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第11話 似合う
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思えば、ユキと出会ってから随分と長い時が経ったような気がする。けれど、実際にはそこまでの時間は経過していない。2年生に進級して、彼女と出会い、初めて話してから、まだ3カ月程度といったところだろう。彼女と同棲し始めてからは2カ月になる。
3カ月前の私に言えば驚くだろう。いや、冗談とすら思わないかもしれない。しかもその相手があのユキだというのだから、驚愕も一回り大きくなる。
学校の有名人で人気者な彼女は、私にとっては別世界の人のように感じていて、一度も話すことはないと思っていたけれど、話してみれば普通の人……というわけではなかったけれど。でも、変な人ではあっても、決して別世界の人などではなかった。それとも、彼女が私の世界まで下りてきてくれたのかもしれないけれど。
同棲を始めてからの2カ月からも、変わったこと、知ったことははたくさんある。
まず、意外と彼女は家事は苦手なようだった。苦手なことなど存在しないように思っていたけれど、決してそんなことはないようで、少し安心した。そして安心した自分が少し嫌になった。
彼女の家はどれだけ控えめに言っても豪邸だけれど、実際に使われている部屋というのは3つ程度で、残りの部屋は物置になっているようだった。それも整頓されておいているという感じではなく、大きな箱が乱雑に置かれていた。彼女曰く、
「たまに送られてくるの。中身はどうでもいいから見てないし、送り主もまぁ多分顔も見たことのない関係者か何かだからね。あんまり気にしてなくていいよ」
とのことだったけれど、本当に一度も開封した様子はなかったので、彼女にとっては、不必要なものなのだろう。それどころか邪魔ですらある。
それに彼女は料理もしたことはないようだった。1人暮らしなのに。いつもは市販の弁当や麺麭で済ませているらしい。だから、昼も美味しくなさそうな麺麭を食べているのかと納得したのを覚えている。彼女はおそらくだけれど、自動調理装置などは一度も起動したことはないのだろう。これほどの豪邸であれば、料理なんて食材さえ買えば、あとは機械がほとんどやってくれるのに、それすらしたことがないとは。
けれど、身の回りの掃除や洗濯といったところには苦労していないようだった。多分ユキは、料理や整頓もやればできるのだろう。ただやってないだけなのだろう。必要ではないから。まぁ、たしかに現代文明においては、そこまでしなくても生きていくことは可能だし、困ることはないとは思う。特に彼女の家なんて、最高峰の自動機械群が何でもやってくれるのだから。
でも、まぁ、あまり優秀とは言えない機械しかない家を知っている私からすると、あんなにも立派な自動調理装置があるのに、一度も使わないのはどうなのだろうと思い、私が来てからは基本的に自炊することにした。まぁ、自炊と言っても自動調理装置の前では、私のすることはほとんどなくて、洗い物と軽い味付けぐらいしかやることはない。私としては、できれば彼女の好みに合わせた味付けにして出したいのだけれど、彼女はあまり味にこだわりはないようで、結局私が今まで適当に作ってきた調理方法をそのまま自動調理装置に登録して使っている。
私は料理はできると言っても別になんてことのない料理というか、あまり上手とは言えないとは思う。自分のためにしか作ったことはなかったし、それで良いと思っていたから。それこそユキであれば、高級料理も食べたことはあるだろうし、彼女が今まで食べた中では不味い部類に入るのではないかと内心びくびくしていたのだけれど、彼女は気に入ってくれたようで美味しそうに食べてくれた。それは嬉しい。私が認められたようで。別にそんなことはないのだろうけれど。
たくさん乱雑に置かれていた箱も、整頓することにした。送り主を見れば、私でも知っているような有名企業からのものもたくさんあって、こんなところとも何かしらの伝手のある彼女のことがさらにすごいと感じた。そして、やっぱりそんな彼女と私はつり合わないと思った。
