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喧嘩ボクシング
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今日は土曜日なので、結菜ちゃんと午後1時に四ツ谷駅で待ち合わせをした。
結菜ちゃんは今日初めて工学部ボクシング部に行く。もちろん、経緯は説明してある。
「工学部のボクシング部に合流かあ。よく修斗先輩はそんな方法を見つけたよね」
「うんうん。もうユウ先輩なんて喜んじゃって」
あの時のユウ先輩の喜び様は凄かった。今まで悩んできた問題が、一気に解決に向かったからだろう。
ふたりで丸ノ内線のホームに向かうと、修斗先輩と他の先輩たちがもうすでにホームにいた。
「こんにちはあ」
「おう」
結菜ちゃんの顔を見た修斗先輩は、なんだかいつもより嬉しそう。
ユウ先輩ともうひとりの先輩はママチャリで直接工学部へ向かうという。確かにこの距離だったら、自転車の方が早いかもしれない。
後に地図で確認したが、ほんとに四ツ谷の駅から真っ直ぐに大通りを行けば、新宿御苑に行けるのだ。そこから北上すれば、すぐに工学部新宿校舎があった。
たったひとりの工学部部員は、すでに練習場で待っていてくれた。
練習を始める前に、お互いに自己紹介をする。
工学部の学生は、柴原徹だと名乗った。
練習方法は、修斗先輩はもちろんのこと一応同好会の人たちの方が、経験年数が上だと言うことで、柴原という人の方が合わせると同意してくれた。
久々に練習場でのジムワークだ。黒猫バンテージを巻くのも力が入る。
結菜ちゃんは、持参した雑巾でグローブやパンチンググローブ、他の道具類をせっせと拭いてくれている。
「おし! 始めるぞ!」
「はい!」
以前と同じようにいつもの練習が始まった。
ホワイトボードが無いので、適当な紙にラウンド数を書いて壁に貼り付けてある。
タイマーは古いが、充分に動くのがあったのでもちろん活用する。
3ラウンドはシャドーボクシング。それからサンドバッグを打ったり、マスボクシングをしたり。
工学部1年生の柴原は、シャドーボクシングを見る限り、やはり自己流の感が強い。追々、修斗先輩やユウ先輩が基本を教えてくれるだろう。
「どうだ、柴原。マスボクシングでもやってみるか?」
修斗先輩が声を掛けると、柴原が嬉しそうに答える。
「お、いいっすね。さすがにオレひとりじゃそれはできないっすからね」
柴原は、修斗先輩にヘッドギアとグローブを付けて貰うと、長身の堂林先輩とリングの上でグローブを合わせた。
ブザーが鳴る。
堂林先輩がジャブで牽制しようとすると、柴原はいきなり突っ込んできてむちゃくちゃにパンチを振り回す。
堂林先輩は、押されてロープに詰まる。ガードを固めているが、その上から構わず柴原がパンチを打つ。たまらず、堂林先輩が体を入れ替えてリング中央に逃れ、そこから距離を取る自分のボクシングスタイルを組み立てようとする。
また柴原が突っ込んできた。
まるでマスボクシングのルールを無視で、とにかく相手を倒すことが正義とばかりに左右のパンチを振り回す。
あれじゃあ、ただの喧嘩だ。
みんなは唖然として、リングの上を見つめている。
それでも、堂林先輩は冷静にガードを固め、大振りのパンチは見切ってスウェーバッグで避けているので、たいしたパンチは貰っていない。
すると、柴原は自分のパンチが当たらないことに痺れを切らしたのか、背の高い堂林先輩の顎に向けて頭突きをしてきた。
突然の反則攻撃に仰け反る堂林先輩。
ガードが外れるや否や、柴原は右のストレートを打つ。それがモロに顔面に入り、堂林先輩は後ろによろけてしまう。
それをチャンスと見たのか、柴原はさらに左右のパンチを振り回す。堂林先輩は何発も良いパンチを貰ってしまう。
「おいおい! なんだよあいつ!」
修斗先輩が怒りの声を上げる。
再び、柴原の頭突きが堂林先輩の顔面に入った。
「おい! やめろ! やめろ!」
堪らず修斗先輩が叫ぶが、柴原はパンチを出すのをやめようとしない。
修斗先輩と他の先輩が、リングに駆け上がる。だが、柴原は相手を殴るのをやめない。
「やめろ!」
修斗先輩と他の先輩が、柴原を後ろから羽交い締めにしてやっと止める。
堂林先輩はがっくりと膝をつき、自分の顔を押さえている。
「結菜!」
「はい!」
ユウ先輩が叫ぶと同時に、結菜ちゃんが瞬間冷却パックをパンパンと叩きながら駆けつける。
堂林先輩はリング脇に寝かされた。結菜ちゃんが堂林先輩の顔に冷却パックを押しつけて冷やす。頭突きを食らった頬の辺りが赤く腫れている。
「おい! 柴原! 何やってるんだよ!」
修斗先輩が怒声を発しても、柴原はしれっとした顔で、
「ああ、やっぱりダメか。オレ、ひとりで練習していた方が良いのかなあ。相手に迷惑掛けちゃうから」
何も罪悪感はないように言う。
「お前のはボクシングじゃ無い! ただの喧嘩だぞ!」
「そっすかー?」
「なにあいつ! 酷すぎない!?」
堂林先輩を心配しながら、結菜ちゃんも憤懣やるかたないといった表情で柴原を睨み付けている。
「おい! 柴原! まだマスはできるのか?」
「へ? 全然大丈夫っすけど。今度は先輩が相手してくれるんすか?」
