クチナシの薫りは醒めない

ありま氷炎

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第六天 覚悟を決める時?(勇視点)

彼と俺の気持ち2

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「王さん」
 そう呼びかけ、襖をノックする。
「何のご用でしょうか?」
 不機嫌そうな王さんの声が聞こえた。しかし白酒で酔った俺はそんなのこと構わなかった。
「入ります」
 俺は彼の返事を聞くこともなく、部屋に入る。
「実田さん?」
 俺の様子がおかしいことに気がついたんだろう、王さんが訝しげに俺に視線を投げかける。
「王さん、俺、あなたが好きです。ずっと側にいてほしいと思ってます」
「!実田さん?酔ってますね。白酒ですか?」
 告白した俺に彼は苦笑いを見せる。
「はい、白酒飲みました。でも、俺酔ってません。俺が王さんを好きなのは本当です。でも俺はホモじゃないから。どうしていいかわからないし、怖いんです」
「……きっとあなたは明日も覚えてないのでしょうね」
「そんなことありません!」
「……キスしていいですか?」
「!」
 彼のキラキラと輝く双眸の瞳に魅入られ、俺はぎくりと体を強張らせる。
「怖いですか?大丈夫。無理やりなんかしませんから」
 立ちすくむ俺に彼は近付くと、俺の首に手を回す。ふわりと甘い香りがして俺は目を閉じる。
「実田さん。私はあなたが好きです。素直で可愛いあなたが。でも、私はあなたがゲイじゃないことを知っていますし、ゲイになることを怖がってることも知ってます」
 耳元で囁かれることで、俺はぞくぞくと身が悶えるような感覚にとらわれる。お互いが触れる体の部分から彼の鼓動が伝わり、俺は彼も緊張しているのがわかる。
「実田さん、好きです」
 彼が俺の唇に自分の唇を重ねる。彼の舌がゆっくりと俺の口の中に侵入してきて俺の舌と絡み合う。俺は彼にされるがまま、キスに答える。
 男とキスをしてる。しかもこんな深いキスを……
 そんな意識は酔いと共と、快楽の中に埋もれて行く。
「あっん」
 ふいに悪戯のように耳たぶを噛まれ、俺は女の子のような喘ぎ声を出す。
 羞恥のあまり、俺は耳を押さえて顔を真っ赤にさせる。
「耳たぶが弱いのですね。その声を聞くと錫元さんもやる気になりますよね」
 錫元?なんで彼の名を!
「あっ」
 しかし俺のそんな怒りも彼の再度の悪戯によりかき消される。
 どうしようもないくらい、気持ちが高まっていた。
 前にセックスしたのは半年前くらいだ。 
元からセックスはあまり好きじゃない。オナニーをしていたほうが気持ちいいくらいだった。
「性急すぎますね。今日はこれだけにしておきますね」
 しかし王さんはくすっと笑うと俺から離れた。 
 中途半端に置いておかれ、俺は呆然と彼を見つめる。
「実田さん、次回はお酒を飲まずに私を誘ってください。そうじゃないと私は信じられない」
「信じられらない?」
「そうです。あと、このまま酔ったあなたを押し倒してしまいたくなりますし」
 彼の艶めかしい笑みに俺はどぎまぎして顔を再び真っ赤に染める。
「試すような真似をしてすみませんでした。あなたのことを大切にしたいですし、他の誰かにあなたを奪われるのが嫌なのです」
「王さん……」 
 俺は彼から語れる言葉は信じされず、ただ彼の顔を見つめる。
「さあ、寝てください。あなたがこのベッドを使ってくださいね。さもないとあなたがまた白酒を飲みそうです。今夜こそ、忘れないでください」
 彼はそう俺に囁くと部屋を後にする。

 襖がぱたんと閉まり、俺だけが取り残された。

 胸がどきどきしていた。 体はまだ火照ったままだ。
 俺は単純に彼が俺を好きなことを喜んでいた。
 あんなに抵抗があった、彼が男であるということ、それは今の俺にとって何も意味をなさないものだった。

「おやすみなさい」
 襖越しに彼の声が聞こえ、ぱちんと照明が消える。
 寝たのだろうか?

 襖を開け、彼を見たい衝動に駆られる。でも俺はそれを押さえるとベッドに横になった。先ほどまで彼がベッドに横になっていたのか、彼の香りが鼻を刺激し、俺は彼に触れた感触を思い出す。
 俺は……ホモじゃない。でも彼は好きだ
 心はもう隠せない。その後のことは知らない。 
 
 俺は眠ろうと顔を枕に押し付ける。すると彼の香りが俺を包み込み、その心地よさに身をゆだねる。
 俺はまた忘れてしまうのか。
 忘れてたくない。
 今夜だけは……

 俺は自分に襲いかかる睡魔にそう強く願う。しかし答えは返らぬまま、俺は眠りに落ちて行った。

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