過去と未来と現在と

hyui

文字の大きさ
上 下
13 / 18

死にたくない

しおりを挟む
近未来。
ここに難病を抱える男が一人いた。
「せ、先生…。なんとかこの病気を治してください…。俺はまだ死にたくない…。」
「…お気の毒ですが、今の医療技術では、この病気の治療は不可能です。」
「そんな…。」
絶望に暮れる男。例え医療技術が進歩しても、不治の病というのは無くならないものだ。

悲壮感を見せる男に、医師は一つの提案をした。
「…これは賭けですが、あなたが助かる可能性が一つあります。」
「ほ、本当か!?」
「ですが、必ず治るという保証はありません。それでも構いませんか?」
「もったいぶらないで教えてくれ。助かるためならなんだってする…。」
男の返事を聞き、医師は思い切って伝えた。

「コールドスリープ、という方法があります。」

「コールドスリープ?」
「そう。あなたを氷漬けにして病状をストップさせるのです。今は治療法の見つからない病気でも、将来には見つかるかも知れない。その病気の治療法が見つかるまで、氷漬けにするんです。」
「氷漬けって…。死んじまうんじゃないのか?」
「その点は心配いりません。氷漬けにしても、解凍すれば通常通りに生命活動を維持できます。」
「そ、そうか…。」
男はしばらく悩んだが、やがて意を決して答えた。
「わかった。やってください。先生。俺は死にたくない。」
「わかりました。ではこちらへ…。」


男は病室から、コールドスリープを行う部屋まで連れていかれた。
部屋は薄暗く、ヒンヤリとしていて、棺の様な長方形の箱が縦にいくつも並べられていた。
「あの箱に入るのか…。」
「そうです。まず血液を凍らせたのち、全身を凍らせてあのボックスで保管します。」
「俺以外にも、コールドスリープをやっている奴がいるのか?」
「そうです。あの並んでいるボックスには全てあなたの様に難病を抱える人たちが入っています。皆、未来に治療法が見つかるのを信じているのです…。」
自分だけじゃない。男はそれがわかった途端、幾らか安心した。
「さあ、では始めます。」
「ああ、宜しく頼む…。」
「ゆっくりとおやすみなさい…。」



どれほどの時間が経ったろうか。
男は目覚めると、真っ白な部屋で仰向けに寝かされていた。
(…ここは手術室だろうか?どうして俺は寝ていたんだ?…ああ、そうか。俺は病気に罹っていたんだ。治療法が見つかったんだな…。)
生き延びる希望に胸を躍らせ、男は医師の到着を待った。
だが現れたのは人間ではなかった。頭は胴体に対して異様に大きく、目も顔の半分程の大きさ。肌は灰色で小柄。
いわゆるグレイタイプの宇宙人が、複数人、男を取り囲んでいた。

(ど、どうなってる!?なんだこいつらは!?医師は!?みんなは!?)

周りを見回すと、自分と同じ様に寝かされている人間が、一人残らず宇宙人に解剖されていた。
それ以外に同じ人間は目につかない。

(俺が眠っている間に何があったんだ!?嫌だ!死にたくない!死にたくない!)

男の願いも空しく、宇宙人たちの魔の手が男の元に伸びはじめた…。
しおりを挟む

処理中です...