異世界で再会した少年が年上になっていたんだけど

ありま氷炎

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第4話 まだいてもいい?

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 シオは自分の気持ちの変化についていけなくなっていた。

「え?ユキノちゃん、一人で行かせたの?」
「子供ではないし、魔法を使えるようになったので」

 研究室で薬草を調合していると、師匠のサリーが突然訪ねてきた。
 サリーはなぜか由喜乃のことが気に入っているようで、何かと彼女のことを聞いてくる。
 それは異世界人への興味かもしれない。
 そう思いつつ、シオは面倒くさそうに師匠に返事をする。

「悪意をわかっていないわねぇ。本当、シオちゃんは」
「どういう意味ですか」
「別に。仕方ないわ。私が行ってあげる」
「師匠が?なぜ?なんなら僕が行きます」
「あなたは大人しくしていなさい」

 師匠にそう言われてしまい、シオは楽しそうに出かける彼の背中を見るしかなかった。

「お帰り。シオくん」

 仕事が終わり、家に戻ると由喜乃がすでに帰っていた。

「今日はサリー様に会ったよ。来てもらって助かった」
「何かあったの?」
「ううん。別に。それよりも」

 何事もないように流され、シオの心配する気持ちだけが宙に浮く。
 それに気が付かない由喜乃は、本を持ってきて、絵を指差した。
 どうやら、この指輪が日本、もしくは地球から来たものらしい。
 隣町には日帰りで行けない。
 でも期待たっぷりの目で見られてしまい、シオは一泊泊まりで由喜乃に同行することになった。
 隣町への旅はシオにとっては試練というか、気持ちが乱されるものだった。
 馬に相乗りしてドキドキさせられ、食事では天真爛漫さに毒気を抜かれ、同じ部屋に泊まるというのに警戒心なく、爆睡する。
 ずっと抱いていたお姉ちゃんの由喜乃像が音を立てて崩れていき、新たな由喜乃像を心に抱くことになった。




 異世界に来て一か月半が経った。
 日本での時間経過は三日くらいだ。

 由喜乃はシオの元を離れた。

 シオが出張することになって一人で留守番をしていたら、異世界から届いたイヤリングを保持している人から連絡がきたのだ。
 彼女はかなり迷った上で、一人で行く選択をした。
 場所は近くであり、この国の貴族。
 身分のしっかりした者であったので安心していた。
 とりあえず何も知らせずで家を空けるのはよくないため、置き手紙だけはして、指定の屋敷へ向かった。

 まず応接間に通されて、お茶を出され、警戒心のない由喜乃は飲んでしまった。それは催眠作用のある薬の入ったお茶であり、彼女はそのまま気を失ってしまった。
 目覚めると最悪なシチュエーションが目の前に広がっており、自身の迂闊さを恨んだ。

 裸に剥かれ、これまた裸の男と対峙。

「君が異世界から来ていることは聞いている。異世界の者は魔力が高い。そうなればその子供は魔力が高い。私は強い魔力を持つ跡取りが欲しいのだ」

 最低、最悪。
 叫び散らしたいけど、口は布でふさがれて、もごもごするだけ。
 魔法も使いたいけど、詠唱できない。
 無詠唱魔法なんて、この世界にはなかった。
 シオもその師匠のサリーも詠唱しないと魔法は使えないのだ。
 そんなこと冷静に考えているうちに、男に組み押さえられた。

(嫌だ!)

「水の精霊よ。我に答えよ。凍てつく氷の吐息!」

 声がして、一気に部屋の温度が下がる。
 男は氷漬けで動けなくなっていた。

(シオくん!)

「由喜乃!」

 彼は由喜乃に駆け寄ると、その体にマントをかける。
 そして口から布を取った。

「ありがとう!」

 彼女は嬉しさのあまり、何も考えず彼に抱き着き、マントがはらりと落ちた。

「ごめん!」

 由喜乃は慌てて拾ったが、すでに遅し。

(痴女か、私は。本当に最悪……)

 その夜、シオ、そしてその師匠サリーから彼女はこっぴどく怒られた。
 けれども、シオは彼女の覚悟を感じとったのか、必ず日本に帰れるように協力すると約束した。

 その日から、シオは積極的に協力し、動いた。
 数日後、今度こそ『本物』が見つかった。
 そう断定できる理由は、その指輪に、日本人の名前が彫られていたからだ。もちろんローマ字記載で。
 この世界に至った経緯はわからない。そもそもシオを呼び寄せた指輪の経緯も不明なのだ。
 重要なのは、この指輪が本物で、由喜乃を日本に戻す可能性があるということだった。
 こちらの世界に彼女が転移して二か月、日本時間で言えば四日が経過していた。

「由喜乃。事故みたいにこの世界にきちゃったけど、僕はこの奇跡に感謝している。あの時、確かに日本で僕は由喜乃姉ちゃんに救われた。もう一回会いたかったんだ」

 日本に帰る前の日、彼は食事をしながらそう語る。

「救ったって、そんなことないよ。あの連れて行かれる時には何もできなかったもの」
「……仕方ないよ。うん」

 暗い顔になってシオは頷く。
 あれからきっと酷いことがあって、彼はこの世界にきたのだろうと由喜乃には想像できた。
 
(実の父親と分かっていても止めるべきだったかもしれない。今更だけど。私は何もできなかった)

「由喜乃。そんな顔しないで。僕は今幸せだから」
「本当?」
「うん。まあ、由喜乃が帰っちゃうことは寂しいけどね」

(私も寂しい。だけど、それを言葉にはできない)

 彼女が日本に帰りたいって、ずっと願っていて、シオにも無理をさせた。馬鹿みたいに一人で屋敷に行って、危ない目に遭いそうにもなっている。

(それくらい、私は日本に帰りたかったんだ。本当。だけど、今は?)

 目の前のシオの目は真っ赤で、今にでも泣きそうだ。
 一年前のように、八歳の彼のように。

「由喜乃?」

 訝しげに名を呼ばれ、気が付く。
 目から涙が溢れて、テーブルにぽたぽたと水滴が落ちていた。
 
(私が、泣いてる?私。なんで)

「あの時の僕みたいだ」
「うん。そうだね」

(これは悲しいって気持ち。シオくんと離れるのが悲しいって気持ちだ)

「シオくん、私。もうしばらくここにいていいかな」

(ここで日本に帰ったらもやもやした気持ちのままだ。自分の気持ちを確かめたい)

「いいよ!大歓迎!」

 シオくんに微笑まれ、嬉しくなってしまった。
 
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