彼氏なんてありえない

ありま氷炎

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クリスマスの夜

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 そして、あっという間に時が流れ、12月23日の日曜日。
 俺は忠史を家まで迎えに行くと、スーパーに来た。
 
 家を出るときに、作った買い物リストを見ながら買い物を進める。そしてふと、精肉売り場で足を止める。
 クリスマスと言えば、やっぱり鶏肉の唐揚げだろう。

「チキンはどうしようかなあ。ケンタッキー?いや、せっかくだから揚げるか」

 折角今回は手作りだと決めたんだ。チキンもそうしよう。
 俺がそんなことぼやいていると忠史が意外そうな顔をした。

「……灘さん、料理できるんですか?」

 え?俺、言わなかった?まあ、いいや、なんかあの時ぼーとしてたから。

「うん。料理は好きなんだ。女の子にいつも披露してるんだけど、その後よく振られるんだよな。なんでだろう?俺は女の子はそこにいてくれるだけでいいんだけど」
 
 そう言いながら俺は急に振られたことを思い出した。ショックを受けてないつもりだったが、自分で言っていると悲しくなってきた。

「女の子のことはよくわからないんですけど、やっぱり女の子は自分より料理がうまい人が彼氏だと引くんじゃないんですか?」
「そうかな?そうか、だから振られたのか」

 忠史の言葉には一理あった。確かに料理は女の子がするもんだ。それを俺がしちゃー、問題だなよな。
 俺はなんだか妙に力がなくなって、その場に座り込んでしまった。
 
「毎年、クリスマス近くになると振られるんだよな。だから、大概俺は家でクリスマスパーティーを開く。今年は王さんが女の子は嫌だっていうか、4人だけだけど。いつもは女の子も呼ぶんだ。来てくれる女の子は喜んでいたんだけど、彼氏となると違うのか」

 俺がいじけていると、忠史がぼそっと答えた。

「……多分」

 やっぱり……。

「灘さーん。大丈夫ですか?」

 しゃがみ込んだままの俺が心配になったのか、奴は俺の肩を軽く叩く。
 ぽんぽんと叩かれた場所から元気を貰ったようで、俺はすこし気持ちを取り戻す。

「……来年は頑張ろう」

 そうだ、来年。来年気をつければいいんだ。

 今年は男だけのクリスマスで腕を披露してやる。
 俺はそう決めるとリスト片手に歩きだす。

 元気が無くなった俺だが、食材を見ているうちに元気になってきた。その日献立にしたがって、野菜や肉を籠に入れていく。籠がいっぱいになるに連れ、俺は気が付いた。

飲み物いるよな?籠じゃ足りないじゃん。
 
 するとそこは気が付く忠史。さーと走っていって、カートを持ってくる。俺は買い物籠をそこにいれ、再び買い物を始めた。

「よっし。こんなもんかな?忠史、他になんか買うものある?」
「十分じゃないですか?」
 
 俺の買い物リストとカートに入れた食材を見て、彼が頷く。
 しかし、ふいに眉を顰めた。

「……クリスマスケーキ。ケーキは買わないんですか?」

「ゲッ、そうだった。予約しなきゃな」

 俺はうっかり大事なものを忘れていたことに気が付く。クリスマスケーキはチキンよりも大事な主役だ。

 俺達は会計を済ませると慌ててケーキ屋を回った。しかし、予約は打ち切り。当日お買い求めくださいと申し訳なさそうに言われ、俺達は諦めるしかなかった。
 
「当日、買えるかなあ。仕事終わってからだから。まあ。5時には終わらせるつもりだけど」
「……最悪、ケーキなしでもいいじゃないですか?」
 
 ケーキなし?あり得ない!

「いや、ケーキは絶対にいる!」

 俺は子供みたいに買い物袋を振り回してしまった。
 だって、ケーキはクリスマスには欠かせないアイテムだ。これなしではクリスマスパーティーは成り立たない。

「……俺が作りましょうか?」
「え、忠史作れるの?」

 ケーキを作る。その発想はなかった。驚く俺に彼は少し照れながら頷く。

「はあ。まあ」

 手作りケーキ。すごいじゃないか。全部手作り。楽しいクリスマスになりそうだ!
 
「だったら、よろしく!手作りの方が美味しそうだ」

 俺はそう言うと、忠史はわかりましたと頷いた。
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