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お墓をさまよう幽霊??

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 夜中、結菜ちゃんに起こされた。

「ねえ。玲ちゃん。……変な音がする」

「……え?」

「あっちはお墓だよね? さっきからずっと変な音がするの!」

 結菜ちゃんが脅えた声を出す。
 わたしは黙って耳を澄ます。 

 ひゅん。ひゅん。
 ひゅん。ひゅん。

 確かに、なにか聞こえる。
 何かが風を切るような、飛ぶような音?

「ええー。なんだろう。わたしも聞こえる」

「でしょ! ねえ、玲ちゃん。お墓で幽霊が飛んでいるんじゃ……」

「えええー! ほんとに? 怖いんですけど!」

 窓を開けて、外を恐る恐る見てみる。
 真っ暗なお墓は、何も見えない。

 ひゅん。ひゅん。
 ひゅん。ひゅん。

 確かに、この音は外からしている。
 お化けか幽霊か、ともかく何かが飛び回っているような音だ。

「どうする? 玲ちゃん」

「……どうしよう? 梨紗さんもユウ先輩も帰ってきた形跡は無いし。スリー婆ーズを起こした方が良いのかな」

 わたしの部屋にあった小さな懐中電灯を手にすると、ふたりで暗い階段を下に降りる。
 スリー婆ーズのいる2階は真っ暗だ。1階に降りても、食堂もキッチンも真っ暗だった。
 頼りない暗い懐中電灯の灯りを手に、結菜ちゃんとふたり廊下で立ち尽くす。黒猫ロッキーは寝ているのか、姿が見えない。

 ひゅん。ひゅん。
 ひゅん。ひゅん。

 かすかにあの音が聞こえる。やっぱり外で音がする。
 その時、急にスリー婆ーズに聞いた今郷館の昔の話を思い出した。
 
「結菜ちゃん。……わたし、スリー婆ーズに聞いたんだ。戦後、まだこの今郷館が男子寮だったときに、色々住人が何かをやらかしたとか言っていた。やらかしたって……もしかしたら、殺人事件とか自殺とか……」

「ええええー!? 本当に?」

「…………」

 あの音はまだかすかに聞こえる。

「どうする? 玲ちゃん」

「確かめてみる?」

「ええー。でも……」

 わたしは音をさせぬように、靴箱から自分のスニーカーを出すと履いた。結菜ちゃんも同じように靴を履く。
 扉は梨紗さんたちがまだ帰ってきてないからか、鍵が掛けていない。
 ゆっくりと、扉を開ける。
 ふたりで外に出ると、音が大きくなる。
 まだ外は真っ暗で、目が慣れていないせいか誰かに鼻を摘ままれてもわからないくらいだ。

 ひゅん。ひゅん。

 音のする方へ、恐る恐る近づく。
 玄関脇の、ちょっとしたお庭がある方だ。
 暗い中、人がいる。
 何か長いものを持って、それを振り回している。
 
「ひええええ。誰かいるよ」

 結菜ちゃんがわたしの腕をぎゅっと掴む。
 わたしは思い切って、懐中電灯の光をその影へ向けた。

「……麦婆!」

 麦婆が、長い棒―――薙刀を振っている。

「なんだか、妙に目が冴えて眠れなくて。そういうときは、これが一番です」

 大上段に薙刀を構えた麦婆は、するどく振り下ろす。
 わたしと結菜ちゃんは急に緊張が切れたのか、へなへなと地面にふたりで座り込んでしまった。
 その時、今郷館の正面にタクシーが止まると、梨紗さんとユウ先輩が降りてきた。

「まじかよ? ぎゃはははは! ユウ、お前やるな?」

 夜中にもかかわらず、大声で笑っている。
 ふたりは玄関前にいるわたしたちに気づくと、

「お? なにしてるんだ? こんな夜中っぱらから」

「お子ちゃまは早く寝ろよー」

 ふたりで肩を組んで、千鳥足で今郷館に入ってしまった。
 
「はあ……」

 わたしがため息をつくと、結菜ちゃんがもう抑えきれないって感じで、吹き出してしまう。

「あははははは!」

 爆笑する結菜ちゃんを見て、わたしも思わず笑ってしまう。
 そんなわたしたちに一切構わず、麦婆は素振りを続けていた。
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