破滅少女は溺れない

のゆみ

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第18話 撫でて

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  魔力漏れによる爆発で、38人が死亡。軽度汚染を受けたものは130人。そのうち118人は1週間以内に退院。
 原因は魔力伝送機の劣化。
 魔力濃度は高い状態を維持。
 事件性はなし。

 というのが、世間一般における事の顛末ということになったらしい。斬殺された死体が見つかれば、事件性も認められたのかもしれないけれど、高濃度魔力による爆発で死体は跡形もなくなっていたらしい。
 まぁ、事件性が認められたとしても、高濃度魔力汚染の続く学校に入りたいという人は少数だろうから、捜査は難航しただろうけれど。

 こういう証拠隠滅のおかげで、私達は捕まらずに済んだ。すべてはユキがしたことで、それは非常に助かることでもある。捕まれば、人類を滅ぼすことなどできないだろうし、離れ離れになってしまうだろうから。

 しかし、どうやってしたのだろうというのは疑問が残るところではある。死体が見つからなかったのは、魔力爆発を使用したのだろうけれど、そうでなくても、魔力漏れを起こしたりするのは足が付きそうなものだけれど。

 そう思い、彼女に聞いてみたのだけれど、私には理解できるような説明ではなかった。けれど、随分と複雑なことをしたらしい。キリシアへの警戒は前からあったようで、その時に備えて、有利な空間作成のために様々な工作をしておいたらしい。その結果が、あの惨状というのが、彼女の言い分だと思う。多分。

 学校は魔力汚染により校舎の閉鎖を余儀なくされた。校舎が使えなければ、急に別の校舎を用意することもできず、学校は一時的に機能不全になった。これは数日で変わることじゃないことは明白で、生徒たちは別の学校への転校を余儀なくされた。
 多分だけれど、あの学校は閉校になるのではないだろうか。38人もの犠牲者を出した事故を起こしたというのが世間の認識なら、生徒数も大分減るだろうし。

 それはユキも例外じゃなくて、彼女も別の学校へと行った。私も同じ学校に行こうと思えば行けたのだけれど、私は行かなかった。というよりも、学校には行かないことにした。

 私はもうそういう集団の中で生活するのが無理なことは、私が一番わかっている。
 私は未だに人が恐ろしい。ユキに触れるのにも、多少の緊張を伴うというの、他の人の近くにいるなど無理な話だろう。

 それどころか、あの赤色に染まった教室以来、私の対人恐怖症は酷くなっている気がする。ユキに触れることへの緊張は日に日に薄れているのだけれど、それと対比するように、他人への恐怖心は強くなっている気がする。
 まぁ、元々無理なものが多少酷くなったところで同じようなもので、あまり変わらないのだけれど。

 でも、変わったこともある。
 まずは家が変わったこと。私は住んでいた家から退去して、ユキと共に住むことを決めた。それは彼女からの提案だったけれど、多分私もそう望んでいたからだろう。彼女からそう言わないと、私からは何も言えなかっただろうから。
 彼女はいつも私の望んでいることを与えてくれる。やっぱり私の心も読めているのではないだろうか。

 そして、その影響でユキが転校したと時に、同時に引っ越すことになった。前と同じ家からでも通える距離ではあったのだけれど、なるべく近くから通いたいというのが、彼女の弁ではある。
 私もそうしてくれたほうが、助かる。家が近ければ、彼女の出立の時間は遅くなり、帰宅の時間は早くなる。あまり独りでは居たくない。

 けれど、彼女が学校に行けば、家で独りになる。それは心細いものだけれど、他の場所にいるよりはましだから、家にただいる。何もしないのもどうかと思って、魔法というものの練習も始めた。私の体内に生まれた小さな魔力は、未だ私には扱い切れないものだけれど、そんな私でも何かしらの魔法を扱えるらしい。彼女はそう言っていた。

「肉体と融合した魔力は時期に、術式の形をとるはずだよ。ミリアは少量程度の融合で、術式もそこまで複雑なものにはならないだろうから、魔力の扱いさえわかれば、簡単に魔法は使えるはずだよ」

 と言われたけれど。
 故に、私も魔法が使えるはずなのだろうけれど、私の中の小さな魔力を多少なりとも扱えるようにならないことには、何も始まらない。小さな魔力があることぐらいは、わかるようになってきたのだけれど、それを操作するというのは、全く糸口の見えないものではある。

