クチナシの薫りは醒めない

ありま氷炎

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第七天 正直になろう。でも……(勇視点)

彼の悪戯

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「……実田さん、昨日の夜のこと覚えてますか?」
 中華料理を堪能し、俺が腹いっぱいと壁によりかかっていると、彼がぼそっとそう聞いてきた。
 それは彼にしては珍しく歯切れが悪い感じだった。
「……覚えてます」
 俺は壁から体を起こすと王さんを見つめる。
 彼はすこし驚いたような表情を見せたが、安堵しているようだった。
 言わないと、俺の気持ち。
 昨日は酔ってたから、今日こそは……
 俺は彼を見つめると口を開く。
「……あの時言った気持ちは正直な気持ちです。王さん、俺、あなたが好きです」
「実田さん……」
「王さん、俺、でも、やっぱりそういうの怖くて…。だから、」
 俺の言葉途中で彼が俺の唇をその長い指で塞ぐ。
「わかってます。今はあなたが私のことを好きだと言うことだけ十分です。でも…キスはしてもいいですか?」
「はい」
「よかった」
 王さんはやわらかく笑うと俺の頬を撫でる。
「実田さん。あなたみたいな人は初めてです。優しくて純粋で、好きです」
 彼はそっと俺にキスをする。
 始めは啄ばむようにキス、しかし彼の動きが徐々に熱を帯びる。俺も思わず彼を求めるように口付けを返し、俺達はいつの間にかむさぼるようにキスをしていた。

「はっつ」
 俺は自分のものが熱を帯びてくるのがわかり、慌てて彼から離れる。
 キスだけなのに息が上がり、俺は自分が発熱しているのがわかった。
「……すみません。俺トイレ」
 俺は自分の体の状態に気づかれたくなくて、慌ててそう言うとトイレに走る。彼が俺の背中を見ているのがわかったが、俺は気づかない振りをした。
 トイレに入り、俺は自分のあれが完全に立ってるのを見て愕然とする。

 俺、やばい。
 キスだけなのに、しかも男と、感じるなんて、やばい。
 俺は小便をした振りをしていったんトイレから出る。

「王さん、俺先にシャワー浴びますね」
 そして彼にそう言うと今度はバスルームに駆け込んだ。


 10分ほど熱いシャワーを浴び、俺のあれも元の大きさにもどったことを確認して俺はバスルームも出る。
 これで大丈夫。俺は安堵して王さんのいる居間に向かう。
「あれ、王さん?飲んでます?」
「はい。なんだか飲みたくなって」
 王さんは白酒の瓶を指差す俺に肩をすくめて答える。頬がちょっぴり紅潮しているようで、可愛かった。
「俺も……いいですか?」
 俺はそんな王さんと飲みたくなって、思わずそう聞く。
「……いいですよ」
 王さんは一瞬迷ったが、にこりと笑い、グラスを取るため席を立った。
「ありがとうございます」
 彼からグラスを受け取り、お酌をしてもらう。なんだか瓶に両手を添えて白酒を入れてもらう仕草が妙に色っぽくて、俺はじっと彼を見てしまった。
「すみません。何かおかしいですか?」
「あ、なんでも」
 あ、だめだ。今日の俺は本当に王さんにめろめろだ。
 だってこんな綺麗な人、本当にいない。
『俺が同居していたら襲うかもな』
 ふと灘の言葉がよぎり、俺はぎくりと体を強張らせる。
 ありえない、ありえない。
 そんなこと。
「実田さん?」
 頭をぶるんぶるんと振り回す俺を王さんが首をかしげて見る。その唇が濡れていて、先ほど彼とむさぼるようにキスをしたことを思い出す。
 するとカアーと体が発熱し始める。
 息子よ。だめだ、我慢しろ。男の意地だ。
 俺は自分の衝動を抑えるため、心の中で呪文のようにそうつぶやく。
「か、乾杯しましょうか?」
 飲んでしまおう。早く。酔えばアホなことは考えなくなるはずだ。
 俺がグラスを掲げると王さんが頷き、同じようにグラスを持つ。
「乾杯~」
 そして俺達はグラスを重ね合わせ、飲み始めた。

「実田さん、もうそろそろやめたほうがいいです。明日また記憶がないですよ」
「いいんです。飲まないと俺やっていけないですから」
「やっていけない?」
 白酒を飲んでまた陽気になった俺は恥も外聞を頭のどこかにいってるようだ。王さんに思った事をべらべらと話していた。
「だって、酔わないと俺、王さんを襲ってしまうかもしれません」
「襲う?それは危険ですね」
 王さんも今日はかなり飲んでるらしい、酔っ払いの俺にくすくすと対応する。
「本当ですよ。今は白酒飲んでて気持ちいいからいいですけど、もし飲まないと俺は王さんを抱きたいと思ってしまうかもしれないですから」
「……私は抱いて欲しいと思っているのですけど」
「?」
 酔っ払いの俺の脳はやはり腐っているようで、王さんの言葉の意味を理解するのに相当時間がかかる。
「そ、そんな。俺やり方わからないし。きっと王さんに痛い思いさせるはずだからだめです」
 意味がわかったにも関わらず、完全泥酔の俺はそんなことを言う。
「痛くないですよ。むしろ気持ちいいだけなのですけど」
 王さんも酔っているためか、頬が淡いピンクに紅潮している。そして目元の長い睫毛が濡れたようにしっとりして、色気を漂わせていた。
「王さん」
「だめですね。酔ってるあなたを誘うなんて。酔わないあなたが正直に言ってくれれば、私が気持ちよくさせてあげるのですけど」
 小さく開かれた艶やかな唇、憂いを帯びた上目遣いで見られ、俺は完全にノックダウンだった。彼を引き寄せると強引に唇を奪う。
「実田さん!まったく、もう」
 ロマンもへったくれもない俺に、王さんがキスの合間に呆れた声を出す。
「どうせ、明日は記憶がないのですよね。でしたら、ちょっといたずらさせてもらいますから」
 そう言うとふいに視界が反転する。俺が彼を襲っていたはずが、立場が逆になっていた。畳のひやりとした感触が背中から伝わる。
「お、王さん!」
 俺は彼の瞳が煌めくを見て、少しだけ恐怖を感じた。
「怖がらないで。痛いことはしませんから」
 俺を諭すような優しい声音で囁き、彼が今度は自分から唇を重ねる。白酒の香りを伴い、彼は俺を快楽に導く。
「王さん……」
「好きです。実田勇(实田勇 シィティエンヨン)」
「し、ティエン?」
「あなたのことです。何も考えないで。ただ感じるままに」
 彼はそう囁き、再びキスを落とす。そうして俺は彼にされるがまま、心地よさの中、眠りに落ちていった。
 
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