クチナシの薫りは醒めない

ありま氷炎

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第十一天 我可爱的人ー私の可愛い人(秀雄視点)

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「お待たせして申し訳ありません」
 勇(ヨン)はそう言って先に部屋に入る。彼に気持ちが伝わったのか、笑顔とは言わずとも不機嫌な顔を見せることはやめていた。あの後、彼は「すみません」と言い、私のキスに答えた。そうして私達はお互いの息が上がるまでキスに熱中した。

「いやいや、忙しそうだね。スープが冷めないうちに戻ってきてよかったよ」
 勇(ヨン)に続き、部屋に入った私に村田さんはにこやかな笑みを浮かべる。善樹(シャンシュ)がどこまで彼に話しているかわからないが、彼は私達が5分以上も席を開けたことに怒りを見せなかった。
 深く考えてもしょうがない。善樹(シャンシュ)のことだし、悪いことはいってないだろう。
「おいしいですね」
 スープを一口飲み、勇(ヨン)が感動の声を上げる。すっかり調子を取り戻した彼は村田さんと仲良く話を始める。
 村田さんはどうやら勇(ヨン)のことを気にいっているようだ。それは多分、善樹(シャンシュ)もそうで、勇(ヨン)が時折見せる不躾な態度に怒りを見せることはなかった。

 彼はそうだ。
 その素直さ、誠実さは人を信じさせる。子供っぽさが邪魔をしなければ、彼はきっといい人材になるだろう。

 白身魚の蒸しもの、鮑とアスパラ炒め、車海老のニンニク炒めが続き、村田さんのお勧めの蟹のチリソースかけが出てきた。
「これはシンガポールで生まれた中華料理なんだよ。日本でもなかなか売ってる店がなくて、この店で発見した時は感動したよ」
 村田さんはほくほくと笑いながらそう説明する。
 真っ赤なソースがたっぷりとかかった蟹が丸ごと皿の上に置かれており、からっと油で揚げた小さな饅頭(まんとう)が別皿に添えてあった。

 初めて見る……。

 中国は大きいし、場所によって色々な食べ物がある。それは日本も同じだろうが、私は吉林省出身だから、北の中国料理を好む。米よりも麺類で、南方より辛いものを好む。
 シンガポールという国は南の中国人が移り住んでおり、きっとこのチリクラブという食べ物も移住者が開発した新しい中華料理なんだと思った。


「おいしい!」
「はい」
 恐る恐る蟹の脚を頂き、割って食べてみるとそのおいしさに感動する。私と勇(ヨン)は顔を合わせて微笑み合う。
「おいしいか。よかった。満足してくれて」
「秀雄(シュウシュン)も食べれるんだな。それはよかった」
 村田さんの横で善樹(シャンシュ)も頷き、安堵してる様子だった。私は意外に偏食で好き嫌いが激しい。だからといって、物を残すのは嫌いなので食べられないものはないけど、誰も好き好んで嫌いなものは食べない。
 味噌汁だって飲めるけど、好きではない。だから日本に来ることがきまり、自炊することを決め、いろいろもってきた。でも結局、日本に多くの中華料理屋があることがわかり、それは取り越し苦労だったけど。
 
「デザートです」
 胃が満杯なるまで食べ、もう食べられないという状態で運ばれてきたのは、最後のデザート・杏仁豆腐だった。冷たそうなそうなそれは私を誘い、ぺろりと食べてしまった。

「ありがとうございました」
 ぎこちない日本語でそう言われ、私達は店を出る。
 一時はどうなるかと思ったが、勇(ヨン)がいつもの様子に戻り、夕食は和やかに終わった。
「これから飲みにいかないかね」
 店の前で、村田さんがそう誘いをかける。
 誘いにのるべきだ。
「そうですね。行きましょう。次は俺、いえ私が持ちますから」
 勇(ヨン)はにこりと笑うとそう答える。
 忘れていたが彼は営業の人だった。こういう時、彼は少し頼もしく見える。
「それは嬉しいな。じゃあ、今度は私の行きつけのお店に行きましょう。白酒もあって、雰囲気が落ち着いてるんだ」
 白酒……
 私はちらりと勇(ヨン)を見る。彼にとって白酒は鬼門だ。飲ませるべきじゃない。
 でも行かないわけにはいかないし……
「しゅ、王さん。どうしました?」
 私がそんなことを考えている間に、一行は次の場所へと歩き出していたらしい。
 3人が私に笑顔を向けている。
「はい。今行きます」
 今日は勇(ヨン)に白酒を飲ませないようにすべきだ。
 私は自分の使命をそう決めると、彼らの後を追った。
 
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