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追放者パーティ【追放者の楽園】 二人目

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「はぁ、はぁ...」

今、息を切らせて走っている男は人殺しだ。
名前はオーガスト。
詳しく言うと、ある大貴族の護衛隊長だった男である。

その貴族の娘と恋仲になったのだがもちろん恋は実ることはなかった。
自分の恋人が何人も妻を持っているような豚貴族へ嫁ぎ、夜はおもちゃのように弄ばれると思うとあまりにも不憫だったし、実際にその貴族の娘も彼へ泣きついてきた。しょうがなかったのだ。こんな悲しい運命に身をゆだねている彼女を救いたかった。救ってほしいと言われた。だから、自らの手で殺した。

殺人はすぐに見つかった。
犯人もすぐに分かった。
だがオーガストは大貴族の護衛隊長だ。
その戦闘力はずば抜けている。
その場で居合わせた者達では傷を負わせることはできたものの彼を捕まえることはできなかった。

オーガストは逃げた。
約束したのだ。彼女の分も生きると。

だから生きなければならない。
その手に握りしめた彼女の髪飾りは勇気をくれる。
今なら誰にも負ける気はしない。

(とりあえず王都から抜け出さなければ)

多少の傷と交戦での疲労はあるが問題は無い。
ただ、今は全力で走り続ける。

「あなたがオーガスト護衛隊長ですね?」

角を曲がったとき、少し先に長身の男が立っていた。

(追手だと⁈早すぎる!)

急いで男の風体を確認する。
身長は自分と同じくらい。
灰色の髪で色白、眼鏡をかけている。
執事風で燕尾服を着ている。
武器は携帯していないようだ。
そして左右の眼の色が違う。
赤と青だ。

ほんの数瞬のうちにここまで観察することができるというだけでオーガストがかなりの手練れであることはわかるだろう。

(追手であることは変わりなさそうだ。つぶしておくか)

ちなみにオーガストは彼を捕らえようとした護衛隊の者達を一人も殺していない。気絶させただけだ。そのことも彼の戦闘力の高さを物語っている。

この男からは強者の放つ圧を感じない。手刀で十分だろう。

彼はスピードを少し落とし、右手を構える。

その時、男が右目だけを瞑る。

瞬間、オーガストはバランスを崩し、そのまま男の左側に勢いよく突っ込んでいく。

「なっ⁈」
(思った以上に疲労が溜まっていたのか?)

とっさの判断で剣を抜き石畳の道に突き刺し勢いを殺そうとする。
しかし、完全には勢いを殺しきれずにゴロゴロと転がっていく。
血の味がする。口の中を切ったようだ。
少し鈍痛がする。転んだ拍子にどこか打撲でもしたか。

「お前何をした?」

急いで立ちなおそうとするがそれはかなわない。
バランスが取れないのだ。

こいつはまずい。殺すつもりでやらなければこちらがやられる。
先ほどと意識を変える。

立てないのならこの場から斬撃を飛ばせば良い話だ。
予備の剣を抜き、構える。

「させるわけないじゃないですか」

男が今度は左目だけを瞑る。

真っ暗になる。
何も見えない。

(何が起きている?)

スッ、と今まで自分がいたはずの地面が消える。
下へ下へ永遠に落ち続ける感覚。

何をしたっ!
そう叫んだつもりだったが何も聞こえない。
(何をされているっ)

さっきまでしていた血の味がしない。
(何がっ)

さっきまでしていた鈍痛も消えた。
()




「サミエルさん、標的ターゲットを捕縛しました」

「お疲れさま、ケイネス」

「こんなもの私たちの仕事じゃないでしょう。くだらない」

「しょうがないじゃないか、貴族の依頼だからね」

「王の魔法が無ければこんなことには...」

「その話は後だよケイネス」

「すみません。すぐ引き渡しの準備をして帰ります」

「うん、待ってるよ」

ブツッ、と音がした後、男は胸ポケットに通信の魔道具を戻す。



それは戦闘ですらなかった。
彼が何をしたのか。
左右の眼を交互に瞬またたかせてオーガストを「見た」だけだ。
それだけですべてが終わった。

【追放者の楽園】メンバー。つまり最強の一人。
「『暗闇』の魔眼」ケイネス・ハルハディー。
彼の魔眼は全てを暗闇に引きずり込む。
恐怖すら感じることは許されない。
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