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第三天 俺はまともでいたい(勇視点)
負けたくない
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「初めまして。私はケイラの実田勇(みた いさむ)です。この度はお時間を作っていただきありがとうございます」
「こちらこそ遠くまでご足労いただきありがとうございます。私は山騨(やまだ)兼二郎(けんじろう)と申します。そしてこれは私の上司で部長の木縞(きじま)善樹(よしき)です。宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
俺は動揺を悟られないように頭を下げつつ、名刺交換をする。
木縞さんは何を考えてるのかわからなかった。山騨さんの隣でにこりと笑っているだけだった。
いやいや、今日は仕事で来てるんだ。昨日のことは忘れるんだ!
俺は必死に頭を切り替えるとうちの製品について持参したノートパソコンを開け、プレゼンテーション資料を見せながら説明する。
「そういうことで、私達の照明はホテルなどで使っていただくにはとても適した製品なのです」
「なるほど」
山騨さんはふむふむと頷き、木縞さんの意見を聞こうと顔を向ける。
「山騨さん。ホテル建設資料が私のパソコンのデスクトップに保存してるから、印刷してもってきてもらえないか。実田さんに見せたいんだ」
「はい。わかりました。1部でいいですか?」
「ああ、1部でいい。宜しく頼む」
山騨さんは俺にぺコリと頭を下げると、部屋を出て行く。そしてドアが閉められ、木縞さんが俺を見つめた。
「秀雄(シュウシュン)はどうしてる?」
「どうしてるって、そんなの俺に聞くことじゃないですよね?」
木縞さんがさらりと聞いてきたので、俺はつっけんどんに答える。
好きな人に振られて傷心のことなど想像できるはずだ。俺に聞くなんて間違ってる。
「そうか?君に聞くのが一番だと思ったけど」
ちょっと驚いたように目を細め木縞さんが笑う。
それが大人の余裕で俺をいらいらさせる。
王さん、なんでこんな人好きなんだ?
「君は誠実そうな男だ。だから。きっと秀雄(シュウシュン)にとってはいい相手になるだろう」
いい相手、そんなわけないだろうが!
「俺はあなたと同じ嗜好の持ち主じゃありません。王さんとは単なる同僚で一緒に暮らしているにすぎません」
「一緒に?一緒に暮らしてるんだ?」
木縞さんは面白そうに笑う。
「そんな意味じゃないです!会社で用意した部屋が住める状態じゃなくて、俺の部屋で寝泊まりしてるだけなんです」
「秀雄(シュウシュン)の作るご飯はうまいだろう?」
「はい、まあ」
俺は思わず素直に答えてしまい、彼がまた笑う。
くそ、誘導尋問だ!
「クスクス。からかうのはそのへんにしておくよ。君は素直で面白いな。君のお陰で秀雄(シュウシュン)は随分救われたはずだ。ありがとう」
「あなたにお礼を言われる筋合いはありません。だいたい、なんで奥さんがいるのに王さんと付き合ったんですか?」
俺は木縞さんを動揺させたくて、そう聞く。
この人は嫌いだ。
俺を不快にさせる。
「……誘われた。最初は女だと思ったんだ。男だとわかって驚いたけど、一度抱いたら離れられなくなった」
最低だ。
信じられない。
「最低ですね」
俺は彼にダメージを与えようと精一杯冷たく言い放つ。
「ああ、確かに。そのおかげで妻が病気になった。だから、私は彼と別れることにした。彼は魅力的だか、妻を捨てるわけにはいかなかった」
な、なんだよ。それ!
「だったら、捨てられた王さんはどうなんですか!」
俺は彼がお客さんであることを完全に忘れ、怒鳴りつける。
「秀雄(シュウシュン)はああ見えて強い。彼なら大丈夫だと思ったんだ」
何が大丈夫だ。
やっぱりこの人、最低だ。
「でも彼はあなたを想って泣いてましたよ。始めから付き合わなければよかったんだ」
俺がそう言うと彼は目を細めて窓の外を見る。
「そんなことわかってる……」
そして木縞さんは唇をきゅっと噛むとつぶやいた。
俺酷い事を言ってる。でもあの王さんを見ていたら言わずにはいられなかった。
「秀雄(シュウシュン)を頼む。君なら彼を幸せにできるだろう」
「幸せ?!俺は彼のただの同僚で、」
「でも君は彼のために必死だ。それは好きだってことじゃないのか?」
「……」
違う。俺は違う。
ただ悲しむ王さんが見たくないだけだ。
恋愛感情なんかじゃ絶対にないはずだ。
コンコン、
俺が言葉を詰まらせているとドアをノックする音がして山騨さんが現れる。
「遅くなりました。これが資料です」
彼はそう言ってホッチキスで止めた20枚ほどの紙を渡す。
「実田さん、ここにホテルの建設概要が書かれている。これを見て来週までに照明に関して見積書を作ってくれ。もし間に合わなければ他の業者を使う」
木縞さんは先ほどまではまったく別人のように表情を変え、俺を見つめる。
この人は仕事とプライベートを完全に別けている人だ。
負けたくない。
「わかりました。来週半ばまでには提出します」
「よかった。できたら山騨宛てにメールを送ってもらえればいいから」
「了解しました」
そうして、俺は二人に見送られ応接間を出た。木縞さんの強い視線を感じた。彼はまだ王さんに未練がある。でも彼はあきらめた。奥さんのために。
不倫を続けるよりはましな決断だ。でも俺はなんだか木縞さんが許せなかった。
「こちらこそ遠くまでご足労いただきありがとうございます。私は山騨(やまだ)兼二郎(けんじろう)と申します。そしてこれは私の上司で部長の木縞(きじま)善樹(よしき)です。宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
俺は動揺を悟られないように頭を下げつつ、名刺交換をする。
木縞さんは何を考えてるのかわからなかった。山騨さんの隣でにこりと笑っているだけだった。
いやいや、今日は仕事で来てるんだ。昨日のことは忘れるんだ!