 それはまぁ当然で、今までの人生において存在していない機関をいきなり動かすことは難しいだろう。それも愚鈍な私がするのだから、時間はかかるはずだ。

 彼女は別にそんなことできなくてもいいけれど、と言うけれど、私も何かをしたほうが良いという気はしている。せめて、少しでもできることは増やしておきたい。いつかそれが役に立てればと思うけれど、きっとそんな日は来ないのだろうとは思っている。私はそんな役に立つようなことをできるような人ではない。

 私に比べて、本当に彼女はいろんなことをしている。私の見えないところで。それに私の見えるところでも。それが全て、私達のためであることは知っているけれど、一見無駄に見えることもたくさんやっている。
 けれど、それはすべて私達の人類殲滅計画に繋がっていることらしい。

 私としては、彼女が学校に行く必要があるのかも疑問だったのだけれど、彼女はこれも計画の内だと言っていた。人類殲滅計画の一歩が学校に行くというのは、随分と小さなことだとは思うけれど、彼女がそう言うのなら、そうなのだろう。
 私には難しいことはわからない。全てを壊したいと言ったところで、どうしたらいいのかはわからない。だから、私は彼女の立てた人類殲滅計画を眺めることしかできない。

 やっぱり、私は彼女の隣に立つことはできないのだと、そういう時に思う。能力の差を明確に感じる。私ができることは、彼女にもできることで、その逆はない。私の存在は足枷でしかないのだろう。
 でも、それをどうすることもできないと、私は知っている。どうにかする気も、あまりない。それに、それでもいいと言ってくれるから。

 多少なりとも私のしていることは言えば、なんとなく家を掃除したり、料理を作ってみたり、洗濯をしてみたり。機械に任せればいいことを多少触ってみることぐらいだろうか。

 彼女は私にすべてを与えてくれる。家も。食事も。服も。あまり使い道はないけれど、お金も。そして、温もりも。でも、私は何を返しているのだろう。
 私にできることは、ただ手を握ることぐらい。それ以上のことはなにもできない。あの日の口付け以降、一度も彼女とそういうことをした日はない。それは私が恐れているからだろう。誰かに過剰に触れられることを私は恐れている。

 ユキがその先を求めていることは知っているけれど。それすらも私はあげられない。彼女はそれでも良いと言ってくれるけれど。けれど、私は彼女に何かをあげたい。何もしなくても、きっと彼女が私を嫌うことはないのだろうけれど。でも、私からも彼女に何かを与えたい。

 けれど、何があるだろうか。
 実利的なものは、まず難しいだろう。彼女の下位互換にしかならない。それに私も、そういうものをあげたいとはあまり思わない。
 けれど、なら何を与えることができるだろうか。

「え? ミリアはいつも私にくれてるよ」

 何が欲しいかと彼女に聞いてみれば、そんな答えが返ってきた。

「いつも一緒にいてくれるでしょ? 一緒に住んでくれてるし、それに夜も一緒に寝てくれる。帰れば、ミリアがいて、私と共に生きていてくれる。それだけですごい私の力になってるんだよ。でも、でもね。私はミリアがいてくれるだけで、すごく嬉しいよ。だから、あんまり思いつめないで」
「それなら……いいけれど」

 本当にそうなのだろうか。
 私は何も。本当に何もしていないのに。

「うーん。えっと、それじゃあ少し頼んでもいいかな」

 彼女は見かねたように、私への要望を出そうとする。
 それは私が望んだものだったはずだけれど、同時に恐れも生む。もしも彼女が私に与えられないものを要求してきたらどうしよう。それこそ、口付けや、その先のことだったら。

 私は未だに彼女と肌を重ねることはできないけれど。でも、もしもそれを要求されれば、私はまた彼女を拒絶してしまうのだろうか。きっと嫌悪を感じてしまう。吐き気を催してしまう。
 それは嫌だ。そんなことは嫌だ。そんなこと感じたくない。
 けれど。でも。ユキが望むのなら。

「その、頭を撫でて欲しい……っていうのは、どう、かな?」

 覚悟とまではいかないまでも、軽い決意をしかけた私にもたらされた彼女の要求は想像よりも軽いものだった。

 ほっと息を吐く。
 その程度なら、私でもできる。

「それぐらいなら、うん。できるよ。えっと、じゃあ、ど、どうぞ」

 彼女は私の足の間で座り込み、身体を私に預けてくれる。それに恐る恐る、彼女の頭に手をのせてみる。
 私よりも身長の大きな彼女は私の小さな腕の中では随分と窮屈そうだけれど、彼女はとても嬉しそうに私に頭を撫でられてくれる。こんなことでいいのだろうかと思うけれど、穏やかな彼女の顔を見ていれば、まぁいいかという気もする。

 その顔は綺麗だけれど、同時にそんな彼女にあんなことをさせて良かったのかという気持ちが浮かび上がる。彼女は既に38人を殺害しているわけだけれど、それはきっと私のせいなことは、私でもわかっている。

 私の敵への反撃という要素もあったのだろうけれど、私の全てを壊したいという意思の煽りを受けて、彼女はあんなことをしたのだろう。もしもこれが私でなければ、彼女の反撃はもう少し綺麗なもので済んでいたかもしれない。殺人という最大の反社会的な、怪物的行為はしなかったかもしれない。

 いや、きっとしなかっただろう。ユキの高潔な精神なら。
 それ以上に穢れた私に出会わなければ。

「ね。ミリアは大丈夫? 何も困ったことはない?」
「え? あ、うん。まぁ……大丈夫だよ」

 彼女の問いに、とりあえずというふうに答える。歯切れは悪くなってしまったけれど、実際私は何も困ってはいない。ユキ以外の人と関わるのは怖いのは困る点なのかもしれないけれど、この家から出る必要のない私にはあまり関係はない。

 けれど、ずっと家にいることができるのは、ユキのおかげであることは歯切れがわるくなってしまう要因ではある。ここまで全てを貰って良いのかと、心のどこかでしこりを残す。

 彼女は全てを私に捧げると言ってくれたけれど。それを私は受け取ったけれど。彼女の負担を過剰に増やしたいわけじゃない。彼女に酷い目にあって欲しいわけじゃない。 

「ユキは……本当に良かったの? 人を全員、殺すなんて……みんな殺しちゃうなんて……私が言い出したことだったけれど。でも、ユキにも大切な人がいるんじゃないの? そんな人まで殺しちゃうのは、その、嫌でしょ? なら、ユキが嫌なら。私は」

 私は。
 どうするのだろう。

 彼女が綺麗になりたいと言えば。
 穢れから脱却したいと言えば。
 多分、その時こそ私は死んでしまうだろう。そこまでいっても自害はできないのだろうけれど。

 きっと私は綺麗には成れないだろうから。私は永遠の穢れと共にいるしかないだろうから。

「まぁ、大切な人はいるね。ミリアのことは大切だよ。世界で一番大切で、それ以外はどうでもいいと思えるほどにね。だから多分、私は人類を滅ぼさないといけないんだよ。それに、私から言い出したことだから。ミリアは心配しないで。それにね。多分、人を全て排除しないと私達は幸せにはなれないよ。私はミリアが幸せになってくれることが、最大の幸福だし、ミリアの幸せはきっと人類を全て滅ぼした先にあると思うんだ。なら、全員殺さないといけないよ」

 けれど、ユキは綺麗になりたいとは言わない。
 穢れと共にいてくれると語る。
 いつも私の欲しい言葉をくれる。

 彼女は自らの意思で人を滅ぼすというけれど、それはきっと私を罪の意識から逃れるために、私の逃げ道になるように意識的に言っていることなのだろう。弱い私はその逃げ道に逃げ込んでしまう。

「それなら……いいけれど」
「まぁ、まだまだ先のことになりそうだけれどね。色々案は考えて見てはいるけれど、実現には程遠いよ。だから、ミリアにはそれまで待ってもらうことになってしまうけれど」

 そう語る彼女は、ほんとに申し訳なさそうにしていた。そんな顔はしてほしくはないけれど、それが私を想う心の証拠の1つだとわかってはいる。わかってはいるから、やめて欲しいとは言えない。言いたくない。

 こんなこと言えば、彼女を悲しませてしまうのだろうけれど、人類を滅ぼすなど、無理な話ではないのだろうか。全人口の2億を殺しきるなんて、どうすれば達成できるのだろう。私が持つのは、ただ世界を壊したいという欲のみで、どうすればできるのかなどわからない。

 けれど、彼女にはその未来が見えているのだろう。だからこそ、今から彼女は準備をしているのだろうし。その未来は私には見えない。だから疑ってしまう。でも、正直なところ、それが嘘でも本当でもどちらでもいいような気がしている。

 その部分はどちらでも構わない。ただ私を愛するという心が真なのならば、私は別にどうでもいいのかもしれない。人類は滅んで欲しいけれど、そこまでこだわるところではないのかもしれない。
 けれど、私は。私達はきっと止まれはしない。既に進み始めたのだから。
 私達の夢はすでに地に足をつけ、進み始めたのだから。
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