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第二章 魔王
2-11 宰相フロラン
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「陛下。ユータ様がお目覚めになられたそうです」
「知っている」
フロランにロイは冷たく返す。
二人の会話はいつも冷え冷えとしている。
いつからこのようになってしまったのか、フロランはその理由を知っている。だが、自ら話すつもりはなかった。
ユウタの朗報に、ソレーヌだけが面白くなさそうな顔をして、すぐに表情を元に戻した。
王妃も本来ならばこの場にいるはずなのだが、ロイが彼女を同席させなかった。気分が悪くなるものだとわかっていたからだ。
「私は、ユータに王位を譲るつもりだ」
「何を言ってるの!ロイ!」
「何を言っている、その言葉をあなたにお返しする。母上」
「ロイ?」
「私は正当な跡取りではない。王家の血はしっかり引いているがな」
「ロイ、あなた、何を」
「私の父は、アルロー・ハルグリアではない。宰相、フロランが私の本当の父であろう。母上」
母ソレーヌに問いながら、ロイはフロランを睨みつける。
「あなた、それをどこで。フロラン!あなたまさか!」
「母上。フロランは私に何も言っていない。彼は最初から優秀な宰相だった。父、アルローへの嫉妬心がなければ、問題ない王の右腕だ。もっとも、お前自身が王になりたかった、のであろう?フロラン」
「ははは。陛下。聡いですね。さすが、アルローの息子だ」
「何を言って」
「ええ、あなたは血筋だけをみれば私の息子だ。だけど、その考え方など吐き気がするほどアルロー寄りだ」
フロランは初めて感情を剥き出しにして吐き捨てる。
いつも軽口を叩き、笑顔を浮かべている宰相の姿はそこになかった。
「私の息子なのに、あなたはアルローそっくりで虫唾が走る。その話し方、行動。どれもアルローのようだ」
激白とも言える彼の言葉。
ロイもソレーヌも呆然と彼の言葉を聞き続ける。
「私は、アルローが憎かった。すべて手に入れたあの男が。だから、ソレーヌ様に近づき、純潔を奪い、めちゃくちゃにしてやりたかった。なのに、アルローはなにも言わなかった。私が何をしても困ったように笑うだけ。それならば、殺してやろうと思った。その時、やっと私を罵るだろうと思った。しかし、アルローは何も言わず、死んだ。毒と知っていて薬を飲み続けたんだ」
ロイはそのことを知っていた。しかし改めて聞かされただ項垂れる。ソレーヌは呆然自失でフロランを眺めている。
「もう十分だ」
大きな溜め息を吐いた後、彼はいつもの感情が読めない笑みを浮かべた。
「私が前王アルローを毒殺いたしました。陛下を傀儡として国を治めるために」
「フロラン?」
「陛下。いえ、ロイ。あなたは立派に育ちました。私の血を引きながらもまっすぐに、アルローのように。あなたは王にふさわしい。私がそばにいなくとも、あなたは立派に国を治めていけるでしょう」
フロランは一旦言葉を切ってから、ソレーヌを見つめる。
「ソレーヌ様。あなたは、何も知らなかった。あなたはアルローの子を産んだ。わかりましたね」
「ふ、フロラン?」
「私はもう満足です。生まれ変わった彼は、アルローではありませんでした。アルローは私が殺したのです」
フロランの笑みは影がなく安堵したような穏やかなものだった。
「陛下。ハルグリアをお願いします」
フロランは深々と頭を下げると、退出の許可も待たず、二人に背を向けた。
☆
翌日、ハルグリアの王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
宰相フロランが自害したのだ。
遺書にはフロランがこれまで犯した罪や、共謀した貴族の名前が書かれており、騎士団長であるタリダスは忙しく走りまわることになる。
ロイはショックを受けながらも、フロランの残した書類などを元に、次々と貴族を弾劾していった。その隣で王妃ジョアンヌが彼を支え続けた。
前王妃ソレーヌは与えられた離宮から姿を現すことなかった。寝室にこもってると聞き、ロイが彼の専属の侍女を派遣した。それはフロランの後を追って彼女が自害するのではないかと恐れたからだ。
