32 / 52
第五章 ざまぁの子は復讐を……。
5
しおりを挟む
がちゃがちゃと音を鳴らしながら進む甲冑姿の二人組。
ヴァンとメルヒだ。
甲冑の中で、メルヒはヒヤヒヤしながら歩いていたのだが、隣のヴァンはすれ違う騎士や使用人たちと軽口を叩くくらい余裕だった。
2か月近くメルヒは城にいるのだが、部屋に籠りっぱなしだったので王妃付の侍女と会話をするのみだった。会話といっても業務的なことで、彼女は少し羨ましく思いながらヴァンを見上げる。
「どうした?」
「なんでもない」
「メルヒ。本当変わったなあ。なんていうか可愛くなったな」
「か、可愛い。なんだ。それは」
「そんなこと言ったらセインに殺さるかもしれないな。ただでさえ、あいつには嫌われているのに」
「嫌われている?私がいない間一緒にいたんだろう?」
「ああ、5年はな。あとの4年はザイネルだ。そういえばザイネルの奴何もしてこないが……」
そう言いかけたところで、ヴァンは急に黙りこくった。
視線はまっすぐ前に向けられている。
ーーフェンデルだ。
前から近衛兵団長のフェンデルが歩いてきていた。
隣から緊張が伝わり、メルヒは甲冑の中で眉をひそめる。
彼らは仲間ではないのかと、疑問が浮かんできた。
「ジリン。団長室へついてくるように。隣の……」
フェンデルはヴァンの目の前で足を止め、メルヒを甲冑の上から見下ろす。
さすがに伊達に団長であり、その眼力はなかなか鋭い。
「丁度いい。君もついてくるといい」
--バレたのか?
確認したくて、ヴァンを仰ぎ見る。
「何もかもお見通しで。それでは団長室へ参りましょう」
顔も隠れているため表情は見えない。けれどもメルヒはヴァンが皮肉気に微笑んだ気がしていた。
フェンデルが踵を返して元来た道へ戻り、二人はその後を追った。
☆
「セインが幽閉されている?」
団長室へ入り、フェンデルは二人に席を勧めた後、信じられないことを口にした。
「彼が復讐を遂げようとしたらしい」
王と王妃に絶対の信頼を受けている彼は、何が起きたのか詳細を知っており、二人に広間で起きたことを語る。
「愛されているなあ。メルヒ」
「煩い」
ヴァンに茶化されたりもしたが、話しを聞き終わり、メルヒはすぐにセイン救出へ向かおうと腰を上げた。
「気が早いぞ。メルヒ」
それを諫めたのはヴァンで、動かないように甲冑の上から彼女の腕を掴んでいる。
「陛下と王妃殿下はセイン殿下を傷つける意図はありません。ただ公にすれば彼は反逆罪になります。だから病状に伏しているということで部屋に閉じ込めているのでしょう」
「閉じ込められていることには変わらないだろう!」
「静かに」
声を荒げたメルヒをフェンデルが冷静に諫める。
「で、裏切り者のフェンデルさんはどうする気なんだ?」
「裏切り者。まあ、確かに。私は私の意志には正直ですがね」
「お前の意志とは?」
メルヒにとって彼の裏切りは信じられないことで思わず聞き返す。
「言いたくありません。ただセイン殿下の全面的な味方なのは確かです」
「……信じるよ。俺は」
「ありがとうございます」
「私も、そういうことにしておく」
彼女は渋々と頷くと、セイン救出の計画を二人に説明し始めた。
☆
再びセインが目を覚ました時、部屋の中はまだ明るかった。
近くにお盆が置いてあり、そこに水の入った器とパンが置かれている。
ーーこれじゃまるで囚人みたいだな。
苦笑が込み上げてきて、セインは自分が意外に元気なことに気が付く。
ーーこれでは復讐とか言っている場合じゃないな。見事に捕まった。命を奪うつもりはないみたいだけど。
縄で擦り切れた手足首が何もなかったように元通りになっていた。
--治癒魔法か。本当になんでも魔法を使えるんだな。人で魔法を使えるのは稀有な存在のはずなのに。
『人は魔法を使えない』
不意にそんな言葉が閃いて、セインは首を傾げる。
ーーいや、人は使える。だって僕も使っていたし。ザイネルの魔法陣を使ってだけど。でもあの王妃は魔法陣を使ったようには見えなかった。そういえば人が魔法を使うのを王妃以外に見たことがない。……人自体あまり知らないか。
そう思いいたって、そんな状況に構わず彼は苦笑を漏らす。
人は体力的にも魔族より弱い。
その繁殖力が高いところだけが魔族より秀でているところだ。数の多さと、ごく一部の魔法が使える人によって、人は長年魔族と対等に争ってきた。
『人は魔法を使えない』
再びその言葉が思考に入り込む。
誰からそんなことを聞いたのかわからないが、その新しく生じた認識は彼に混乱をもたらせる。
魔王ザイネルからも、他の魔族からも人が魔法を使えることを聞いたことがある。アルビスさえ、それを肯定していた。もちろん全員ではなく一部の人なのだが。
ーーいったい……。
面倒なので床に転がったまま、そんなことを考えていると扉がゆっくりと開かれた。
また王たちが戻ってきたのかと顔を上げると、そこにいたのは甲冑姿の二人の騎士だった。
急に緊張感が増して、セインは慌てて体を起こし、何か武器になるものはないかと見回す。
「……セイン。俺だ」
「私もいるぞ」
騎士たちが兜を外して、彼は自身の目を疑った。
そこにいたのは一つ目のヴァンと、いなくなったはずのメルヒだった。
ヴァンとメルヒだ。
甲冑の中で、メルヒはヒヤヒヤしながら歩いていたのだが、隣のヴァンはすれ違う騎士や使用人たちと軽口を叩くくらい余裕だった。
2か月近くメルヒは城にいるのだが、部屋に籠りっぱなしだったので王妃付の侍女と会話をするのみだった。会話といっても業務的なことで、彼女は少し羨ましく思いながらヴァンを見上げる。
「どうした?」
「なんでもない」
「メルヒ。本当変わったなあ。なんていうか可愛くなったな」
「か、可愛い。なんだ。それは」
「そんなこと言ったらセインに殺さるかもしれないな。ただでさえ、あいつには嫌われているのに」
「嫌われている?私がいない間一緒にいたんだろう?」
「ああ、5年はな。あとの4年はザイネルだ。そういえばザイネルの奴何もしてこないが……」
そう言いかけたところで、ヴァンは急に黙りこくった。
視線はまっすぐ前に向けられている。
ーーフェンデルだ。
前から近衛兵団長のフェンデルが歩いてきていた。
隣から緊張が伝わり、メルヒは甲冑の中で眉をひそめる。
彼らは仲間ではないのかと、疑問が浮かんできた。
「ジリン。団長室へついてくるように。隣の……」
フェンデルはヴァンの目の前で足を止め、メルヒを甲冑の上から見下ろす。
さすがに伊達に団長であり、その眼力はなかなか鋭い。
「丁度いい。君もついてくるといい」
--バレたのか?