修斗先輩は、傍らで怒りに燃えて憤怒の表情を浮かべるユウ先輩に訊く。
「ユウ、行くか?」
結菜ちゃんは今日初めて工学部ボクシング部に行く。もちろん、経緯は説明してある。
「工学部のボクシング部に合流かあ。よく修斗先輩はそんな方法を見つけたよね」
「うんうん。もうユウ先輩なんて喜んじゃって」
あの時のユウ先輩の喜び様は凄かった。今まで悩んできた問題が、一気に解決に向かったからだろう。
ふたりで丸ノ内線のホームに向かうと、修斗先輩と他の先輩たちがもうすでにホームにいた。
「こんにちはあ」
「おう」
結菜ちゃんの顔を見た修斗先輩は、なんだかいつもより嬉しそう。
ユウ先輩ともうひとりの先輩はママチャリで直接工学部へ向かうという。確かにこの距離だったら、自転車の方が早いかもしれない。
後に地図で確認したが、ほんとに四ツ谷の駅から真っ直ぐに大通りを行けば、新宿御苑に行けるのだ。そこから北上すれば、すぐに工学部新宿校舎があった。
たったひとりの工学部部員は、すでに練習場で待っていてくれた。
練習を始める前に、お互いに自己紹介をする。
工学部の学生は、柴原徹だと名乗った。
練習方法は、修斗先輩はもちろんのこと一応同好会の人たちの方が、経験年数が上だと言うことで、柴原という人の方が合わせると同意してくれた。
久々に練習場でのジムワークだ。黒猫バンテージを巻くのも力が入る。
結菜ちゃんは、持参した雑巾でグローブやパンチンググローブ、他の道具類をせっせと拭いてくれている。
「おし! 始めるぞ!」
「はい!」
以前と同じようにいつもの練習が始まった。
ホワイトボードが無いので、適当な紙にラウンド数を書いて壁に貼り付けてある。
タイマーは古いが、充分に動くのがあったのでもちろん活用する。
3ラウンドはシャドーボクシング。それからサンドバッグを打ったり、マスボクシングをしたり。
工学部1年生の柴原は、シャドーボクシングを見る限り、やはり自己流の感が強い。追々、修斗先輩やユウ先輩が基本を教えてくれるだろう。
「どうだ、柴原。マスボクシングでもやってみるか?」
修斗先輩が声を掛けると、柴原が嬉しそうに答える。
「お、いいっすね。さすがにオレひとりじゃそれはできないっすからね」
柴原は、修斗先輩にヘッドギアとグローブを付けて貰うと、長身の堂林先輩とリングの上でグローブを合わせた。
ブザーが鳴る。
堂林先輩がジャブで牽制しようとすると、柴原はいきなり突っ込んできてむちゃくちゃにパンチを振り回す。
堂林先輩は、押されてロープに詰まる。ガードを固めているが、その上から構わず柴原がパンチを打つ。たまらず、堂林先輩が体を入れ替えてリング中央に逃れ、そこから距離を取る自分のボクシングスタイルを組み立てようとする。
また柴原が突っ込んできた。
まるでマスボクシングのルールを無視で、とにかく相手を倒すことが正義とばかりに左右のパンチを振り回す。
あれじゃあ、ただの喧嘩だ。
みんなは唖然として、リングの上を見つめている。
それでも、堂林先輩は冷静にガードを固め、大振りのパンチは見切ってスウェーバッグで避けているので、たいしたパンチは貰っていない。
すると、柴原は自分のパンチが当たらないことに痺れを切らしたのか、背の高い堂林先輩の顎に向けて頭突きをしてきた。
突然の反則攻撃に仰け反る堂林先輩。
ガードが外れるや否や、柴原は右のストレートを打つ。それがモロに顔面に入り、堂林先輩は後ろによろけてしまう。
それをチャンスと見たのか、柴原はさらに左右のパンチを振り回す。堂林先輩は何発も良いパンチを貰ってしまう。
「おいおい! なんだよあいつ!」
修斗先輩が怒りの声を上げる。
再び、柴原の頭突きが堂林先輩の顔面に入った。
「おい! やめろ! やめろ!」
堪らず修斗先輩が叫ぶが、柴原はパンチを出すのをやめようとしない。
修斗先輩と他の先輩が、リングに駆け上がる。だが、柴原は相手を殴るのをやめない。
「やめろ!」
修斗先輩と他の先輩が、柴原を後ろから羽交い締めにしてやっと止める。
堂林先輩はがっくりと膝をつき、自分の顔を押さえている。
「結菜!」
「はい!」
ユウ先輩が叫ぶと同時に、結菜ちゃんが瞬間冷却パックをパンパンと叩きながら駆けつける。
堂林先輩はリング脇に寝かされた。結菜ちゃんが堂林先輩の顔に冷却パックを押しつけて冷やす。頭突きを食らった頬の辺りが赤く腫れている。
「おい! 柴原! 何やってるんだよ!」
修斗先輩が怒声を発しても、柴原はしれっとした顔で、
「ああ、やっぱりダメか。オレ、ひとりで練習していた方が良いのかなあ。相手に迷惑掛けちゃうから」
何も罪悪感はないように言う。
「お前のはボクシングじゃ無い! ただの喧嘩だぞ!」
「そっすかー?」
「なにあいつ! 酷すぎない!?」
堂林先輩を心配しながら、結菜ちゃんも憤懣やるかたないといった表情で柴原を睨み付けている。
「おい! 柴原! まだマスはできるのか?」
「へ? 全然大丈夫っすけど。今度は先輩が相手してくれるんすか?」
修斗先輩は、傍らで怒りに燃えて憤怒の表情を浮かべるユウ先輩に訊く。
「ユウ、行くか?」
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