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9月の蝉
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9月-。
夏の暑さも引き始め、秋に差し掛かろうかというころ、一匹の蝉が羽化しようとしていた。
羽化してから1日目…。
長い長い間、地中にこもっていた彼は、初めて見る地上に有頂天になっていた。
「明るい…!なんて広い…!地上ってなんて凄いんだ…!」
そうして、その広い地上を飛び回れる羽、自身の存在を知らしめるかのように響かせる声。そんな自分の成長にも彼は浮かれていた。
「今日は最高の日だ!思いっきり楽しんでやるぞ!」
彼はその日、1日の終わりまで飛び回り、鳴き続けた。
羽化してから3日目…。
相変わらず、飛び回り、鳴き続ける彼。しかし、一つ気づいたことがあった。彼と同じ姿をした仲間が一匹も見当たらないのだ。なぜ一匹も居ないのか?彼には理解できなかった。
「なあに、きっとどこかにいるはずだ。見つけるまで飛び回ってやろう!」
羽化してから5日目…。
彼は懸命に探し回ったが、仲間は一向に見つからなかった。
おかしい。いくらなんでもおかしい。こんなに探し回ってるのに、一匹も見つからないなんて。
思案に暮れる彼に、コオロギが話しかけてきた。
「やあ、蝉さん。何やってんだい?」
「ああ、コオロギさん。仲間を探してるんだけど知らないかい?」
「仲間って…、蝉さんのかい?」
「うん。」
コオロギはためらいがちに口を開いた。
「蝉さん…。蝉さんの仲間はもういないよ。」
「え?」
「蝉さんの仲間たちはついこの間までたくさんいたんだ。そりゃもうやかましいくらい鳴き声が聞こえたもんだよ。でもね、ある時ぱったり聞こえなくなったんだ。多分、みんな死んじゃったんだよ…。」
「……。」
羽化してから7日目…。
彼は変わらず鳴き続けていた。命を振り絞るかのように。
「やめなよ!蝉さん!そんな鳴いたって仲間はやってこないよ!意味ないよ!」
見かねたコオロギが、夢中で鳴き続ける彼に話しかけた。
「確かに仲間はもういないのかもしれない…。でも僕にできるのはこれだけなんだ。もうすぐ死期も近いんだろうことは自分でもわかる。だから最期の瞬間まで僕のできる限りのことをやり遂げて死にたいんだ。『僕はここにいたんだ!』って証を残したいんだ!」
「蝉さん…。」
「僕がやることを無意味だって、誰かが嗤うかもしれない。でもそんなの関係ない。意味なんて他の誰かが勝手に考えればいい。僕は今できることを精一杯やるだけだ!」
蝉の鳴き声が、より一層烈しさを増した。
羽化から8日目…。
彼は死骸と化していた。
死の瞬間まで、彼は鳴き続けた。できる限りのことをやる、という信念を貫いた彼は満足げに死んでいった。
「蝉さん…。とうとう死んでしまったね。」
彼のことを見守ってきたコオロギたちが、彼を悼んでいた。
「うん…。でも、何というかかっこ良かったよ。たった一人で最期まで鳴き続けて…。」
「僕らもあんな風に生きよう。最期の瞬間まで、自分の信念を持って…!」
9月に生まれた蝉はとうとう子を成すことはできなかった。
だが、彼の生き様は英雄として、コオロギたちに語り継がれていくのだった…。
夏の暑さも引き始め、秋に差し掛かろうかというころ、一匹の蝉が羽化しようとしていた。
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「仲間って…、蝉さんのかい?」
「うん。」
コオロギはためらいがちに口を開いた。
「蝉さん…。蝉さんの仲間はもういないよ。」
「え?」
「蝉さんの仲間たちはついこの間までたくさんいたんだ。そりゃもうやかましいくらい鳴き声が聞こえたもんだよ。でもね、ある時ぱったり聞こえなくなったんだ。多分、みんな死んじゃったんだよ…。」
「……。」
羽化してから7日目…。
彼は変わらず鳴き続けていた。命を振り絞るかのように。
「やめなよ!蝉さん!そんな鳴いたって仲間はやってこないよ!意味ないよ!」
見かねたコオロギが、夢中で鳴き続ける彼に話しかけた。
「確かに仲間はもういないのかもしれない…。でも僕にできるのはこれだけなんだ。もうすぐ死期も近いんだろうことは自分でもわかる。だから最期の瞬間まで僕のできる限りのことをやり遂げて死にたいんだ。『僕はここにいたんだ!』って証を残したいんだ!」
「蝉さん…。」
「僕がやることを無意味だって、誰かが嗤うかもしれない。でもそんなの関係ない。意味なんて他の誰かが勝手に考えればいい。僕は今できることを精一杯やるだけだ!」
蝉の鳴き声が、より一層烈しさを増した。
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死の瞬間まで、彼は鳴き続けた。できる限りのことをやる、という信念を貫いた彼は満足げに死んでいった。
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彼のことを見守ってきたコオロギたちが、彼を悼んでいた。
「うん…。でも、何というかかっこ良かったよ。たった一人で最期まで鳴き続けて…。」
「僕らもあんな風に生きよう。最期の瞬間まで、自分の信念を持って…!」
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だが、彼の生き様は英雄として、コオロギたちに語り継がれていくのだった…。
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