大抵はよくわからない魔導機械や、高そうな貴金属といったものだったけれど、一番多くを占めていたのは服であった。でも、多分彼女の私服には使われていないだろう。彼女の私服は、そこまで高級感溢れるものではないし、そんなものを身に付けなくても、彼女は十分と高潔な雰囲気に包まれているのだから、必要ではないはずだろう。少なくとも普段は。
「それ、何か欲しいものがあればあげるよ。どうせまとめて捨てちゃうから」
と、ユキは言ってくれたけれど、流石にそんなわけも行かない。これは私ではなく、彼女に贈られたものなのだから。
「本当に捨てちゃうの? もったいないなぁ……これとか、ユキなら似合うと思うんだけれど」
贈られていた服は、大抵がよくわからない形のしたものだったけれど、その中でも彼女に似合いそうなものはたくさんあった。まぁ、彼女には大抵のものが似合うとは思うのだけれど。素材の力だろうか。
対して私は……まぁ、似合わないだろう。彼女のような雰囲気が私にはない。身長も小さいし、全体的にみすぼらしいから。無理に着れば、ほんとうにおかしなことになる気がする。だから、もったいないけれど、捨てちゃうと思っていたのだけれど。
「ミリアも似合うよ。あ、そうだ、着てみてくれない? 私、見てみたいな」
「え、でも、絶対似合わないし……」
「似合うよ! ね……お願い。一度だけでいいから」
そう言う彼女の勢いはすごくて、私は断り切れなかった。いや、別に断ることもできたのだろうけれど、私は断らなかった。正直少しだけ、着てみたいという気持ちがなかったわけではないだろう。
それから私は二度と触れることのない高級そうな服をたくさん来た。彼女はなんだか楽しくなっていたようで、どんどん箱を開けては、新しい服を渡してきた。奇妙なというか、豪勢なというのか……変な服は着るのも一苦労だし、ちんちくりんな私が着ても似合ってないように見えたのだけれど。
「よく似合ってるよ」
彼女はそう言った。私も恥ずかしかったけれど、そう言われて悪い気はしなかった。でも、こうしているうちになんで私だけなのだろうという気持ちもでてきて。
「あの、じゃあユキも何か着てみてよ……あ、これとか」
と、私が言ってからは、2人で着せ合いっこをしていた。彼女は私の思った通り、どんな服を着ても似合っていた。よくわからない奇妙な服も、豪華なふりふりが多い服も、私が着ても変な感じにしかならない服も、全部似合っていた。
その日は、結局それをしているだけで終わってしまった。箱を片付けようと思っていたのに、全く片付かずに、終わってしまった。それどころか、散らかりを増やしてだけだった。次の日には全部片づけたけれど。今は全て、倉庫の内側に眠っている。そのおかげで5つぐらいの部屋が空になったけれど、これはこれで、何に使うのだろうという気もする。
「なんで、こんな大きな家に住んでるの? そりゃ、私みたいに古びた集合住宅なんかに住む必要なないけれど、なんというか、大きすぎるよね? 独り暮らしには。使ってない部屋ばかりみたいだし」
「まぁ、親からもらったものだからね。親に、というか企業自体にと言った方が良いのだろうけれど。私は研究素体としては優秀みたいだから、それなりの特権が与えられてるんだよ」
研究素体。それはおそらく、彼女が人の心を読めることに繋がるのだろう。彼女の魔法が使えることに繋がるのだろう。
「その、私、聞きたい。ユキが、どうしてきたのか。その、何で魔法が使えるのかとか……気になる。この前も話してくれたけれど、もっと詳しく教えてほしい。嫌なら、無理にとは言わないけれど……」
そう言ってて、自分でも少し笑いそうになる。多分、彼女がここで嫌だと言えば、私は彼女を責め立てるだろう。そして、傷つけるであろうことは想像に難くないのに、嫌われたくなくて、こういう言い方をしてしまう。
「いいよ。ちょっと、長くなるけれど」
多分それは、ユキもわかっているのだろう。だから、彼女が私のこうした小さな願い事を断ることはない。
