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第二章 魔王
2-3 三者三様
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タリダスは天幕に戻り、箱の上に座った。野営では木箱を椅子の代わりにしていた。
今や英雄と崇められているユウタの天幕よりも少し小さめの天幕に、タリダスは副団長と共に寝泊まりをしている。
副団長以下は、十人ほどが一つの天幕を使っており、ケイスは他の団員たちと寝食を共にしていた。
以前ケイスは騎士団員として立派に務めあげており、彼が戻ってきたことを懐かしむ声が多い。
タリダスは内心面白くないが、団長たるもの自身の感情を抑えて行動していた。
ユウタとも随分距離ができてしまった。
アルローのように振る舞い始めたユウタに、前と同じように接することができなくなり、距離はどんどん開いていく。
今となっては、タリダスは途方にくれるしかなく、アルローとしてユウタに接してしまっていた。
その度に、彼が悲しそうな顔を見せ、タリダスも以前のように彼に触れ、話したいと思うが、その一歩を踏み出せなかった。
今日はユウタに呼ばれ、久々に二人っきりだったにもかかわらずタリダスは自身の態度を変えることができなかった。
「私は、愚か者だ」
アルローのように見えても、彼はユウタに違いない。彼が異世界から連れてきて保護した少年だ。アルローとは関係なく、タリダスが守りたいと想った少年。
しかし今は遠くから彼を見守るだけだ。
「これでいいのだ。私が守らなくても」
「タリダス様」
「どうした?」
「ジニーから伝言を承っております。ケイスが近づいているがいいのかと」
それだけで、タリダスは理解した。
彼はユウタから距離を保っているが、依然としてジニーをそばに付かせていた。ユウタも嫌がるそぶりはみせないので、そのままジニーを警護につかせていた。
「タリダス様」
「夜からまた戦闘だ。休める時に休んでいろ。私は少し用ができた」
ケイスがユウタに近づく。
そう考えると居てもたってもいられず、タリダスは天幕を後にした。
☆
「ユータ様。少しお話ししたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「ケイス。ごめん。疲れているんだ。明日でいい?」
ユウタはケイスを避けていた。
タリダスが傍にいるときは自身を保てるが、二人っきりになった時にアルローの気持ちに吞まれるのが怖いからだ。
なので天幕の中から、外にいるはずのケイスに返事をする。
「急ぎの用件なのです」
「……それならタリダスも同席させる。タリダスも呼んできて。ジニー。そこにいるんでしょう?タリダスを呼んできて」
「はい」
「ユータ様。私はあなたと二人だけで話をしたいのです」
ケイスは不意に影から現れたジニーを睨みながら、そう言い募る。
「ごめん。それはできない。絶対に」
「ユータ様」
「ヘルベン卿!」
ジニーと入れ違いのようにタリダスが姿を現す。
少し髪が乱れていて、急いできたのが見て取れる。
ケイスは忌々しそうにタリダスを睨む。
「タリダス。来てくれたんだね」
ユウタは嬉しくなって、天幕を飛び出る。
タリダスが傍にいれば、ケイスと話していてもアルローの気持ちに呑まれることはない。
「ケイスが話があるみたいなんだ。一緒に聞いてくれる?」
「勿論です」
タリダスはユウタの笑顔に少し戸惑い、同時に嬉しくも思う。
ケイスは表面上は笑顔を讃えているが、内心は面白くなかった。
彼が戦場にいる目的は、フロランへの報告ともう一つあった。
『アルローを誘惑してくれる?君はウィルにそっくりだ。そんな君が傍にいればアルローは君のことが気になって仕方なくなるだろう。私はアルローと仲良くしたいんだ』
フロランの意図はわからない。
しかし、主人である彼の命令だ。従うのは道理だ。
ケイスはそう思い行動しているつもりだった。自身がユウタに惹かれているという気持ちを誤魔化すように、フロランの命令だと言い聞かせる。
そうして、ユウタの後を追うタリダスの背中を見据えながら、天幕へ入った。
☆
「ご機嫌斜めですね」
宰相フロランの部屋を訪れた前王妃ソレーヌは眉をぎゅっと寄せ、表情を作ることもしてなかった。
「当たり前でしょう。フロラン。あなたには危機感はないの?」
「危機感?当然ありますよ。魔物が現れ、まだ討伐しきれてませんから」
「私は言葉遊びにきたわけじゃないわ。ユータのこと、どうするつもりなの?」
「アルロー様には役目を果たしてもらいますよ。聖剣の唯一の使い手なのですから」
「……魔物を消し去った後、どうするつもりなの?」
「どうしましょうかね。困ったことになってしまいますか」
「ふざけないでちょうだい。フロラン」
「ふざけてなどおりませんよ。ソレーヌ様はどうされたいのですか?」
