1 / 11
巳山のお姫様
1-1
しおりを挟む
「お前が俺を好きだって?気持ち悪い。男の癖に女の格好して、二度と俺を好きだなんて言うな」
阿緒(あお)は幼馴染みにそう吐き捨てられ、初めてその時に、自分が男であることを呪った。
巳山(みやま)家の五番目の子である阿緒は、女の子でありますようにと願われたが、男として誕生した。
しかし、どうしても女の子が欲しかった母は、阿緒を女として育てることを決めた。
本当の性別は隠され、阿緒は蝶や花と大切に育てられた。
美しい阿緒は皆に愛された。
だから幼馴染みに素直に気持ちを伝えたのだが、そう吐き捨てられた。
巳山家の分家の息子で、幼馴染みの多津(たつ)。
阿緒(あお)の本当の性別を知っている者は分家でも一部のもので、多津(たつ)の家である椎谷(しいたに)も秘密を共有する分家に含まれていた。
多津の暴言によって怒ったのは本家巳山家。
処罰を科すところを救ったのは、阿緒(あお)だった。
巳山家当主は、処罰を科さない代わりに、阿緒を多津の婚約者にすることを椎谷(しいたに)家に命じた。
本家の命令は絶対であり、多津(たつ)には愛人を作ることも許された。また跡継ぎは愛人が産んだ子を阿緒の子として育てることも決まり、本家巳山(みやま)家と椎谷(しいたに)家の絆は深まった。
しかし、それは当の本人たちを置いてである。
阿緒(あお)は依然として多津(たつ)に好意を持っているのだが、多津(たつ)は明確に変わった。
両親に言い含められたのか、いつも作られた微笑みを浮かべ、阿緒(あお)に失礼なことを言うことはなくなった。
しかし、明らかに二人の間には壁ができていた。
公にはできないが、愛人の存在も認められているため、成長するにつれ、彼の側に女の影をみることが多くなった。
阿緒(あお)、十五歳。
第二成長期も始まり、阿緒(あお)は己の身体が本来の性に近づくのを怖がり、少食になった。
巳山家の深窓の姫。
阿緒(あお)は世間でそう呼ばれている。
滅多に外にでない病弱な令嬢。
学校に通うこともなく、家庭教師によって教育は施される。
友人と呼ばれる存在はなく、彼が親しくしているのは、幼馴染みに多津(たつ)と、従者である寒凪(かんなぎ)。
寒凪(かんなぎ)は、阿緒の乳母の息子で、阿緒のもう一人の幼馴染みだった。
「私が女だったら、多津は私のことを好きになってくれたかな」
慌ただしく屋敷から去った多津(たつ)の背中を見送った後、阿緒(あお)はぽつりと呟いた。
「多津(たつ)様は、今でも阿緒(あお)様のことを大切に思っておられます」
「大切。そうだよね。大事な巳山のお姫様だからね。私が女だったら、多津(たつ)に好きになってもらって、子供も産めたのに」
阿緒(あお)の嘆きに、寒凪(かんなぎ)は何も答えられなかった。
ただ冷たく接する多津(たつ)に憎しみを覚えた。
自分が多津(たつ)であったら、阿緒(あお)の気持ちを受け入れ、ただ一心に阿緒(あお)だけを愛し続けるのにと。
阿緒(あお)は何も変わっていない。なのになぜあのような態度をとるのか、寒凪(かんなぎ)は多津(たつ)が憎くて堪らなかった。
ーー
「ねえ、知ってる?男が女になれるんだって。巳山のお姫様に教えてあげようか?」
「椿。何を言っているんだ?」
「隣国の呪術師に身体を作り替える秘術を持つ人がいるんだって。多津(たつ)、教えてあげなよ」
笑いながらベッドを転げ回るのは、多津(たつ)の愛人の一人の椿だ。
身体を繋げるだけの関係で、かれこれは一年の付き合いになる。
多津(たつ)が阿緒(あお)にひどい言葉をぶつけ、婚約が結ばれたのは、多津が十三歳、阿緒が十二歳の時だった。
年齢が上がるにつれて、多津にはこの結婚が重荷になった。同時に家のしがらみも理解しており、女遊びをすることで鬱憤をはらした。
また女の影をちらつかせ、傷ついた顔をする阿緒(あお)の顔を見るのが彼は好きだった。
阿緒は美しく、どの女よりも魅力的だった。
年を重ね性が曖昧になっていく妖しい美しさは、多津(たつ)を魅了した。
その気持ちを押し殺し、多津は紳士的な態度で彼に接する。
その壁を作った態度が阿緒(あお)を傷つけ、それがまた多津(たつ)の気持ちを高ぶらせた。
自分だけが彼を傷つけている。
阿緒から向けられる一途の愛が心地よかった。
彼に会った後は、もて余した気持ちを発散させるように、多津は女を抱いた。
椿の何気ない言葉。体を作り替えるという呪術師の話。
それは多津(たつ)に欲望を抱かせる。
あの美しい阿緒(あお)が女になれば、その心だけではなく、身体も自分のものにできる。子すら孕ませることができる。
多津(たつ)は椿に自分の興奮を悟られないように、静かに問う。
「その呪術師の名は何て言うんだ?面白いじゃないか。話を聞くのもいいかもしれない」
阿緒(あお)は幼馴染みにそう吐き捨てられ、初めてその時に、自分が男であることを呪った。
巳山(みやま)家の五番目の子である阿緒は、女の子でありますようにと願われたが、男として誕生した。
しかし、どうしても女の子が欲しかった母は、阿緒を女として育てることを決めた。
本当の性別は隠され、阿緒は蝶や花と大切に育てられた。
美しい阿緒は皆に愛された。
だから幼馴染みに素直に気持ちを伝えたのだが、そう吐き捨てられた。
巳山家の分家の息子で、幼馴染みの多津(たつ)。
阿緒(あお)の本当の性別を知っている者は分家でも一部のもので、多津(たつ)の家である椎谷(しいたに)も秘密を共有する分家に含まれていた。
多津の暴言によって怒ったのは本家巳山家。
処罰を科すところを救ったのは、阿緒(あお)だった。
巳山家当主は、処罰を科さない代わりに、阿緒を多津の婚約者にすることを椎谷(しいたに)家に命じた。
本家の命令は絶対であり、多津(たつ)には愛人を作ることも許された。また跡継ぎは愛人が産んだ子を阿緒の子として育てることも決まり、本家巳山(みやま)家と椎谷(しいたに)家の絆は深まった。
しかし、それは当の本人たちを置いてである。
阿緒(あお)は依然として多津(たつ)に好意を持っているのだが、多津(たつ)は明確に変わった。
両親に言い含められたのか、いつも作られた微笑みを浮かべ、阿緒(あお)に失礼なことを言うことはなくなった。
しかし、明らかに二人の間には壁ができていた。