「えっとね。まずは親の話からしようか。知っての通り、親はこの国を牛耳る大企業の社長なんだけれど、それは父親の話で、母親は誰かわからないというのが実情なんだおね。まぁ、父親には愛人と呼ぶべき人がたくさんいるようだから、その誰かから生まれた、みたいだよ。そして、そのまま研究所送りになった、らしい。この辺りは口伝だから、私もよくは知らないんだ。
それで、その研究所である実験を受けたんだよ。その実験は、後天性魔力操作能力獲得実験。肉体と魔力との融合を行い、肉体と魔力を結びつけることで、人の身で生まれた物でも、体内に多量の魔力を宿し、そしてそれを操れるようになるという実験だね。人がまだ肉体を完全に確立していない幼少期にしかできないようだし、成功率は欠片程度のものだけれど。でも、私はそれを生き延びた。たまたまね。
私の最初の記憶は、白い部屋で何かの情報を取られているところだよ。魔力量とか、魔力操作能力とか、まぁ、そのあたりを見ていたんじゃないかな。ん? あ、そうだね。もうその頃には、周りの人の色は見えていたよ。だから、私にとって色のついていない人って、ほんとにミリアしかいないんだよね。だから、ミリアが大切で。
あ、そうじゃないよね。うん。えっと、結局私が6歳ぐらいの頃に、その研究所は方針を変えて、新型魔法生物作成に取り掛かることになったから、私達は用済みになってね。だから、処分されるところだったんだけれど、まぁ何かに使えるかもってことで、私達は生かされることになったんだよ。
そう、私達。その時、残ってたのは8人ぐらいだったかな。その全ては、私と同じように企業に家と身分を与えられて過ごしているはずだよ。それなりの特権とともにね。ほら、同じ学級のキリシアとか、そうだよ。たしか、あの子は子会社の社長の娘とかだったはずだけれど。って、これはどうでもいいよね。
まぁ、そんな感じでこんな生活ができるのだけれど、それが許されているのは研究素体としての価値というのもあるのだろうけれど、実態は企業のための戦力として数えられているんだろうね。私達はそれなりに強力な兵器だから。
企業の兵器と言ったけれど、実際には企業はお金を出しているだけで、私に命令が下るとすれば、それはあの忌々しい研究所からということになると思うよ。社長との血縁関係があると言っても、その影響があるのは年に1度の大規模宴会ぐらいでだし。多分、あの企業的には私達など何でもない存在で、気にしていないと思う。
だから、そうだね。あの研究所さえ潰せれば、いいよね。そのための計画は結構できてきているんだ。親の名前を使って、資金源も多く確保したし、様々な事を成すための伝手もある。それには、もう少し時間がかかりそうだけれど。
っと。まぁ、こんな感じかな。私が魔法が使える理由は。どうかな。もう少し詳しく話したほうがいいかな。でも、後話せることは、この前話した何もなかった学校のこととか、本当につまらないお金の作り方とか、そのあたりしかないけれど」
正直、もう少し詳しく聞きたいことはあった。
知らない話がたくさんあったし、それに気になる話もあった。例えば、彼女が昔付き合っていた誰かの話や、施設で同じ境遇の子との話は気になるし、聞いてみたい。でもそれは、聞けば辛くなることは確実だから、聞きたくないことでもあって、素直に聞くことはできなかった。それに、彼女の話は情報量が多く、私の色々と足りない頭ではこの辺りが限界だったというのもある。
「話してくれて、ありがとう」
「このぐらいなんでもないよ。けれど、どういたしまして」
当然のことなのだけれど、まだ私には知らないユキの姿がある。彼女の過去がある。彼女の記憶がある。足跡がある。3カ月前は少しも気にならなかったそれが、今はたまらなく気になっている。小さく鎌首をもたげはじめたその感情は、何なのだろう。
彼女の全てを知っておきたい。
私が、私だけが、彼女の全てを知っておきたい。
最初は恐怖かと思っていたけれど、どこか違う。似ているもので、恐らく派生したものであるのだろうけれど、多分それは、独占欲というものだろう。私は彼女の好意に、恋に、愛に、甘えていることが心地よくて、気持ちよくて、もう手放したくなくて。
そう思えば、多分この感情は私の中の怪物が生み出しているものでもあるのだろう。でも、私は少し安心していた。怪物が動き出そうとしているというのに。