フロランは笑みを湛えて、ソレーヌを見つめていた。
「……あなたにまかせるわ」
「はい。おまかせください。ソレーヌ様のご期待に答えましょう」
今や英雄と崇められているユウタの天幕よりも少し小さめの天幕に、タリダスは副団長と共に寝泊まりをしている。
副団長以下は、十人ほどが一つの天幕を使っており、ケイスは他の団員たちと寝食を共にしていた。
以前ケイスは騎士団員として立派に務めあげており、彼が戻ってきたことを懐かしむ声が多い。
タリダスは内心面白くないが、団長たるもの自身の感情を抑えて行動していた。
ユウタとも随分距離ができてしまった。
アルローのように振る舞い始めたユウタに、前と同じように接することができなくなり、距離はどんどん開いていく。
今となっては、タリダスは途方にくれるしかなく、アルローとしてユウタに接してしまっていた。
その度に、彼が悲しそうな顔を見せ、タリダスも以前のように彼に触れ、話したいと思うが、その一歩を踏み出せなかった。
今日はユウタに呼ばれ、久々に二人っきりだったにもかかわらずタリダスは自身の態度を変えることができなかった。
「私は、愚か者だ」
アルローのように見えても、彼はユウタに違いない。彼が異世界から連れてきて保護した少年だ。アルローとは関係なく、タリダスが守りたいと想った少年。
しかし今は遠くから彼を見守るだけだ。
「これでいいのだ。私が守らなくても」
「タリダス様」
「どうした?」
「ジニーから伝言を承っております。ケイスが近づいているがいいのかと」
それだけで、タリダスは理解した。
彼はユウタから距離を保っているが、依然としてジニーをそばに付かせていた。ユウタも嫌がるそぶりはみせないので、そのままジニーを警護につかせていた。
「タリダス様」
「夜からまた戦闘だ。休める時に休んでいろ。私は少し用ができた」
ケイスがユウタに近づく。
そう考えると居てもたってもいられず、タリダスは天幕を後にした。
☆
「ユータ様。少しお話ししたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「ケイス。ごめん。疲れているんだ。明日でいい?」
ユウタはケイスを避けていた。
タリダスが傍にいるときは自身を保てるが、二人っきりになった時にアルローの気持ちに吞まれるのが怖いからだ。
なので天幕の中から、外にいるはずのケイスに返事をする。
「急ぎの用件なのです」
「……それならタリダスも同席させる。タリダスも呼んできて。ジニー。そこにいるんでしょう?タリダスを呼んできて」
「はい」
「ユータ様。私はあなたと二人だけで話をしたいのです」
ケイスは不意に影から現れたジニーを睨みながら、そう言い募る。
「ごめん。それはできない。絶対に」
「ユータ様」
「ヘルベン卿!」
ジニーと入れ違いのようにタリダスが姿を現す。
少し髪が乱れていて、急いできたのが見て取れる。
ケイスは忌々しそうにタリダスを睨む。
「タリダス。来てくれたんだね」
ユウタは嬉しくなって、天幕を飛び出る。
タリダスが傍にいれば、ケイスと話していてもアルローの気持ちに呑まれることはない。
「ケイスが話があるみたいなんだ。一緒に聞いてくれる?」
「勿論です」
タリダスはユウタの笑顔に少し戸惑い、同時に嬉しくも思う。
ケイスは表面上は笑顔を讃えているが、内心は面白くなかった。
彼が戦場にいる目的は、フロランへの報告ともう一つあった。
『アルローを誘惑してくれる?君はウィルにそっくりだ。そんな君が傍にいればアルローは君のことが気になって仕方なくなるだろう。私はアルローと仲良くしたいんだ』
フロランの意図はわからない。
しかし、主人である彼の命令だ。従うのは道理だ。
ケイスはそう思い行動しているつもりだった。自身がユウタに惹かれているという気持ちを誤魔化すように、フロランの命令だと言い聞かせる。
そうして、ユウタの後を追うタリダスの背中を見据えながら、天幕へ入った。
☆
「ご機嫌斜めですね」
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「当たり前でしょう。フロラン。あなたには危機感はないの?」
「危機感?当然ありますよ。魔物が現れ、まだ討伐しきれてませんから」
「私は言葉遊びにきたわけじゃないわ。ユータのこと、どうするつもりなの?」
「アルロー様には役目を果たしてもらいますよ。聖剣の唯一の使い手なのですから」
「……魔物を消し去った後、どうするつもりなの?」
「どうしましょうかね。困ったことになってしまいますか」
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「ふざけてなどおりませんよ。ソレーヌ様はどうされたいのですか?」
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