男だと思われ夜這いされて、女だとバレてしまった件。ちなみに襲ってきたのは男です。

ありま氷炎

文字の大きさ
1 / 17

第1話 性別がばれてしまった。

しおりを挟む
 軍隊には男を好む男がいると聞いたことがあった。
 嘘だろうと思ったら本当だった。
 男らしい男が、友情の延長のように男にアプローチしたり、
 また女っぽい男が、男らしい男にアプローチしたり、
 いやはや、なんていうか驚いた。

 私は、もっと気を付けておくべきだった。
 自分がターゲットにならないと、思い込んでいたからだ。

「もう寝ちゃったかしら?」

 ルームメイトが不在のある日、扉が開いて、その人はやってきた。
 声だけで誰かわかった。
 副団長で、顔がめちゃくちゃ綺麗な人だ。
 たまに壇上で挨拶とかして、話し方が女性的だったし、きっとそういう趣味とも知っていた。
 だけど、まさか自分が狙われるとは思ってもいなかった。

「アノンくん」
「エルガート副団長!」

 私は彼の手に触れられる前にベッドから起き上がる。

「あら、恥ずかしがって。優しくしてあげるわよ」
「ああ、あの、私はそういう趣味はありませんので」
「最初はみんなそう言うの」

 エルガ―ト副団長はふふと笑う。
 巻き毛がくるくると顔の周りで巻かれていて、ドレスとか着ても全然似合いそうな方。おそらく私よりドレスが似合いそうだ。
 エルガート副団長と一夜を共にした男は皆骨抜きになるそうだ。
 そのせいで、彼に襲われて訴えたものは誰もいない。

「アルノくん」
「こ、困りますから!」
「随分可哀そうな声を出すのね。そんな高い声、女の子みたいよ。まさか!」

 副団長は素早く私を掴むと、シャツを破く。

「布が巻かれている。あなた、女の子なの?」
「す、すみません!」

 そう私は女なのだ。
 男性しか入れない軍に男と偽って入った。
 私の親は隣国の兵に殺された。だから、軍に入って隣国の奴らを殺してやろうと思った。
 だけど、これじゃあ、私の方が殺される。
 軍法会議で……。

「ちょうどいいわ。あなた、私の役に立って」
「はい?」

 翌日から私はエルガード副団長の謎に包まれた恋人役(女)をすることになってしまった。
 もちろん、普段は兵士として軍に従事する。
 彼がカモフラージュとして女性役が必要な時に、私が恋人の振りをするのだ。やはり彼の趣向が男性に向いていることは、家族にはよく思われていないようで、女の恋人ができたら、安心してもらえる。追及されない。そう思って、彼は私に女恋人役を頼むことにしたらしい。
 彼は貴族様なので、それに相応しいマナーとかを即席で教えてもらう。もちろん、バレないように彼の身内に会うのは超短時間だ。

「困ったわね。あなた、国境に異動よ。私も一緒に行こうかしら」
「エルガード副団長!それはだめですよ!」

 私の異動に彼を付き合わせてはいけないと私は反対する。

「でもあなた、私はいなくてバレない可能性あるの?」

 そう言われると黙るしかない。
 入団してから一か月で、副団長に私の性別がばれてしまった。それから三か月、何度かバレそうになる場面があり、庇ってもらった。ちなみに団内でも私は副団長と付き合っていることになっている。私は否定したのだけど、彼は面倒なのでそう言うことにしましょうと決めてしまった。

「が、頑張ります!」
「だめよ。やっぱり一緒に行く。国境でしょ?激戦地よ。こっちよりも鍛えた体が見れそうだし、行くわ。異動願い出しておくわね」
「も、申し訳ありません。今後も精進して恋人を務めさせていただきます」
「そうね。頑張って」

 エルガード副団長は微笑み、行ってしまわれた。

「お前、本当にエルガード副団長と付き合ってるんだなあ。異動先までついてくるとは。よっぽど、いいのかな」
「どういう意味で?」
「女みたいななりしているし、俺も試してみようかな」
「触るな!」

 どこからか、わらわらと評判の悪い男たちが現れる。
 どれも問題児で、エルガード副団長がこっぴどく叱っている姿を見たことがある。彼らは私と同じで平民だし、お貴族様の副団長に叱られても、歯向かう様子は見せなかったけど。
 やっぱり不満は覚えていたのか。
 私だって、遊んでいたわけではない。
 手を掴もうとした男の腕を捻って、投げ飛ばす。
 恐らく軍の平均より非力だが、非力なりに戦う方法は身に着けたつもりだ。

「この野郎!」
「待ちなさい!」

 もう一人の男が私の胸倉をつかんだところで、副団長が颯爽と現れ、男を殴りつけた。
 男は殴られた勢いで吹き飛ばされ、壁に激突する。

「大丈夫だった?」
「はい」

 彼が暴力を振るうのを初めてみた。
 そしてその力も。
 女性みたいに綺麗なので、私同様非力だと思っていたけど、それは間違いだった。

「もう、嫌になるわね。手が汚れちゃったわ。こいつらはもう駄目ね。処罰決定。異動する前に手続きするわ。だから大丈夫」
「あ、ありがとうございます」

 それから、私に絡んでくる輩は激変した。
 というか、変な噂が広まって、話しかけてくる輩も減ったみたい。

『エルガード副団長の恋人に近づいたら、嫉妬で半殺しにあるから気を付けろ』

 そんな事実でもない噂。
 否定したいけど、わざわざみんなに話すのもあれなので、放置するしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さくら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

