記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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迷子編

記憶を辿って

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「やっと見つけた…。ここだ。」
俺とアカリは、あれからりえちゃんの記憶で見た家を探し回っていた。市内に見覚えのある場所があったのですぐ見つかると思ったんだが、さすがにそこは大都会。似たような家がごろごろしていてなかなか見つからなかった。
問題の家が見つかった頃にはもう日が暮れかかっていた。
「ぜー…、ぜー…!先生…!…ハー…、ハー…。ちょっと、休憩しようよ…!」
アカリは歩き回るのには慣れてないらしく、もう息が上がっている。全く近頃の若いもんはだらしない…。
「お前はそこで休んでろ。ちょっと聞き込みしてくる。」
アカリは右手を上げてその場にへたり込んだ。…返事もできんほど疲れたか。

表札には「田中」と書かれているが、外観はあの家そのものだ。どうやら、あの子の元の家ではないようだがまあいい。何かしら聞きだせるだろう。
俺は家のインターホンを鳴らした。
「はい。どなた?」
しばらくして、30代ほどの女性が顔を出してきた。
「失礼いたします。私、こういうものでして…。」と、すかさず名刺を女性にわたす。
「…西馬探偵事務所?」
「はい。私、探偵をやっております。西馬と申します。」
「…その探偵さんが何の用?」
「実は今、迷子になっている女の子がいまして、その子の身元調査をしているところです。」
「迷子って後ろのあの子?」
女性は俺の後ろにいるアカリを指差した。後ろにいるアカリは、暑そうにうんこ座りでうちわを仰いでいた。……少しは恥じらいを知らんか。小娘が。
「…いえ、あの子はまったく関係ありません。鈴木りえちゃんという女の子なんですが、ご存知ありませんか?」
「さあねえ…。りえちゃんなんてこの辺の子にはいないし…。鈴木、鈴木…。」
女性は考え込み始めた。何か知っている可能性大だ。
「…ああ、そうだわ!私の前に住んでいた人の姓がたしか鈴木だったわね。」
「そうですか。その鈴木という方、今どちらにいらっしゃるんですか?」

「もう、亡くなられたわ」
「え?」

「無理心中よ。なんでも、奥さんがシングルマザーで働きながら子供と二人暮らししてたらしいわ。でもやがて生活が行き詰まったため、奥さんは娘の首を締めた後、灯油を全身に浴び、自分に火をつけて自殺したそうよ。」
無理心中…。もしや、あの子の最初の記憶は、母親に殺されそうになる画か。
「でも、娘さんは運良く生きていたらしいわ。気を失ってただけだったのね。その娘さんは警察に保護されたあと近くの孤児院に預けられたって聞いたけど…。」
「孤児院…。そこの名前は分かりますか?」



「次の目的地が決まった。ほら、行くぞ。」
「が、ガッテンだ。」
汗をダラダラ流しながら、アカリが親指を立てて答えた。
…やれやれ。

ひまわり孤児院。どうやら、りえちゃんは心中事件で保護された後、ここに連れられてきたらしい。
「さ、また聞き込みに入るとしますか。」襟を正して気合を入れ直す。特に意味はないがなんとなく意気込む時の癖だ。
インターホンを鳴らすと、保母さんが応対してくれた。
「はい、なんでしょう?」
「失礼、私こういうものでして…。」
「西馬探偵事務所…。探偵さんですか?」
「はい。実は以前心中事件で保護された女の子が、こちらに保護されたと聞いて伺いました。その女の子の身元を調査しているんです。」
「はあ。少々お待ちください。当時の詳しいことを知ってる者がおりますので。」

しばらくして、中年の保母さんがでてきた。いかにもベテランといった感じだ。
「…何でしょう?」
「どうも。私、探偵をやってる西馬と申しまして…。」
カクカクシカジカ……
「…それで当時、ここに引き取った女の子がいま、何処で住んでいるのかを知りたいと。」
「そうです。お願いできませんか?」
「…すみませんが、お教えすることは出来ません。どうかお引取りください。」
…教えられない?
「何故です?ここに来たのは確かなんでしょう?」
「…その…。引取り先の住所を教えるのは、禁止事項、なので…。」
もごもごと言葉を濁すベテラン。目も泳いでいる。何か隠しているな…。
「分かりました。残念です…。ところで綺麗な指輪をされてますね。ちょっとよく見せてくれませんか?」
「は?指輪、ですか?ええ、いいですけど…。」
ベテラン保母の指輪を見るふりをして腕を掴み、目を閉じる。

「そうですか~。女の子のこと、教えてくれませんか~。」
「ええ…。まあ…。」

……書類が見える。……名前欄には…「鈴木理恵」という名前…「引取先」…は、白紙だ……


「女の子を引き取った人の特徴だけでも教えてもらえませんか?ダメですか?」
「ダメです。規則ですので…。あなたなんで目を瞑ってるんですか?」 

……男が見える…若い男だ…背は俺と同じくらいか…顔は…何故かよく見えない…
その男がりえちゃんを連れてでて行くのが見える…もしかして、あの時りえちゃんの記憶に出てきた男か?…

「…分かりました。では、また日を改めます。」
「はあ…。お力になれずごめんなさい。」そう言って、ベテラン保母は中に引っ込んでいった。


「…どうだった?先生」
「…りえちゃんを引き取った夫婦はわからない。でも一人の若い男が見えた。」
「男…か…。それ以外のことは分からないの?」
「いや、駄目だった。それにこれ以上粘っても怪しまれるだけだ。…まあじっくりいくさ。多分あの保母さんは何か知ってる。知ってるんなら、いずれ突き止められるさ。俺の力でな。」
その日の調査は一旦打ち切りにし、俺たちは事務所に帰ることにした…。


…孤児院内。
「…あの探偵、もう行った?」
「ええ、もう帰られたようです。…大丈夫ですか?顔色が悪いようですが。」
「大丈夫よ…。ありがとう…。」
ベテラン保母は額の汗を拭い、ひとまず危機を回避したことに安堵していた。
(…誰にも話すわけにはいかない。あの理恵っていう女の子のことを。あの不気味な男のことを。明るみに出れば、この孤児院の風評が地に堕ちると言っても過言じゃない…。)
吹き出す汗を拭い続けながら、ベテラン保母は探偵が去っていったであろう、扉の向こうを怯えるように睨み続けていた…。
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