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迷子編
久々の依頼
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『…次のニュースです。先日、コンビニに刃物を持った男が入り、現金を要求。抵抗した店員Aさんを殺害しました。犯人は依然逃走中との事です。…』
「まーた物騒な事件がおこってるねぇ。」
都内某所の裏の裏。俺の探偵事務所はそこにある。今日も今日とて、我が探偵事務所は平和だ。
…いや別に暇ってわけじゃないぞ。
相も変わらずの物騒な事件を語るニュースを聞きながら、俺はちょいと遅めのモーニングコーヒーを啜っていた。
「西馬ー!いるかー!?」
けたたましい声と共にまたあいつがやって来た。
でかい図体とでかい声の刑事。そして俺の相棒。秋山だ。
「いるぞー。どうぞ入ってー。」
返事と同時にばん!と扉を開ける秋山。
…毎度ながら静かに開けられんものか。
「元気か!西馬!」
毎度のごとくガハハと豪快に笑う秋山。その後ろに青白い顔をした青年が立っていた。
「まあ、ボチボチかな。…依頼か?」
「ああ、そうだ。犯人のモンタージュに協力してもらいたい。」
秋山がここにくるのは大概が刑事事件の捜査協力だ。
「モンタージュ、っていうと、犯人の顔の似顔絵のことか?」
「そうだ。最近、コンビニ強盗が出たのは知ってるか?」
ついさっきやってたニュースのことか…。
「ああ、確か店員一人が殺されたっていう…。」
「そう、その事件だ。その時の犯人の顔をこいつから読み取ってほしい。」
そう言って、秋山は後ろで突っ立っていた青年を前に押しやった。
「まあ、依頼なら受けるが、その前に肝心の…。」
「依頼料だな。わかってる。」
秋山は懐からやや分厚い(と思う)茶封筒を取り出し、俺に手渡した。
…諭吉さんが…おお…たくさん…ぐふふ
「…確かに。じゃあ始めるかね。」
これで今月の光熱費も大丈夫そうだ。
…顏、にやけてないよな?ちゃんと決めてるよな?
「ああ。その前にそのアホ面をなんとかしてくれ。うかれて仕事に差し支えると困る。」
…あらら、にやけてたみたい。
青年を正面に座らせ、いつもの仕事に取り掛かる。
「しかしだね…。コンビニって監視カメラがあるじゃないか。あれでわかっちゃうんじゃない?」
「それがな。店内の監視カメラが犯行の直前に全て打ち壊されていてな。」
「…ずいぶん用意周到だな。カメラの配置まで覚えてるなんて。」
「犯行はかなり計画的だ。恐らく、店の関係者による犯行だな。」
「なるほど。」
まあ、そんなところだろう。監視カメラの位置を一台も余さず覚えているなんて、普通の客じゃまず無理だろう。
「それでモンタージュを作ると。しかし、こいつから聞き出せばいい話じゃないか?」
「それがなぁ…。」
秋山がしかめっ面で腕を組んだ。
「…まあ、話をしてもらえばわかる。とにかく頼むよ。」
「? まあ、おれは儲かるからいいが…。」
疑問に思いながら、仕事に取り掛かる事にした。
「ほんじゃ、よろしくな」
「よよよ…!よろ、よれ、よろろしく、おおおねが…!」
ああ、そういうことか。秋山の言っていたことがなんとなくわかった。
「じゃ、始めるかね。今からいくつか質問するから、あんたはそれに答えてくれりゃいい。」
「は、はい…。」
「ただし、その間俺の手を離さないこと。いいね?」
「はい…?」
戸惑いながら、青年は手を握らせてくれた。まあ、すんなりいったか。
手を握り、目を閉じる。彼の記憶が、見えてくる…。
「よし、あの強盗のあった日のこと、教えてくれ。」
「あ、ああああのひ、ひひひ、日は、し、深夜のキキキ勤務で…。」
…。順に思い出してるな…。こいつユニフォームに袖通してる…。
「ななな、中で、ややややす、やす、やす…。」
…休憩室か…。こいつ、エロ雑誌読んでやがる…「団地妻の情事」…何読んでんだ。まったく…
「そそそれっ、それ、で、やすん、休んでたら、あ、ああ、あいつ、あいつが…」
…黒マスクをした男だ…多分、こいつが犯人か……くそ…素顔は…見えないか…
いや、まてよ?…
「あいつ?今、あいつっていったか?」
「は、は、はい。いいました。」
「つまり、犯人に心当たりがある?」
「だ、多分、ああ、あいつだ…!」
…黒澤という名前が見える…犯人の名前か…
「…黒澤?」
「!! な、なんで、そそ、そのな、名前を…?」
「…気にすんな。あんたが黒澤が犯人だと思う根拠は?」
「ひ、左腕…!あざが…!」
…男の左腕が見える…大きな円形のあざだ…そして場面が変わる…さっきの状況だ…覆面の男…その男にも同じあざが…
「それで…!それで…!」
「…いや、もう十分だ。ありがとよ。」
俺は目を開けた。目の前の青年は必死に汗を垂らしながら供述しようとしていた。
「秋山。わかった。黒澤って男が恐らく犯人だ。」
「黒澤だな。わかった。早速手配しよう。」
秋山はそう言って、警察署に連絡を入れた。
「今回もお手柄だな。モンタージュを頼んだのに、犯人まで割り出すとは、さすがだ。」
「たまたまだよ。あの男が犯人のことを知っていたから割り出せた。黒澤とかいう奴、おおかたあの男が吃音だから、ろくな供述ができないだろうと踏んだんだろう。」
「ま、甘かったようだな。こっちにはお前がいる、というのを奴は知らなかった。」
「よせよ。」
イカツイおっさんに持ち上げられても嬉しくない。
「コーヒー、飲んでくか?」
「お、いただくとするか。例のブルマンか?」
「いや、エチオピアだ。ブルマンはしばらくおあずけ。」
「まあ、なんでもいい。いただこう。」
一仕事終わり、秋山と一服。あの事件以来の来客だ。ゆったり休憩といこう…。
「先生ーー!お客さんだよーー!」
……おっと、招かれざる客が来たようだ。
「まーた物騒な事件がおこってるねぇ。」
都内某所の裏の裏。俺の探偵事務所はそこにある。今日も今日とて、我が探偵事務所は平和だ。
…いや別に暇ってわけじゃないぞ。
相も変わらずの物騒な事件を語るニュースを聞きながら、俺はちょいと遅めのモーニングコーヒーを啜っていた。
「西馬ー!いるかー!?」
けたたましい声と共にまたあいつがやって来た。
でかい図体とでかい声の刑事。そして俺の相棒。秋山だ。
「いるぞー。どうぞ入ってー。」
返事と同時にばん!と扉を開ける秋山。
…毎度ながら静かに開けられんものか。
「元気か!西馬!」
毎度のごとくガハハと豪快に笑う秋山。その後ろに青白い顔をした青年が立っていた。
「まあ、ボチボチかな。…依頼か?」
「ああ、そうだ。犯人のモンタージュに協力してもらいたい。」
秋山がここにくるのは大概が刑事事件の捜査協力だ。
「モンタージュ、っていうと、犯人の顔の似顔絵のことか?」
「そうだ。最近、コンビニ強盗が出たのは知ってるか?」
ついさっきやってたニュースのことか…。
「ああ、確か店員一人が殺されたっていう…。」
「そう、その事件だ。その時の犯人の顔をこいつから読み取ってほしい。」
そう言って、秋山は後ろで突っ立っていた青年を前に押しやった。
「まあ、依頼なら受けるが、その前に肝心の…。」
「依頼料だな。わかってる。」
秋山は懐からやや分厚い(と思う)茶封筒を取り出し、俺に手渡した。
…諭吉さんが…おお…たくさん…ぐふふ
「…確かに。じゃあ始めるかね。」
これで今月の光熱費も大丈夫そうだ。
…顏、にやけてないよな?ちゃんと決めてるよな?
「ああ。その前にそのアホ面をなんとかしてくれ。うかれて仕事に差し支えると困る。」
…あらら、にやけてたみたい。
青年を正面に座らせ、いつもの仕事に取り掛かる。
「しかしだね…。コンビニって監視カメラがあるじゃないか。あれでわかっちゃうんじゃない?」
「それがな。店内の監視カメラが犯行の直前に全て打ち壊されていてな。」
「…ずいぶん用意周到だな。カメラの配置まで覚えてるなんて。」
「犯行はかなり計画的だ。恐らく、店の関係者による犯行だな。」
「なるほど。」
まあ、そんなところだろう。監視カメラの位置を一台も余さず覚えているなんて、普通の客じゃまず無理だろう。
「それでモンタージュを作ると。しかし、こいつから聞き出せばいい話じゃないか?」
「それがなぁ…。」
秋山がしかめっ面で腕を組んだ。
「…まあ、話をしてもらえばわかる。とにかく頼むよ。」
「? まあ、おれは儲かるからいいが…。」
疑問に思いながら、仕事に取り掛かる事にした。
「ほんじゃ、よろしくな」
「よよよ…!よろ、よれ、よろろしく、おおおねが…!」
ああ、そういうことか。秋山の言っていたことがなんとなくわかった。
「じゃ、始めるかね。今からいくつか質問するから、あんたはそれに答えてくれりゃいい。」
「は、はい…。」
「ただし、その間俺の手を離さないこと。いいね?」
「はい…?」
戸惑いながら、青年は手を握らせてくれた。まあ、すんなりいったか。
手を握り、目を閉じる。彼の記憶が、見えてくる…。
「よし、あの強盗のあった日のこと、教えてくれ。」
「あ、ああああのひ、ひひひ、日は、し、深夜のキキキ勤務で…。」
…。順に思い出してるな…。こいつユニフォームに袖通してる…。
「ななな、中で、ややややす、やす、やす…。」
…休憩室か…。こいつ、エロ雑誌読んでやがる…「団地妻の情事」…何読んでんだ。まったく…
「そそそれっ、それ、で、やすん、休んでたら、あ、ああ、あいつ、あいつが…」
…黒マスクをした男だ…多分、こいつが犯人か……くそ…素顔は…見えないか…
いや、まてよ?…
「あいつ?今、あいつっていったか?」
「は、は、はい。いいました。」
「つまり、犯人に心当たりがある?」
「だ、多分、ああ、あいつだ…!」
…黒澤という名前が見える…犯人の名前か…
「…黒澤?」
「!! な、なんで、そそ、そのな、名前を…?」
「…気にすんな。あんたが黒澤が犯人だと思う根拠は?」
「ひ、左腕…!あざが…!」
…男の左腕が見える…大きな円形のあざだ…そして場面が変わる…さっきの状況だ…覆面の男…その男にも同じあざが…
「それで…!それで…!」
「…いや、もう十分だ。ありがとよ。」
俺は目を開けた。目の前の青年は必死に汗を垂らしながら供述しようとしていた。
「秋山。わかった。黒澤って男が恐らく犯人だ。」
「黒澤だな。わかった。早速手配しよう。」
秋山はそう言って、警察署に連絡を入れた。
「今回もお手柄だな。モンタージュを頼んだのに、犯人まで割り出すとは、さすがだ。」
「たまたまだよ。あの男が犯人のことを知っていたから割り出せた。黒澤とかいう奴、おおかたあの男が吃音だから、ろくな供述ができないだろうと踏んだんだろう。」
「ま、甘かったようだな。こっちにはお前がいる、というのを奴は知らなかった。」
「よせよ。」
イカツイおっさんに持ち上げられても嬉しくない。
「コーヒー、飲んでくか?」
「お、いただくとするか。例のブルマンか?」
「いや、エチオピアだ。ブルマンはしばらくおあずけ。」
「まあ、なんでもいい。いただこう。」
一仕事終わり、秋山と一服。あの事件以来の来客だ。ゆったり休憩といこう…。
「先生ーー!お客さんだよーー!」
……おっと、招かれざる客が来たようだ。
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