ソレーヌがどのような者であっても、彼女は紛れもなくロイの母親であったのだから。
タリダスは帰宅が遅くなっても、ユウタに顔を見せていたが、帰りがかなり遅くなるにつれて、彼に先に寝るように伝えた。
「何かあったのかな?アズは何か知っている?」
「俺が知るわけないだろう」
アズはユウタと同じ歳だった。
別世界に生まれた二人。
ユウタは神が誤って二人を別世界に転生させたのでは、そう考えていた。
もしアズが日本で彼の両親の子として生まれていたらと、想像することも少なくない。自身に冷たかった両親、もしも。
「ユウタ様。また暗い顔してる。変なこと考えてるんだろう。タリダス様は大丈夫だぞ。きっと」
「うん。わかってる」
タリダスのことは心配しておらず、お門違いの慰めだったが、ユウタは笑う。
(過去には戻れない。だったら今幸せになるしかない。僕も、アズも)
「アズ。何かしたいことある?」
「別に。あんたやタリダス様にはよくしてもらってるし。なんていうか申し訳ないぐらいだ」
「申し訳なくなんかないよ。あ、僕が言うことじゃないか。僕も居候だし」
「居候って、あんたは違うだろ」
アズはユウタが前王のアルローの生まれ変わりだと周りから教えられ、一時期恐縮してしまい、ユウタに畏まった態度をとっていた。しかし、彼が嫌がるので元の態度に戻している。
「一緒だよ。ちょっと自立しなきゃ。何ができるかわからないけど」
「そんな必要ないと思うけど。俺は立場的にやばいから、タリダス様が戻ってきたら王都から離れるつもりだ。どっかで仕事を見つける」
「あ、一緒に旅をする約束してた。僕も一緒にいくよ」
「ダメに決まってるだろう。約束も忘れていいからさ」
「なんで、ダメなの?」
「ああ、なんでわかんねえんだよ」
アズは頭を抱えて座りこんだ。
彼は村で虐待を受けていたのにもかかわらず、人を恐れたりすることはなかった。ユウタはそんな彼を尊敬していた。屋敷に馴染むのも早く、使用人の手伝いをしている。ユウタも一緒にやろうとすると止められるので、ユウタは不公平だと訴える。
しかし、前王アルローの生まれ変わりで、タリダスに大切にされている彼に使用人の仕事など頼めるはずがなかった。
「知っている」
フロランにロイは冷たく返す。
二人の会話はいつも冷え冷えとしている。
いつからこのようになってしまったのか、フロランはその理由を知っている。だが、自ら話すつもりはなかった。
ユウタの朗報に、ソレーヌだけが面白くなさそうな顔をして、すぐに表情を元に戻した。
王妃も本来ならばこの場にいるはずなのだが、ロイが彼女を同席させなかった。気分が悪くなるものだとわかっていたからだ。
「私は、ユータに王位を譲るつもりだ」
「何を言ってるの!ロイ!」
「何を言っている、その言葉をあなたにお返しする。母上」
「ロイ?」
「私は正当な跡取りではない。王家の血はしっかり引いているがな」
「ロイ、あなた、何を」
「私の父は、アルロー・ハルグリアではない。宰相、フロランが私の本当の父であろう。母上」
母ソレーヌに問いながら、ロイはフロランを睨みつける。
「あなた、それをどこで。フロラン!あなたまさか!」
「母上。フロランは私に何も言っていない。彼は最初から優秀な宰相だった。父、アルローへの嫉妬心がなければ、問題ない王の右腕だ。もっとも、お前自身が王になりたかった、のであろう?フロラン」
「ははは。陛下。聡いですね。さすが、アルローの息子だ」
「何を言って」
「ええ、あなたは血筋だけをみれば私の息子だ。だけど、その考え方など吐き気がするほどアルロー寄りだ」
フロランは初めて感情を剥き出しにして吐き捨てる。
いつも軽口を叩き、笑顔を浮かべている宰相の姿はそこになかった。
「私の息子なのに、あなたはアルローそっくりで虫唾が走る。その話し方、行動。どれもアルローのようだ」
激白とも言える彼の言葉。
ロイもソレーヌも呆然と彼の言葉を聞き続ける。
