不毛な恋x不毛な恋

ありま氷炎

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 良くんがいなくなって、数分、俺はやっとショックから立ち直って、彼を追いかけた。
 彼は男の子だし、そんなに遅い時間でもない。 
 だけど一人で帰らせるなんて、できない。
 
 追いかけて数分、体の大きな外国人に絡まれている良くんを見つけた。

「This is my brother. What do you want?」

 なけなしの英語で話しかけてみると、何かごちゃごちゃ言いながら消えた。
 よかった。
 暴力的な外国人じゃなくて、

「良くん!」
 
 どこかに行こうとしていた良くんを慌てて捕まえる。
 
「何もしない。達也に誓う。だから、一緒に帰ろう。本当に悪かった」
「………」
 
 良くんは僕を睨んだままだけど、逃げようとしなくなった。
 上目目線も可愛い。
 そう思ったが、そんなこと言ったら引かれてしまうし、にやって笑うとまた警戒されそうだから、無表情を装った。

「ありがとうございました」

 良くんは一定の距離を保ちながら、俺と歩き、俺たちに家にたどり着いた。
 家の前で別れて、とりあえず彼が扉の奥へ消えるまで姿を見送る。
 良くんが振り向くことはなかった。

 はあ、本当、俺、なんっていうか馬鹿だ。
 焦ってしまった。
 余りにも可愛くて、信頼を失ったな。
 嫌われたかもしれない。
 
 とぼとぼ家に帰ると、両親からなんで早く帰ってこないと小言をもらった。達也からは何も言われることもなかった。幸奈ちゃんは気にしないでというように微笑みを浮かべていた。
 とりあえず用意していた誕生日プレゼントは幸奈ちゃんに渡せた。
 達也はきっとアクセサリー、指輪とかだったら引くな。 
 可能性はある。
 とりあえずアクセサリー以外、彼女の好きな犬のヌイグルミを上げた。目立つと達也が嫉妬心を拗らせそうだったから、小さいサイズにした。
 喜んでもらってよかったあ。

 とりあえず、これで家のことは片付いた。
 問題は、彼だ。
 俺はもう二度と彼を話すことはできないかもしれない。
 だけど……

 彼の唇、柔らかかった。
 なんでか甘かったし。
 思い出すと、顔が緩む。
 
 変態だよな。
 
 だがそう思い至って、後悔に身を焦がした。




「兄ちゃん!」

 翌日学校から戻ってきたら、めちゃくちゃ怒った達也に怒鳴られた。

「良の様子がおかしい。昨日、なんかした?」

 達也との関係もギクシャクしたのか。
 まあ、俺たち顔似てるしな。
 ってことは、達也の顔を見て、俺のことを意識したってこと?
 もしかして脈あり?

「俺のこと避けてるみたいなんだ。兄ちゃんが何かしたんだろ!」
「してないよ。何も。そういうお前、お前の態度がよくないんじゃないか。良くん、放って幸奈ちゃんといつもイチャイチャ。良くんを大事にしろよ」
「大事にしている!だから、兄ちゃんに怒ってるんじゃないか!昨日帰りも遅かったし。まさか、」
「まさか?なんだよ」

 達也が言葉を止めた。
 まさか、こいつ俺の性癖をしっているのか?

「な、なんでもない。とりあえず何かしたなら謝った方がいい」
「何にもしてないから」

 本当はしてるけど、キスしたなんて言えるわけない。
 ばれてはないが、疑わしいと思われているらしい。
 達也は俺を睨みながら、用事があるとかでまた家から出て行った。
 幸奈ちゃんは今日は部活のようだ。

 しっかし、達也まで避けるとは相当ショックだったのかあ。
 もしかしてファーストキスだったかもしれない。
 いや、そうだ。きっと。
 良くんってきっと達也一筋だっただろうし。
 ああ、俺は本当になんてことを。
 昨日の俺を殴ってやりたい。



「兄ちゃん、ちょっといいか」

 二日後、沈んだ様子の達也が部屋にやってきた。
 珍しいな。

「いいぞ。中に入れ」
「ありがとう」

 怒っていたのはなんだったのか。
 落ち込んだ様子だった。

「どうした。達也」
「……俺、とんでもないことしていたかもしれない」

 それから達也は良くんに問いただして、良くんに告白されたと言った。
 はあ、追い詰めたんだな。こいつ。

「それで、どう思った?嫌か?」
「嫌って言うか、びっくりした。まさかそんな風に思われてるなんて知らなかったから」
「そうだろうな」
「兄ちゃんは、もしかして知っていたのか?」
「知ってたぞ」
「だったら、なんで言ってくれなかった?」
「言うわけないだろう。人の気持ちだ。他人が伝えていいものではないだろう」
「……そうだな」
「それで、お前はなんでショックそうなんだ。やっぱり嫌だったんだろう」
「良に元の関係には戻れないって言われて。幸奈と一緒にいるのを見ると心が痛いって」

 良くん、そこまで言ったんだな。
 俺のせいか。もしかして。

「……そうか。なあ、達也。実は俺もお前に言ってなかったことがある。俺、ゲイなんだ。女じゃなくて、男が好き」
「は?だって、兄ちゃん、彼女いたことがあっただろ?」
「あれはカモフラージュ。頼んでやってもらった」
「そうなんだ」
「ショックか?」
「う、ん。正直」
「気持ち悪いか?」
「それはない」
「よかった。お母さんたちには内緒な。びっくりさせたくないんだ」
「うん。わかった」
「達也。お前は良くんが好きか?」
「うん。好きだよ」
「それは恋愛として?」
「違う。俺は好きなのは幸奈だけだ」
「そうだよな。だったら、俺が良くんをもらう」
「は?なんだよ。それ」
「良くんのこと、俺ずっと好きだったんだよ。可愛いだろ。良くん」
「確かにそうだな。弟がいたらあんな感じかも」
「弟か。本当、そういう好きじゃないんだな」
「そうだよ。俺が好きなのは幸奈だけ」
「じゃあ、弟に遠慮することはないわけだ」
「良に変なことはするなよ。……まった。もしかして、あの日、良に何かしたのか?兄ちゃん」
「いや。何も、全然」
「嘘つくな。絶対に。もしかして、キスしたとか?」
「なんでわかんだよ!」
「ひでぇ!それ犯罪だ。警察呼ばれてもおかしくない!」
「わかってる。二度と無理にしない」
「良が俺の顔を見なくなったのは、絶対にそのせいだな。馬鹿兄!」
「こら、殴るな。痛いだろ」
「馬鹿だから殴るんだ。明日、良に謝って。俺も一緒に行っていいから」
「お前が一緒にきたら余計話がこじれそうだ。俺一人で謝ってくる」
「うん。わかった」

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