確認したくて、ヴァンを仰ぎ見る。
「何もかもお見通しで。それでは団長室へ参りましょう」
顔も隠れているため表情は見えない。けれどもメルヒはヴァンが皮肉気に微笑んだ気がしていた。
フェンデルが踵を返して元来た道へ戻り、二人はその後を追った。
☆
「セインが幽閉されている?」
団長室へ入り、フェンデルは二人に席を勧めた後、信じられないことを口にした。
「彼が復讐を遂げようとしたらしい」
王と王妃に絶対の信頼を受けている彼は、何が起きたのか詳細を知っており、二人に広間で起きたことを語る。
「愛されているなあ。メルヒ」
「煩い」
ヴァンに茶化されたりもしたが、話しを聞き終わり、メルヒはすぐにセイン救出へ向かおうと腰を上げた。
「気が早いぞ。メルヒ」
それを諫めたのはヴァンで、動かないように甲冑の上から彼女の腕を掴んでいる。
「陛下と王妃殿下はセイン殿下を傷つける意図はありません。ただ公にすれば彼は反逆罪になります。だから病状に伏しているということで部屋に閉じ込めているのでしょう」
「閉じ込められていることには変わらないだろう!」
「静かに」
声を荒げたメルヒをフェンデルが冷静に諫める。
「で、裏切り者のフェンデルさんはどうする気なんだ?」
「裏切り者。まあ、確かに。私は私の意志には正直ですがね」
「お前の意志とは?」
メルヒにとって彼の裏切りは信じられないことで思わず聞き返す。
「言いたくありません。ただセイン殿下の全面的な味方なのは確かです」
「……信じるよ。俺は」
「ありがとうございます」
「私も、そういうことにしておく」
彼女は渋々と頷くと、セイン救出の計画を二人に説明し始めた。
☆
再びセインが目を覚ました時、部屋の中はまだ明るかった。
近くにお盆が置いてあり、そこに水の入った器とパンが置かれている。
ーーこれじゃまるで囚人みたいだな。
苦笑が込み上げてきて、セインは自分が意外に元気なことに気が付く。
ーーこれでは復讐とか言っている場合じゃないな。見事に捕まった。命を奪うつもりはないみたいだけど。
縄で擦り切れた手足首が何もなかったように元通りになっていた。
--治癒魔法か。本当になんでも魔法を使えるんだな。人で魔法を使えるのは稀有な存在のはずなのに。
『人は魔法を使えない』
不意にそんな言葉が閃いて、セインは首を傾げる。
ーーいや、人は使える。だって僕も使っていたし。ザイネルの魔法陣を使ってだけど。でもあの王妃は魔法陣を使ったようには見えなかった。そういえば人が魔法を使うのを王妃以外に見たことがない。……人自体あまり知らないか。
そう思いいたって、そんな状況に構わず彼は苦笑を漏らす。
人は体力的にも魔族より弱い。
その繁殖力が高いところだけが魔族より秀でているところだ。数の多さと、ごく一部の魔法が使える人によって、人は長年魔族と対等に争ってきた。
『人は魔法を使えない』
再びその言葉が思考に入り込む。
誰からそんなことを聞いたのかわからないが、その新しく生じた認識は彼に混乱をもたらせる。
魔王ザイネルからも、他の魔族からも人が魔法を使えることを聞いたことがある。アルビスさえ、それを肯定していた。もちろん全員ではなく一部の人なのだが。
ーーいったい……。
面倒なので床に転がったまま、そんなことを考えていると扉がゆっくりと開かれた。
また王たちが戻ってきたのかと顔を上げると、そこにいたのは甲冑姿の二人の騎士だった。
急に緊張感が増して、セインは慌てて体を起こし、何か武器になるものはないかと見回す。
「……セイン。俺だ」
「私もいるぞ」
騎士たちが兜を外して、彼は自身の目を疑った。
そこにいたのは一つ目のヴァンと、いなくなったはずのメルヒだった。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる