クチナシの薫りは醒めない

ありま氷炎

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第一天 美しい人(勇視点)

彼の想い人

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 熱いシャワーを浴び俺は自分を取り戻す、そして何度も戒める。
 王さんは男だと。
 見とれるものじゃないし、同僚だ。
 可笑しな気は持たないようにと。
 俺はなだとは違う。

 俺の嗜好は普通なんだ。
 ただ王さんがあまりにも美しいから、惑わされているだけなんだ。

 俺は自分にそう言い聞かせ、かなり長いシャワーから外に出た。タオルで髪を拭きながら居間に近づくと、テレビの音が聞こえてくる。
 そうだ、結構きわどいのが多いけど、王さんは見て大丈夫かな?
 中国って地味な番組が多そうだし。

「あれ?王さん?」
 居間に入り俺はテーブルに顔を伏した王さんを見つける。
 ぎょっとして近づくが、寝ているだけだと気づきほっとした。

 長い睫毛が白い肌に影を作っていた。まだ少し濡れた様子の髪はうなじに絡みついている。
 本当、綺麗だ。
 女の子より全然。

 俺は自然にその横に腰をおろしていた。そして手を伸ばす。が、『襲うなよ』と言う灘の言葉が脳裏に響き、俺は動きを止める。

 うわっつ。
 今、俺何しようってしたんだよ。

 俺は頭を抱え、何度も自分を叱咤する。

「シャンシュ……」
 ふと消え入りそうな声が聞こえ、俺ははっと王さんを見つめる。
 寝言らしく、起きている様子はない。 
 でもふいにその長い睫毛が揺れ、一筋の涙こぼれる。それは頬を伝いテーブルを濡らす。

 悪い夢でも見ている?

善樹シャンシュウォアイニィ……」
「!」
 えっと、ウォアイニィって、愛してるってことだよな。
 ってことはシャンシュって名前?
善樹シャンシュ……」
 王さんは夢の中のようだった。

 恋人かな?
 ああ、とりあえず涙を拭いてあげて、ベッドに移そう。
 俺はテッシュで頬を拭うと王さんの体を抱き上げる。
 
 やはりその体は華奢で、俺は簡単に彼の体をベッドに運ぶことができた。ベッドに寝かせ、冷えるとよくないとタオルケットを掛ける。

善樹シャンシュ。 ウェイシェンマ?」
 そう声がして、ベッドから立ち去ろうとした俺のシャツの裾が掴まれた。それは王さんで、目をきつく閉じ、口を噛み締めている様子だった。
「王さん……」
 俺は思わず、その苦しみを取り除きたくて、その頭に触れる。そしてできるだけ優しく何度も撫でる。
「シャンシュ」
 すると王さんの表情が柔らぎ、口元に笑みが浮かぶ。裾を掴んでいた手から力が抜けた。

 俺はもっと彼に触れたい気持ちを掻き立てられながらも、きゅっと拳を握り締めると離れる。

 王さん。好きな人と揉める夢でも見てたんだよな。
 
 好きな人、いるんだ。
 誰だろう?シャンシュってことは中国人?

 俺はそんなこと思いながら、居間を片付け布団を敷く。

 関係ない。
 俺はノーマルなんだから。
 
 逆に好きな人がいてよかった気がする。

 おかげで可笑しな気持ちをすこしは押さえられるかもしれない。

 寝室の襖を閉めようかと思ったが、とりあえず開けたままにする。そして俺は布団の上にごろんと横になり、寝ようと試みた。

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