七人の美形守護者と毒りんご 「社畜から転生したら、世界一美しいと謳われる毒見の白雪姫でした」

紅葉山参
恋愛
過労死した社畜OL、橘花莉子が目覚めると、そこは異世界の王宮。彼女は絶世の美貌を持つ王女スノーリアに転生していた。しかし、その体は継母である邪悪な女王の毒によって蝕まれていた。 転生と同時に覚醒したのは、毒の魔力を見抜く特殊能力。このままでは死ぬ! 毒殺を回避するため、彼女は女王の追手から逃れ、禁断の地「七つの塔」が立つ魔物の森へと逃げ込む。 そこで彼女が出会ったのは、童話の小人なんかじゃない。 七つの塔に住まうのは、国の裏の顔を持つ最強の魔力騎士団。全員が規格外の力と美しさを持つ七人の美形守護者(ガーディアン)だった! 冷静沈着なリーダー、熱情的な魔術師、孤高の弓使い、知的な書庫番、武骨な壁役、ミステリアスな情報屋……。 彼らはスノーリアを女王の手から徹底的に守護し、やがて彼女の無垢な魅力に溺れ、熱烈な愛を捧げ始める。 「姫様を傷つける者など、この世界には存在させない」 七人のイケメンたちによる超絶的な溺愛と、命懸けの守護が始まった。 しかし、嫉妬に狂った女王は、王国の若き王子と手を組み、あの毒りんごの罠を仕掛けてくる。 最強の逆ハーレムと、毒を恐れぬ白雪姫が、この世界をひっくり返す! 「ご安心を、姫。私たちは七人います。誰もあなたを、奪うことなどできはしない」

パン作りに熱中しすぎて婚約破棄された令嬢、辺境の村で小さなパン屋を開いたら、毎日公爵様が「今日も妻のパンが一番うまい」と買い占めていきます

さくら
恋愛
婚約者に「パンばかり焼いていてつまらない」と見捨てられ、社交界から追放された令嬢リリアーナ。 行き場を失った彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな村だった。 「せめて、パンを焼いて生きていこう」 そう決意して開いた小さなパン屋は、やがて村人たちの心を温め、笑顔を取り戻していく。 だが毎朝通ってきては大量に買い占める客がひとり――それは領地を治める冷徹公爵だった! 「今日も妻のパンが一番うまい」 「妻ではありません!」 毎日のように繰り返されるやりとりに、村人たちはすっかり「奥様」呼び。 頑なに否定するリリアーナだったが、公爵は本気で彼女を妻に望み、村全体を巻き込んだ甘くて賑やかな日々が始まってしまう。 やがて、彼女を捨てた元婚約者や王都からの使者が現れるが、公爵は一歩も引かない。 「彼女こそが私の妻だ」 強く断言されるたび、リリアーナの心は揺れ、やがて幸せな未来へと結ばれていく――。 パンの香りと溺愛に包まれた、辺境村でのほんわかスローライフ&ラブストーリー。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜

紅葉山参
恋愛
ブラック企業から辺境伯夫人アナスタシアとして転生した私は、愛する完璧な夫マクナル様と溺愛の新婚生活を送っていた。私は前世の「合理的常識」と「科学知識」を駆使し、元公爵令嬢ローナのあらゆる悪意を打ち破り、彼女を辺境の落ちぶれた貴族の元へ追放した。 第一の試練を乗り越えた辺境伯領は、私の導入した投資戦略とシンプルな経営手法により、瞬く間に王国一の経済力を確立する。この成功は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な嫉妬と警戒を引き寄せる。彼らは、辺境伯領の富を「危険な独立勢力」と見なし、マクナル様を王都へ召喚し、アナスタシアを孤立させる第二の試練を仕掛けてきた。 夫が不在となる中、アナスタシアは辺境領の全ての重責を一人で背負うことになる。王都からの横暴な監査団の干渉、領地の資源を狙う裏切り者、そして辺境ならではの飢饉と疫病の発生。アナスタシアは「現代のインフラ技術」と「危機管理広報」を駆使し、夫の留守を完璧に守り抜くだけでなく、王都の監査団を論破し、辺境領の半独立的な経済圏を確立する。 第三の試練として、隣国との緊張が高まり、王国全体が未曽有の財政危機に瀕する。マクナル様は王国の窮地を救うため王都へ戻るが、保守派の貴族に阻まれ無力化される。この時、アナスタシアは辺境伯夫人として王都へ乗り込むことを決意する。彼女は前世の「国家予算の再建理論」や「国際金融の知識」を武器に、王国の経済再建計画を提案する。 最終的に、アナスタシアとマクナル様は、王国の腐敗した権力構造と対峙し、愛と知恵、そして辺境の強大な経済力を背景に、全ての敵対勢力を打ち砕く。王国の危機を救った二人は、辺境伯としての地位を王国の基盤として確立し、二人の愛の結晶と共に、永遠に続く溺愛と繁栄の歴史を築き上げる。 予定です……

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

処理中です...