記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

文字の大きさ
上 下
113 / 188
人形師編

「ドリームランド」VS見えない狙撃手3

しおりを挟む
「…さて、何はともあれ奴をどうにかしないとな。」
俺たちはどこぞに陣取った狙撃手を前に立ち往生していた。奴はこの廃遊園地内のどこかに潜んでいる。くそったれのあいつをどうにかして排除しないと、園内の探索などまず不可能だ。
…傷が痛む。傷口にあてた左肩の包帯も、いつの間にやら赤く染まっている。この狙撃手にいつまでも手間取っている場合じゃない。そんな焦りが、俺の傷を一層疼かせるのだった。
「…畜生。奴の居場所さえわかればまだなんとかなりそうなもんなんだが…。」
狙撃手は、俺に一発ぶち込んだ後また鳴りを潜めていた。おそらく居場所を悟られないようにする為だろう。…どこまでもしたたかな奴だ。

「相手の居場所なら分かったよ。」

…なんだって?
「そ、そりゃ本当か?ヒカル。」
「うん。さっき君の傷口を調べた時に分かったよ。おおよそだけど、ね。」
ヒカルはそう言うと、俺の傷口を皮切りに説明を始めた。
「まず君が撃たれた箇所だ。左肩を撃ち抜かれている。弾丸は貫通して君の左肩のやや下を通り抜けている。この事から相手は僕らの正面、尚且つ上方からこちらを狙撃していると思われる。」
「…なるほど。」
「次に奴が使っている弾丸だ。以前の犯行から、奴が使っているのは7.62x54mmR弾だと言うのがわかっている。秋山君。この弾丸の有効射程距離は?」
「…確か、800メートル。」
「そう。なら、奴はこの僕らの位置から半径800メートル以内にいることになる。これらをまとめると、奴の位置は僕らの正面800メートルの上方。つまり…。」

「……そうか。観覧車か!」

ヒカルは頷いた。
…なるほど。観覧車のゴンドラからなら遊園地の全体が見渡せるし、身を隠すのにも適している。

「しかし…奴は望遠スコープは使っていないんだろう?あの観覧車からじゃ、俺たちが見えないんじゃないか?」
ならね。だが相手はルシフェルだ。身体に何らかの強化手術が施されていると思っておいた方がいい。」
「強化手術って…どんな?」
「例えばそうだね…。視力の強化とか。」
なるほど…。それならスコープを使わないことに合点はつく。

「さて、じゃあ今度は奴がどこにいるのか?ではなく、奴をどうするか、を考えねえとな。奴を倒して先に進むか、あるいは奴をやり過ごして先に進むか。なんにせよ、このままじゃ穴取を見つけ出すこともできやしない。なんとかしねぇと。」
秋山の奴も、膠着状態が続いてやきもきしているようだ。さっきからしきりに貧乏ゆすりしている。
「それも対策は考えたよ。居場所さえわかれば、後は奴を僕の魔眼で見つめればいい。それさえできれば、後は煮るなり焼くなり、こちらの自由さ。…ただ、個人的な意見としては奴を倒してこの先のことを聞き出しといた方が、いいと思うがね。」
「ほう…。そりゃ穴取の居場所を聞き出すためか?」
「それも理由の一つ。でももう一つ気になっていることがあるんだ。」
「気になっていること?」
「まだ穴取やつが罠を張っているんじゃないか?ってね。話してなかったが、アイツは一度、僕がアスモデウスアジトを襲った時に待ち伏せを仕掛けていたんだ。そんな策士が、自分の居場所を露骨にアピールにした上、わざわざ狙撃手スナイパーをかかえていると手の内まで明かしたんだ。これしか策が無いとは思えない。」
「…まだ手を隠してるってことか。」
…たしかに穴取は抜け目のない奴である。秋山と俺の捜索から5年以上逃げ続けてきたのだ。そんな奴がいきなり向こうから居場所を教えてきたということは、迎え撃つ自身が相当あるということだ。奴がこの先にまだ罠を仕掛けている可能性は高い。
「…じゃあ、何がなんでもあの狙撃手から聞き出さないとな。しかしどうやって奴を倒す?双眼鏡でも使うか?」
「使ってもいいけど、多分反射光で気取られるだろう。単純に使うだけじゃダメだ。」
「…じゃあどうすんだよ?」
「悪いけど、君らの持ち物、見せてくれる?」
「??」
言われた通り、俺と秋山は自分の持ち物をその場に出した。
俺の持ち物は自前の拳銃、デザートイーグル。狙撃手を警戒して持ってきた双眼鏡。あとサイフ。
秋山の持ち物も似たようなものだ。警察支給の拳銃、ニューナンブ。双眼鏡。警察手帳。あとジッポとタバコ。
「…なんか、驚くほど軽装だね。君たち。」
「しょうがねえだろ。こちとら一般市民と普通の警官なんだ。そんな大層な装備は持って来れねえよ。」
「まあ…いいだろう。奴の撹乱には十分だ。悪いけど、君らの双眼鏡。それとジッポ。借りるよ。」
「あ!おい!」
引き留める秋山をよそに、ヒカルは俺たちの双眼鏡と秋山のジッポを持ってさっさと前に行ってしまった。そのヒカルの後を秋山も追う。
「待てよ!そのジッポ返せ!妻の形見なんだよ!」
秋山の必死の声も知らん顔でヒカルは奥へとずんずん進んでいく。あいつ、どうする気なんだ…?
しおりを挟む

処理中です...