「私は、アルローが憎かった。すべて手に入れたあの男が。だから、ソレーヌ様に近づき、純潔を奪い、めちゃくちゃにしてやりたかった。なのに、アルローはなにも言わなかった。私が何をしても困ったように笑うだけ。それならば、殺してやろうと思った。その時、やっと私を罵るだろうと思った。しかし、アルローは何も言わず、死んだ。毒と知っていて薬を飲み続けたんだ」
ロイはそのことを知っていた。しかし改めて聞かされただ項垂れる。ソレーヌは呆然自失でフロランを眺めている。
「もう十分だ」
大きな溜め息を吐いた後、彼はいつもの感情が読めない笑みを浮かべた。
「私が前王アルローを毒殺いたしました。陛下を傀儡として国を治めるために」
「フロラン?」
「陛下。いえ、ロイ。あなたは立派に育ちました。私の血を引きながらもまっすぐに、アルローのように。あなたは王にふさわしい。私がそばにいなくとも、あなたは立派に国を治めていけるでしょう」
フロランは一旦言葉を切ってから、ソレーヌを見つめる。
「ソレーヌ様。あなたは、何も知らなかった。あなたはアルローの子を産んだ。わかりましたね」
「ふ、フロラン?」
「私はもう満足です。生まれ変わった彼は、アルローではありませんでした。アルローは私が殺したのです」
フロランの笑みは影がなく安堵したような穏やかなものだった。
「陛下。ハルグリアをお願いします」
フロランは深々と頭を下げると、退出の許可も待たず、二人に背を向けた。
☆
翌日、ハルグリアの王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
宰相フロランが自害したのだ。
遺書にはフロランがこれまで犯した罪や、共謀した貴族の名前が書かれており、騎士団長であるタリダスは忙しく走りまわることになる。
ロイはショックを受けながらも、フロランの残した書類などを元に、次々と貴族を弾劾していった。その隣で王妃ジョアンヌが彼を支え続けた。
前王妃ソレーヌは与えられた離宮から姿を現すことなかった。寝室にこもってると聞き、ロイが彼の専属の侍女を派遣した。それはフロランの後を追って彼女が自害するのではないかと恐れたからだ。
ソレーヌがどのような者であっても、彼女は紛れもなくロイの母親であったのだから。
タリダスは帰宅が遅くなっても、ユウタに顔を見せていたが、帰りがかなり遅くなるにつれて、彼に先に寝るように伝えた。
「何かあったのかな?アズは何か知っている?」
「俺が知るわけないだろう」
アズはユウタと同じ歳だった。
別世界に生まれた二人。
ユウタは神が誤って二人を別世界に転生させたのでは、そう考えていた。
もしアズが日本で彼の両親の子として生まれていたらと、想像することも少なくない。自身に冷たかった両親、もしも。
「ユウタ様。また暗い顔してる。変なこと考えてるんだろう。タリダス様は大丈夫だぞ。きっと」
「うん。わかってる」
タリダスのことは心配しておらず、お門違いの慰めだったが、ユウタは笑う。
(過去には戻れない。だったら今幸せになるしかない。僕も、アズも)
「アズ。何かしたいことある?」
「別に。あんたやタリダス様にはよくしてもらってるし。なんていうか申し訳ないぐらいだ」
「申し訳なくなんかないよ。あ、僕が言うことじゃないか。僕も居候だし」
「居候って、あんたは違うだろ」
アズはユウタが前王のアルローの生まれ変わりだと周りから教えられ、一時期恐縮してしまい、ユウタに畏まった態度をとっていた。しかし、彼が嫌がるので元の態度に戻している。
「一緒だよ。ちょっと自立しなきゃ。何ができるかわからないけど」
「そんな必要ないと思うけど。俺は立場的にやばいから、タリダス様が戻ってきたら王都から離れるつもりだ。どっかで仕事を見つける」
「あ、一緒に旅をする約束してた。僕も一緒にいくよ」
「ダメに決まってるだろう。約束も忘れていいからさ」
「なんで、ダメなの?」
「ああ、なんでわかんねえんだよ」
アズは頭を抱えて座りこんだ。
彼は村で虐待を受けていたのにもかかわらず、人を恐れたりすることはなかった。ユウタはそんな彼を尊敬していた。屋敷に馴染むのも早く、使用人の手伝いをしている。ユウタも一緒にやろうとすると止められるので、ユウタは不公平だと訴える。
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