ユリがまな板で野菜を切っていた。

「テレビの音だよ」

「ふ~ん。残りの期間、少しでも恩返しができるようにしなさいよ」

「分かってるよ」

電話を切った。

まだまだ耳は遠くなっていないらしい。まぁ、本人にそんな事を言ったら、誰かいるの?と勘ぐり始めかねない。

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