何故なら、私は多分、私は自分で思っているよりも、ユキのことが好きなのだろう。それが愛や恋なのかはわからないけれど……でも、それがわかったから、私は少し自分の中の怪物を撫でることができた。
3カ月前の私に言えば驚くだろう。いや、冗談とすら思わないかもしれない。しかもその相手があのユキだというのだから、驚愕も一回り大きくなる。
学校の有名人で人気者な彼女は、私にとっては別世界の人のように感じていて、一度も話すことはないと思っていたけれど、話してみれば普通の人……というわけではなかったけれど。でも、変な人ではあっても、決して別世界の人などではなかった。それとも、彼女が私の世界まで下りてきてくれたのかもしれないけれど。
同棲を始めてからの2カ月からも、変わったこと、知ったことははたくさんある。
まず、意外と彼女は家事は苦手なようだった。苦手なことなど存在しないように思っていたけれど、決してそんなことはないようで、少し安心した。そして安心した自分が少し嫌になった。
彼女の家はどれだけ控えめに言っても豪邸だけれど、実際に使われている部屋というのは3つ程度で、残りの部屋は物置になっているようだった。それも整頓されておいているという感じではなく、大きな箱が乱雑に置かれていた。彼女曰く、
「たまに送られてくるの。中身はどうでもいいから見てないし、送り主もまぁ多分顔も見たことのない関係者か何かだからね。あんまり気にしてなくていいよ」
とのことだったけれど、本当に一度も開封した様子はなかったので、彼女にとっては、不必要なものなのだろう。それどころか邪魔ですらある。
それに彼女は料理もしたことはないようだった。1人暮らしなのに。いつもは市販の弁当や麺麭で済ませているらしい。だから、昼も美味しくなさそうな麺麭を食べているのかと納得したのを覚えている。彼女はおそらくだけれど、自動調理装置などは一度も起動したことはないのだろう。これほどの豪邸であれば、料理なんて食材さえ買えば、あとは機械がほとんどやってくれるのに、それすらしたことがないとは。
けれど、身の回りの掃除や洗濯といったところには苦労していないようだった。多分ユキは、料理や整頓もやればできるのだろう。ただやってないだけなのだろう。必要ではないから。まぁ、たしかに現代文明においては、そこまでしなくても生きていくことは可能だし、困ることはないとは思う。特に彼女の家なんて、最高峰の自動機械群が何でもやってくれるのだから。
でも、まぁ、あまり優秀とは言えない機械しかない家を知っている私からすると、あんなにも立派な自動調理装置があるのに、一度も使わないのはどうなのだろうと思い、私が来てからは基本的に自炊することにした。まぁ、自炊と言っても自動調理装置の前では、私のすることはほとんどなくて、洗い物と軽い味付けぐらいしかやることはない。私としては、できれば彼女の好みに合わせた味付けにして出したいのだけれど、彼女はあまり味にこだわりはないようで、結局私が今まで適当に作ってきた調理方法をそのまま自動調理装置に登録して使っている。
私は料理はできると言っても別になんてことのない料理というか、あまり上手とは言えないとは思う。自分のためにしか作ったことはなかったし、それで良いと思っていたから。それこそユキであれば、高級料理も食べたことはあるだろうし、彼女が今まで食べた中では不味い部類に入るのではないかと内心びくびくしていたのだけれど、彼女は気に入ってくれたようで美味しそうに食べてくれた。それは嬉しい。私が認められたようで。別にそんなことはないのだろうけれど。
たくさん乱雑に置かれていた箱も、整頓することにした。送り主を見れば、私でも知っているような有名企業からのものもたくさんあって、こんなところとも何かしらの伝手のある彼女のことがさらにすごいと感じた。そして、やっぱりそんな彼女と私はつり合わないと思った。
大抵はよくわからない魔導機械や、高そうな貴金属といったものだったけれど、一番多くを占めていたのは服であった。でも、多分彼女の私服には使われていないだろう。彼女の私服は、そこまで高級感溢れるものではないし、そんなものを身に付けなくても、彼女は十分と高潔な雰囲気に包まれているのだから、必要ではないはずだろう。少なくとも普段は。
