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九州で出会った味
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入社して一年が経つ頃、私に九州への異動の話がかかった。
当時の九州は我が社が出店開始したばかりの土地で、ものすごく忙しい、まさに激戦区、といったイメージだった。
私はそんな所でやっていけるのか、はじめての一人暮らしだが大丈夫だろうか、といった不安を胸に、新幹線に揺られて数時間、いささか座り心地の悪いイスの上で、私はいつのまにか眠ってしまった。
博多駅に着いたのはその日の夕方だったか。
長いこと座っていたせいで身体中がだるい。
「ええと、とりあえず転入届と郵便物の受け取りの住所変更とそれと……。」
引越しの手続きというのは思っていた以上に面倒だった。
一通りの手続きも済ませて、荷物の受け取りも終わった私はひとまず飯を食うことにした。
九州といえばやっぱりラーメン!
ということで近くのラーメン屋に直行して注文しようとしたのだが……なんと、味の選択肢がない!
そう、九州ではラーメンといえば豚骨が当たり前であり、それ以外の味(味噌、塩、醤油)はないのだ。そして麺が無くなったら替え玉を頼む。これが九州博多のラーメンの常識であった。
私が初めに行った店は、豚骨でもさらにコッテリな黒豚骨か、辛めの赤豚骨かが選べたのだが、辛いのが苦手な私は黒豚骨の方を選んだ。
運ばれてきたのは想像以上に真っ黒な豚骨ラーメン。なんでも黒油なるものを使っているんだとか。
口に入れてみるとまあコッテリ。濃厚も濃厚。濃濃厚なスープ。麺もしっかりシコシコで大満足な一品だった。(今じゃもうコッテリ過ぎて口に入れられないだろうな…。)
味といえば、九州に来て驚いたのは、醤油の味だ。
寿司屋に行った時、醤油をつけて食ってみると…。
「うっ…!」
甘い。
まるで砂糖醤油のように甘いのだ。
初めての時はあまりの衝撃で吐き出してしまいそうだった。
店員さんに「普通の醤油は無いですか?」と聞いても、それしかないと答えられた時はショックだった。
なんでも海鮮類を食べる機会が多い九州では、魚類に合う醤油として甘い醤油を使うのが普通らしい。
後に出店してきた某回転寿司チェーン店も、九州に合わせて、「普通の醤油」と「九州醤油」を分けていたほどだ。
しかし初めこそ嫌だった九州醤油も、慣れてくるとこちらの方が魚にしっくりくるように感じるのだから慣れというのは恐ろしいものだ。
また意外なのが、うどんのチェーン店が多いということ。
これがまた安くてその上美味いのだ。「資さんうどん」や「ウエスト」と、本州では聞き慣れない名前のチェーン店だが、そのコスパからよく利用していたし、時には上司が仕事終わりに皆で集まって色々味わってみようと、小さな飲み会のようなこともやっていた。
さて、九州での仕事は連日猛烈な忙しさだった。
今回が初の九州出店ということもあり、連日連夜行列の嵐。そんな中、必死で仕事をこなしていく毎日だったのだが、同じ店にやってきていた同期の社員はとにかくレベルが高かった。
自分も一年忙しい店で頑張ったのだからそれなりにできるつもりでいたのだが、同じ勤務数であるはずの同期の方は、それを遥かに上回っていた。
また知識に関しても、「売上」や「商品出数」や「時間帯売上」など、社員として知っておいて当然のように話をしていたが、それらを意識したことがなかった私はそんな話についていけなかった。
それでも経験を積むうちになんとか他の社員やアルバイトと打ち解けることもでき、同期の社員と温泉旅行や心霊スポット巡りをやったりした。
さらに月日が経ってから、とっくに卒業をした九州のアルバイトから、
「就職祝いに電話してみました。」
と唐突に電話がかかってきたり、精神を病んで休職をした際に、当時の上司から心配の電話をいただいたりした。もう九州をでてから10年以上も経っているというのに。
新しい土地というものは驚くような発見や挫折、不安、挑戦の連続だった。
だがたとえ辛くともいずれは慣れ、そこで得られた縁は、離れて消えたと思ってもしっかりと繋がっていたのだった、
当時の九州は我が社が出店開始したばかりの土地で、ものすごく忙しい、まさに激戦区、といったイメージだった。
私はそんな所でやっていけるのか、はじめての一人暮らしだが大丈夫だろうか、といった不安を胸に、新幹線に揺られて数時間、いささか座り心地の悪いイスの上で、私はいつのまにか眠ってしまった。
博多駅に着いたのはその日の夕方だったか。
長いこと座っていたせいで身体中がだるい。
「ええと、とりあえず転入届と郵便物の受け取りの住所変更とそれと……。」
引越しの手続きというのは思っていた以上に面倒だった。
一通りの手続きも済ませて、荷物の受け取りも終わった私はひとまず飯を食うことにした。
九州といえばやっぱりラーメン!