公にはできないが、愛人の存在も認められているため、成長するにつれ、彼の側に女の影をみることが多くなった。
阿緒(あお)、十五歳。
第二成長期も始まり、阿緒(あお)は己の身体が本来の性に近づくのを怖がり、少食になった。
巳山家の深窓の姫。
阿緒(あお)は世間でそう呼ばれている。
滅多に外にでない病弱な令嬢。
学校に通うこともなく、家庭教師によって教育は施される。
友人と呼ばれる存在はなく、彼が親しくしているのは、幼馴染みに多津(たつ)と、従者である寒凪(かんなぎ)。
寒凪(かんなぎ)は、阿緒の乳母の息子で、阿緒のもう一人の幼馴染みだった。
「私が女だったら、多津は私のことを好きになってくれたかな」
慌ただしく屋敷から去った多津(たつ)の背中を見送った後、阿緒(あお)はぽつりと呟いた。
「多津(たつ)様は、今でも阿緒(あお)様のことを大切に思っておられます」
「大切。そうだよね。大事な巳山のお姫様だからね。私が女だったら、多津(たつ)に好きになってもらって、子供も産めたのに」
阿緒(あお)の嘆きに、寒凪(かんなぎ)は何も答えられなかった。
ただ冷たく接する多津(たつ)に憎しみを覚えた。
自分が多津(たつ)であったら、阿緒(あお)の気持ちを受け入れ、ただ一心に阿緒(あお)だけを愛し続けるのにと。
阿緒(あお)は何も変わっていない。なのになぜあのような態度をとるのか、寒凪(かんなぎ)は多津(たつ)が憎くて堪らなかった。
ーー
「ねえ、知ってる?男が女になれるんだって。巳山のお姫様に教えてあげようか?」
「椿。何を言っているんだ?」
「隣国の呪術師に身体を作り替える秘術を持つ人がいるんだって。多津(たつ)、教えてあげなよ」
笑いながらベッドを転げ回るのは、多津(たつ)の愛人の一人の椿だ。
身体を繋げるだけの関係で、かれこれは一年の付き合いになる。
多津(たつ)が阿緒(あお)にひどい言葉をぶつけ、婚約が結ばれたのは、多津が十三歳、阿緒が十二歳の時だった。
年齢が上がるにつれて、多津にはこの結婚が重荷になった。同時に家のしがらみも理解しており、女遊びをすることで鬱憤をはらした。
また女の影をちらつかせ、傷ついた顔をする阿緒(あお)の顔を見るのが彼は好きだった。
阿緒は美しく、どの女よりも魅力的だった。
年を重ね性が曖昧になっていく妖しい美しさは、多津(たつ)を魅了した。
その気持ちを押し殺し、多津は紳士的な態度で彼に接する。
その壁を作った態度が阿緒(あお)を傷つけ、それがまた多津(たつ)の気持ちを高ぶらせた。
自分だけが彼を傷つけている。
阿緒から向けられる一途の愛が心地よかった。
彼に会った後は、もて余した気持ちを発散させるように、多津は女を抱いた。
椿の何気ない言葉。体を作り替えるという呪術師の話。
それは多津(たつ)に欲望を抱かせる。
あの美しい阿緒(あお)が女になれば、その心だけではなく、身体も自分のものにできる。子すら孕ませることができる。
多津(たつ)は椿に自分の興奮を悟られないように、静かに問う。
「その呪術師の名は何て言うんだ?面白いじゃないか。話を聞くのもいいかもしれない」
0
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
クリスマスには✖✖✖のプレゼントを♡
濃子
BL
ぼくの初恋はいつまでたっても終わらないーー。
瀬戸実律(みのり)、大学1年生の冬……。ぼくにはずっと恋をしているひとがいる。そのひとは、生まれたときから家が隣りで、家族ぐるみの付き合いをしてきた4つ年上の成瀬景(けい)君。
景君や家族を失望させたくないから、ぼくの気持ちは隠しておくって決めている……。
でも、ある日、ぼくの気持ちが景君の弟の光(ひかる)にバレてしまって、黙っている代わりに、光がある条件をだしてきたんだーー。
※※✖✖✖には何が入るのかーー?季節に合うようなしっとりしたお話が書きたかったのですが、どうでしょうか?感想をいただけたら、超うれしいです。
※挿絵にAI画像を使用していますが、あくまでイメージです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される
水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。
行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。
「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた!
聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。
「君は俺の宝だ」
冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。
これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。
クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~
槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。
公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。
そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。
アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。
その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。
そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。
義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。
そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。
完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる