記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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迷子編

不釣り合いな記憶

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「さて、おっぱじめるかね。」
一服した後、仕事に取り掛かることにした。俺は少女を正面に座らせる。
「今から君にいくつか質問する。君はそれに正直に答えてくれればいい。」
「うん。わかった。」
「ああ、そういえばお嬢ちゃんの名前を聞いてなかったね。なんて名だい?」
「りえ。すずきりえ。」
「りえちゃんか。よろしくな、りえちゃん。」
…今回は名前がわからない、なんてことはなさそうだな。

りえちゃんの手を取り、目を瞑る。暗闇に彼女の記憶の断片が浮かんで来る…。
「じゃあ、りえちゃん。お父さんか、お母さんの顔、思い出せるかい?」
「う~ん。わかんない。」

……長い髪の女性が見える…こちらに手を伸ばして、何やら泣いているようだが…

「…最近、お母さんに怒られた?」
「ううん。おこられてなんかないよ。りえはいいこだねっていつもいわれてるもん。」

……さっきとは違う女性と同年代の男性が並んでほほえんでいる。…さっきの女性はなんだったんだ?…それと若い男(?)が見える…顔は分からんが…

「…じゃあおばさんとかと一緒に住んでたりする?」
「ううん。うちにいるのはぱぱとままだけ。わたし、ようじょなんだって。」

……また違う男女だ。…こちらを見てほほえんでいる…それとまた若い男…

「養女か…。今の家の場所はわかる?」
「…わかんない。」

……「鈴木」という表札……それ以外はぼんやりしてるな…これがこの子の今の家か?…

「…そうか。きっとパパとママ心配してるね。」
「ううん。多分大丈夫。」
「?」
「ぱぱとまま、いましあわせだから。」

……さっきの男女が横たわっている…寝ている?……いや、これは……首に締め付けた跡が…まさか…

「…しあわせ、って、どういう意味?」
「けいさつ、ってひとがいってたの。ぱぱとままはとおいとこでしあわせにしてるって。だからかなしくないんだって。」

……また別の男女が横たわっている。さっきとよく似た光景だ。…首にはまた締め付けた跡がある。…違う現場?…だがさっきと状況が酷似している…

「君は、まさか…。」
「…もういい。そこまでにしてやれ。」

秋山の声に俺は目を開いた。
「…秋山。」
「詳しい事情はわからんが、この子は親を亡くしたんだろう。つまり、孤児なんだ。これ以上、傷をえぐるようなことをしなくてもいいだろう。」
いつになく真剣な表情の秋山に、俺は頷くしかなかった。

「…それで、何か手がかりになりそうな情報はあったか?」
「…鈴木という表札の家の絵は見えたよ。でも、それ以外はさっぱりだ。」
「そうか。まあ警察でも色々調べてみよう。手掛かりになるような事件があるかもしれんしな。」
「…うん。ああ、そうだな…。」


「じゃあ、今日はこの子どうするの?迷子のまま?」
「さすがにそういう訳にはいかんさ。ま、しばらくは俺の家で預からせてもらうよ。何かわかったら連絡する。またな。」
「ばいばい。」
秋山はりえを担いで事務所から出ていった。…本当に秋山に預けてよかったんだろうか?
「先生。大丈夫?顔色悪いよ?」
「ああ、大丈夫だ…。」

あの少女の記憶にあった絞殺死体。どうしてあんな少女にあんな記憶があったんだろう?まったく同じ手口というのも、果たして偶然なのか?そしてあの若い男らしき奴はどんな関係が?

…言い知れぬ不安を抱きながら、俺は少女と秋山を見送っていた。

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