俺は必死に頭を切り替えるとうちの製品について持参したノートパソコンを開け、プレゼンテーション資料を見せながら説明する。
「そういうことで、私達の照明はホテルなどで使っていただくにはとても適した製品なのです」
「なるほど」
山騨さんはふむふむと頷き、木縞さんの意見を聞こうと顔を向ける。
「山騨さん。ホテル建設資料が私のパソコンのデスクトップに保存してるから、印刷してもってきてもらえないか。実田さんに見せたいんだ」
「はい。わかりました。1部でいいですか?」
「ああ、1部でいい。宜しく頼む」
山騨さんは俺にぺコリと頭を下げると、部屋を出て行く。そしてドアが閉められ、木縞さんが俺を見つめた。
「秀雄(シュウシュン)はどうしてる?」
「どうしてるって、そんなの俺に聞くことじゃないですよね?」
木縞さんがさらりと聞いてきたので、俺はつっけんどんに答える。
好きな人に振られて傷心のことなど想像できるはずだ。俺に聞くなんて間違ってる。
「そうか?君に聞くのが一番だと思ったけど」
ちょっと驚いたように目を細め木縞さんが笑う。
それが大人の余裕で俺をいらいらさせる。
王さん、なんでこんな人好きなんだ?
「君は誠実そうな男だ。だから。きっと秀雄(シュウシュン)にとってはいい相手になるだろう」
いい相手、そんなわけないだろうが!
「俺はあなたと同じ嗜好の持ち主じゃありません。王さんとは単なる同僚で一緒に暮らしているにすぎません」
「一緒に?一緒に暮らしてるんだ?」
木縞さんは面白そうに笑う。
「そんな意味じゃないです!会社で用意した部屋が住める状態じゃなくて、俺の部屋で寝泊まりしてるだけなんです」
「秀雄(シュウシュン)の作るご飯はうまいだろう?」
「はい、まあ」
俺は思わず素直に答えてしまい、彼がまた笑う。
くそ、誘導尋問だ!
「クスクス。からかうのはそのへんにしておくよ。君は素直で面白いな。君のお陰で秀雄(シュウシュン)は随分救われたはずだ。ありがとう」
「あなたにお礼を言われる筋合いはありません。だいたい、なんで奥さんがいるのに王さんと付き合ったんですか?」
俺は木縞さんを動揺させたくて、そう聞く。
この人は嫌いだ。
俺を不快にさせる。
「……誘われた。最初は女だと思ったんだ。男だとわかって驚いたけど、一度抱いたら離れられなくなった」
最低だ。
信じられない。
「最低ですね」
俺は彼にダメージを与えようと精一杯冷たく言い放つ。
「ああ、確かに。そのおかげで妻が病気になった。だから、私は彼と別れることにした。彼は魅力的だか、妻を捨てるわけにはいかなかった」
な、なんだよ。それ!
「だったら、捨てられた王さんはどうなんですか!」
俺は彼がお客さんであることを完全に忘れ、怒鳴りつける。
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何が大丈夫だ。
やっぱりこの人、最低だ。
「でも彼はあなたを想って泣いてましたよ。始めから付き合わなければよかったんだ」
俺がそう言うと彼は目を細めて窓の外を見る。
「そんなことわかってる……」
そして木縞さんは唇をきゅっと噛むとつぶやいた。
俺酷い事を言ってる。でもあの王さんを見ていたら言わずにはいられなかった。
「秀雄(シュウシュン)を頼む。君なら彼を幸せにできるだろう」
「幸せ?!俺は彼のただの同僚で、」
「でも君は彼のために必死だ。それは好きだってことじゃないのか?」
「……」
違う。俺は違う。
ただ悲しむ王さんが見たくないだけだ。
恋愛感情なんかじゃ絶対にないはずだ。
コンコン、
俺が言葉を詰まらせているとドアをノックする音がして山騨さんが現れる。
「遅くなりました。これが資料です」
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「実田さん、ここにホテルの建設概要が書かれている。これを見て来週までに照明に関して見積書を作ってくれ。もし間に合わなければ他の業者を使う」
木縞さんは先ほどまではまったく別人のように表情を変え、俺を見つめる。
この人は仕事とプライベートを完全に別けている人だ。
負けたくない。
「わかりました。来週半ばまでには提出します」
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