ということで近くのラーメン屋に直行して注文しようとしたのだが……なんと、味の選択肢がない!
そう、九州ではラーメンといえば豚骨が当たり前であり、それ以外の味(味噌、塩、醤油)はないのだ。そして麺が無くなったら替え玉を頼む。これが九州博多のラーメンの常識であった。
私が初めに行った店は、豚骨でもさらにコッテリな黒豚骨か、辛めの赤豚骨かが選べたのだが、辛いのが苦手な私は黒豚骨の方を選んだ。
運ばれてきたのは想像以上に真っ黒な豚骨ラーメン。なんでも黒油なるものを使っているんだとか。
口に入れてみるとまあコッテリ。濃厚も濃厚。濃濃厚なスープ。麺もしっかりシコシコで大満足な一品だった。(今じゃもうコッテリ過ぎて口に入れられないだろうな…。)
味といえば、九州に来て驚いたのは、醤油の味だ。
寿司屋に行った時、醤油をつけて食ってみると…。
「うっ…!」
甘い。
まるで砂糖醤油のように甘いのだ。
初めての時はあまりの衝撃で吐き出してしまいそうだった。
店員さんに「普通の醤油は無いですか?」と聞いても、それしかないと答えられた時はショックだった。
なんでも海鮮類を食べる機会が多い九州では、魚類に合う醤油として甘い醤油を使うのが普通らしい。
後に出店してきた某回転寿司チェーン店も、九州に合わせて、「普通の醤油」と「九州醤油」を分けていたほどだ。
しかし初めこそ嫌だった九州醤油も、慣れてくるとこちらの方が魚にしっくりくるように感じるのだから慣れというのは恐ろしいものだ。
また意外なのが、うどんのチェーン店が多いということ。
これがまた安くてその上美味いのだ。「資さんうどん」や「ウエスト」と、本州では聞き慣れない名前のチェーン店だが、そのコスパからよく利用していたし、時には上司が仕事終わりに皆で集まって色々味わってみようと、小さな飲み会のようなこともやっていた。
さて、九州での仕事は連日猛烈な忙しさだった。
今回が初の九州出店ということもあり、連日連夜行列の嵐。そんな中、必死で仕事をこなしていく毎日だったのだが、同じ店にやってきていた同期の社員はとにかくレベルが高かった。
自分も一年忙しい店で頑張ったのだからそれなりにできるつもりでいたのだが、同じ勤務数であるはずの同期の方は、それを遥かに上回っていた。
また知識に関しても、「売上」や「商品出数」や「時間帯売上」など、社員として知っておいて当然のように話をしていたが、それらを意識したことがなかった私はそんな話についていけなかった。
それでも経験を積むうちになんとか他の社員やアルバイトと打ち解けることもでき、同期の社員と温泉旅行や心霊スポット巡りをやったりした。
さらに月日が経ってから、とっくに卒業をした九州のアルバイトから、
「就職祝いに電話してみました。」
と唐突に電話がかかってきたり、精神を病んで休職をした際に、当時の上司から心配の電話をいただいたりした。もう九州をでてから10年以上も経っているというのに。
新しい土地というものは驚くような発見や挫折、不安、挑戦の連続だった。
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