「それ、何か欲しいものがあればあげるよ。どうせまとめて捨てちゃうから」
と、ユキは言ってくれたけれど、流石にそんなわけも行かない。これは私ではなく、彼女に贈られたものなのだから。
「本当に捨てちゃうの? もったいないなぁ……これとか、ユキなら似合うと思うんだけれど」
贈られていた服は、大抵がよくわからない形のしたものだったけれど、その中でも彼女に似合いそうなものはたくさんあった。まぁ、彼女には大抵のものが似合うとは思うのだけれど。素材の力だろうか。
対して私は……まぁ、似合わないだろう。彼女のような雰囲気が私にはない。身長も小さいし、全体的にみすぼらしいから。無理に着れば、ほんとうにおかしなことになる気がする。だから、もったいないけれど、捨てちゃうと思っていたのだけれど。
「ミリアも似合うよ。あ、そうだ、着てみてくれない? 私、見てみたいな」
「え、でも、絶対似合わないし……」
「似合うよ! ね……お願い。一度だけでいいから」
そう言う彼女の勢いはすごくて、私は断り切れなかった。いや、別に断ることもできたのだろうけれど、私は断らなかった。正直少しだけ、着てみたいという気持ちがなかったわけではないだろう。
それから私は二度と触れることのない高級そうな服をたくさん来た。彼女はなんだか楽しくなっていたようで、どんどん箱を開けては、新しい服を渡してきた。奇妙なというか、豪勢なというのか……変な服は着るのも一苦労だし、ちんちくりんな私が着ても似合ってないように見えたのだけれど。
「よく似合ってるよ」
彼女はそう言った。私も恥ずかしかったけれど、そう言われて悪い気はしなかった。でも、こうしているうちになんで私だけなのだろうという気持ちもでてきて。
「あの、じゃあユキも何か着てみてよ……あ、これとか」
と、私が言ってからは、2人で着せ合いっこをしていた。彼女は私の思った通り、どんな服を着ても似合っていた。よくわからない奇妙な服も、豪華なふりふりが多い服も、私が着ても変な感じにしかならない服も、全部似合っていた。
その日は、結局それをしているだけで終わってしまった。箱を片付けようと思っていたのに、全く片付かずに、終わってしまった。それどころか、散らかりを増やしてだけだった。次の日には全部片づけたけれど。今は全て、倉庫の内側に眠っている。そのおかげで5つぐらいの部屋が空になったけれど、これはこれで、何に使うのだろうという気もする。
「なんで、こんな大きな家に住んでるの? そりゃ、私みたいに古びた集合住宅なんかに住む必要なないけれど、なんというか、大きすぎるよね? 独り暮らしには。使ってない部屋ばかりみたいだし」
「まぁ、親からもらったものだからね。親に、というか企業自体にと言った方が良いのだろうけれど。私は研究素体としては優秀みたいだから、それなりの特権が与えられてるんだよ」
研究素体。それはおそらく、彼女が人の心を読めることに繋がるのだろう。彼女の魔法が使えることに繋がるのだろう。
「その、私、聞きたい。ユキが、どうしてきたのか。その、何で魔法が使えるのかとか……気になる。この前も話してくれたけれど、もっと詳しく教えてほしい。嫌なら、無理にとは言わないけれど……」
そう言ってて、自分でも少し笑いそうになる。多分、彼女がここで嫌だと言えば、私は彼女を責め立てるだろう。そして、傷つけるであろうことは想像に難くないのに、嫌われたくなくて、こういう言い方をしてしまう。
「いいよ。ちょっと、長くなるけれど」
多分それは、ユキもわかっているのだろう。だから、彼女が私のこうした小さな願い事を断ることはない。
「えっとね。まずは親の話からしようか。知っての通り、親はこの国を牛耳る大企業の社長なんだけれど、それは父親の話で、母親は誰かわからないというのが実情なんだおね。まぁ、父親には愛人と呼ぶべき人がたくさんいるようだから、その誰かから生まれた、みたいだよ。そして、そのまま研究所送りになった、らしい。この辺りは口伝だから、私もよくは知らないんだ。
