ゲームの中の女主人公に本気で恋したら 第二部

ぱるゆう

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大晦日 2

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家の裏側に出る。

「私はここで待ってるから」

「うん、分かった」

周りを気にしながら、玄関に回り込み、鍵を開ける。扉を開けて、
「ただいま~」と声を出す。

「えっ!貴之?」と2階から母の声がした。

「うん、そう!」と声を張り上げながら、靴を脱いで、上がる。

「どうしたの?」と声が返ってくる。

「アメ横で刺身とカニ買ったから、半分持ってきた」

「今、ちょっと手が離せないから、冷蔵庫に入れておいて」

「分かった」

玄関を見ると、父の靴もある。

「はぁ~、親の方がやりまくってるって、どういうことだよ」とリビングに入る。やはり父はいない。

キッチンに行き、大きな皿を出して、カニを置き、ラップをかける。別の皿を出して、刺身も同じようにする。そして、冷蔵庫に入れる。

こっそり詩織を家に入れてみようかと思ったが、時間の無駄だと思い、玄関に行く。

「じゃあ、冷蔵庫に入れたから、行くね」と玄関から声を出す。

「ありがとう」

「良いお年を」

「貴之もね」

玄関を出て、鍵をかける。

「はぁ~、仲がいいのはいいんだけど」

家の裏側に行く。

「喜んでた?」と詩織は言った。

「いや、2人で寝室にいるから会えなかった」

「えっ!病気なの?」詩織は心配そうな顔になった。

確かにその発想は正しい。
「いや、2人とも元気だよ。仲がいいだけ」

「えっ!」詩織が驚いた顔になった。

僕は手を前に出した。

「ダメ!せっかくのデートなのに」と腕を掴んだ。

「確かにそうだね」腕を下ろす。

「あっ!たっくんの部屋に行ける?」と詩織はいいことを思いついたと言わんばかりの顔で言った。

「えっ!」それは困る。

「散らかってるから」

「そんなの。今更気にしないわよ」

詩織のことだ。絶対にクローゼットを開けるに違いない。

「いや、親のそういう声を聞きたくないんだ」

本当は、散々、母親のそういう声を聞いてるんだが。

「えっ!やっぱりそうなの?」

「早く帰って、僕達も」

「本当に?」

「本当だよ」

「分かった。でも、もう少しブラブラしようよ」

「分かったよ」

家の門から外に出る。人通りも少ない。

「なんか、お腹空いてきた」と詩織は言った。

「確かに中途半端に食べたからね」

「ミスティの中華屋は?」と詩織が言った。

「あぁ~、美味しいんだけど、別れる時に揉めて、全部親に聞かれてるから」

「そうなんだ。残念」

「パンケーキは、どう?」とつい言って、しまったと思った。

「へぇ~、珍しいわね。たっくんがスイーツの話するなんて」

詩織と会う前の話だ、とも思うが、由紀大丈夫かな?とも思う。しかし、言い出したのは、他でもない自分自身なので、行かないと逆に怪しまれる。

「めちゃくちゃ美味しいんだよ。僕もふらっと入ったんだけど」

「へぇ~、確かに丁度いいかも。行きたい」

「うん」


店の前に立つ。少し緊張する。
扉を開けると、店内は混雑していた。

入口付近で男の人が
「いらっしゃいませ」と言った。

「空いてますか?」

「大丈夫ですよ」と先を歩いた。

店内を見渡すと、由紀は別の客と話していた。その後ろを通り過ぎて、案内された席に着く。

詩織を奥に座らせて、貴之は店内に背中を向けた。

男の人は
「決まりましたら、声をかけてください」と言ってテーブルに立てかけられていたメニューをテーブルに置き、立ち去った。

「混んでるわね」と詩織は店内を見回した。

「そうだね」

「あれがそう?」と詩織が指差した。

貴之が振り向くと、
「いらっしゃいませ」と由紀が笑顔で言い、お冷を2つ、テーブルに置いた。

すぐに座り直す。
「パンケーキ2つと、ブレンド、詩織は何飲む?」

「私もブレンドで」

「かしこまりました」とメニューをテーブルの脇に立てかけて、座を離れていった。

「ふぅ~」と裕太は息を吐いた。

「どうしたの?」

「混んでるから、バイト大変そうだなって思って」

「可愛いらしい子ね」

「えっ、そうだった?よく見なかった」裕太は振り返った。由紀と目があった。由紀がニッコリと微笑む。

「本当だ。可愛い子だね。でも、僕の対象じゃない」

「ふ~ん、確かに女の子っぽい子ね」

見かけは確かにそうなのだが、機嫌が悪くなると、急変して、僕の好みにはまってくる。しかし、もう、ないだろう。


しばらくして、
「お待たせしました」と由紀が注文の品を持ってきた。

「うわぁ、美味しそう」と詩織が笑顔になった。

「当店の看板メニューです。どうぞ、ごゆっくり」と由紀は言って席を離れた。

詩織が、早速口に入れる。
「うん、パンケーキだけでも美味しい。それに、いろんなもので味変して楽しめるのね」

「そうなんだ。すごく甘くもできるし、さっぱりもできる。ぺろっと食べれちゃう」

「うん、次は」と詩織も楽しんでいる。

その後は、由紀と話すことはなかった。店内の客が次々と入れ替わっていたので、それどころじゃないのだろう。まぁ、確かに、大掃除も終わり、大晦日くらいゆっくりしたいと、みんな思うんだろう。

そして、店を出た。初めはドキドキしたが、気にするようなことは何もなかった。

「また、来ようね」と詩織はすっかり気に入ったようだ。
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