それで、その研究所である実験を受けたんだよ。その実験は、後天性魔力操作能力獲得実験。肉体と魔力との融合を行い、肉体と魔力を結びつけることで、人の身で生まれた物でも、体内に多量の魔力を宿し、そしてそれを操れるようになるという実験だね。人がまだ肉体を完全に確立していない幼少期にしかできないようだし、成功率は欠片程度のものだけれど。でも、私はそれを生き延びた。たまたまね。
私の最初の記憶は、白い部屋で何かの情報を取られているところだよ。魔力量とか、魔力操作能力とか、まぁ、そのあたりを見ていたんじゃないかな。ん? あ、そうだね。もうその頃には、周りの人の色は見えていたよ。だから、私にとって色のついていない人って、ほんとにミリアしかいないんだよね。だから、ミリアが大切で。
あ、そうじゃないよね。うん。えっと、結局私が6歳ぐらいの頃に、その研究所は方針を変えて、新型魔法生物作成に取り掛かることになったから、私達は用済みになってね。だから、処分されるところだったんだけれど、まぁ何かに使えるかもってことで、私達は生かされることになったんだよ。
そう、私達。その時、残ってたのは8人ぐらいだったかな。その全ては、私と同じように企業に家と身分を与えられて過ごしているはずだよ。それなりの特権とともにね。ほら、同じ学級のキリシアとか、そうだよ。たしか、あの子は子会社の社長の娘とかだったはずだけれど。って、これはどうでもいいよね。
まぁ、そんな感じでこんな生活ができるのだけれど、それが許されているのは研究素体としての価値というのもあるのだろうけれど、実態は企業のための戦力として数えられているんだろうね。私達はそれなりに強力な兵器だから。
企業の兵器と言ったけれど、実際には企業はお金を出しているだけで、私に命令が下るとすれば、それはあの忌々しい研究所からということになると思うよ。社長との血縁関係があると言っても、その影響があるのは年に1度の大規模宴会ぐらいでだし。多分、あの企業的には私達など何でもない存在で、気にしていないと思う。
だから、そうだね。あの研究所さえ潰せれば、いいよね。そのための計画は結構できてきているんだ。親の名前を使って、資金源も多く確保したし、様々な事を成すための伝手もある。それには、もう少し時間がかかりそうだけれど。
っと。まぁ、こんな感じかな。私が魔法が使える理由は。どうかな。もう少し詳しく話したほうがいいかな。でも、後話せることは、この前話した何もなかった学校のこととか、本当につまらないお金の作り方とか、そのあたりしかないけれど」
正直、もう少し詳しく聞きたいことはあった。
知らない話がたくさんあったし、それに気になる話もあった。例えば、彼女が昔付き合っていた誰かの話や、施設で同じ境遇の子との話は気になるし、聞いてみたい。でもそれは、聞けば辛くなることは確実だから、聞きたくないことでもあって、素直に聞くことはできなかった。それに、彼女の話は情報量が多く、私の色々と足りない頭ではこの辺りが限界だったというのもある。
「話してくれて、ありがとう」
「このぐらいなんでもないよ。けれど、どういたしまして」
当然のことなのだけれど、まだ私には知らないユキの姿がある。彼女の過去がある。彼女の記憶がある。足跡がある。3カ月前は少しも気にならなかったそれが、今はたまらなく気になっている。小さく鎌首をもたげはじめたその感情は、何なのだろう。
彼女の全てを知っておきたい。
私が、私だけが、彼女の全てを知っておきたい。
最初は恐怖かと思っていたけれど、どこか違う。似ているもので、恐らく派生したものであるのだろうけれど、多分それは、独占欲というものだろう。私は彼女の好意に、恋に、愛に、甘えていることが心地よくて、気持ちよくて、もう手放したくなくて。
そう思えば、多分この感情は私の中の怪物が生み出しているものでもあるのだろう。でも、私は少し安心していた。怪物が動き出そうとしているというのに。
何故なら、私は多分、私は自分で思っているよりも、ユキのことが好きなのだろう。それが愛や恋なのかはわからないけれど……でも、それがわかったから、私は少し自分の中の怪物を撫でることができた。
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