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32 追われる者
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ラウムは1日に数度庭に出てカラスからの報告を聞く。
この日のカラスは、夕方に一部の新聞を咥えてきた。
朝刊は既に届いているから、夕刊だろう。
ラウムはその新聞に目を通し、大きな溜息をつく。
「みんな、集まって。」
その声に、各々手を止めリビングに集まった。
「これを見て。」
ラウムが開いたページは派手な見開きページで、ジャック、リリー、ラウムの顔写真が大きく掲載されていた。
「なんすか、これ。」
「国家反逆罪で指名手配…。そんな…。」
心底アホらしいという顔のジャックと反対に、リリーは青い顔を見せる。
「俺の名前だけないな。」
アダムは不思議そうに首を傾げる。
「そりゃ、お前は死んだことになってますもん。載せる方がおかしいでしょ。」
「それもそうか。…君の写真は髪が長い時のものだな。」
「用意できなかったんじゃねぇっすか?俺髪切ってから写真なんて撮ってねえですし。」
「ラウムはスノウ・リンガルの名前で書かれてるのね。」
「人間に溶け込んでた時の姿の方が認知されてるから当然でしょう。リリーだってベル・リンガルの名前表記だわ。」
「これ、ノエルの仕業ですかね?」
「そうね。でも誑かしたのは焔みたいだわ。」
向こうの情報を逃さないように、ラウムはアンジェラ、焔、エレナ、ノエルに監視を付けていた。
彼らの会話や思惑は、ラウムに筒抜けだった。
「あのオッサン本当に仕事が早いですね…。そんなに俺達のことが目障りなのか。」
「何が何でもアンジェラに仇なす不穏分子は始末したいみたいよ。これで私達の動きは大幅に制限されることになるわね。」
「死んだことになっているアダム以外、全員お尋ね者ってわけですか。やりにくいったらこの上ない。」
夕刊を囲み、それぞれが意見を交わす。
内容は国家反逆罪と捏造された適当なものだった。
この拠点はジャックの魔術で護られているから安全だろう。
しかし、指名手配された今、ここにいる全員が堂々と外を歩けなくなった。
「それで、次はどうします?」
「ノエルの洗脳を解きたい。何か案はないか?」
「案って言われてもねえ…。」
「彼女の魅了は彼女にしか解けませんしね…。」
ラウムもジャックも難しい顔をして首を傾げる。
一度話し合った議題だ。前回もいい答えは出せなかった。
「あのっ、アンジェラ様を捕らえるというのは…どうでしょうか…。」
おずおずと控えめにリリーが声を上げる。
「捕らえたところで彼女が素直に魅了を解くとは思えません。」
「そもそも彼女は一日のほとんどを城で護られて過ごしているからガードも固いわ。」
「それに彼女も不死だ。多少の脅しは効かないぞ。」
「はい…。だから生かさず殺さずのギリギリのラインで拷問すればいいんじゃないかと…思って…。最初は爪剥ぎとか軽いものから始めて、指先から刻んでいくのはどう…かなぁ。少しずつ少しずつ刻んでいくと、凄く痛いけど出血量はそれほどじゃないからなかなか死ねないの。アンジェラ様は不死だけど痛みを感じないっていうわけじゃない。失血死するまで刻んでも復活して何度でも刻めるから精神的な苦痛も強いと思う。」
最初は控えめだったリリーだが、おとなしい顔でスラスラと残酷な言葉を並べる。
あまりに当然のことのように話すので、3人は顔が青くなった。
「…いや、それはさすがにダメだろう。」
「別に俺達は彼女に復讐したいわけじゃねえですよ。」
「ていうか、どうしたらそんな案が出てくるのよ…。」
ドン引きして呆れ返る3人に、リリーは慌てて取り繕った。
「あ、えっと、別に私の意見っていうわけじゃなくって…。焔様ならそうするから…。人を従わせるには、恐怖が1番いいって。殺すのは最後の手段で…痛みや恐怖を与え続ければ、どこかで心が折れて…言いなりになるって…。」
「あのオッサン…人の妹に何教えてんだ。」
「リリー。私達はそんな酷いことをするつもりはないわ。」
「あ…う…ごめんなさい…。」
リリーはしょんぼりと肩を落とす。
「やはり彼女に直接交渉するしかないか…。」
「だから、その交渉材料がないわ。」
「どういう条件なら彼女は首を縦に振ってくれると思う?」
「彼女の身の安全の保証…とかですかね?」
「それを俺達が守るということか?いつ、誰が攻めてくるかわからない中でそれは約束できないぜ。彼女も信用しないと思うしな。」
「でも、味方に王の実力を持つ不死がいるなら心強いでしょう?加えてこの天才魔術士と、銃器のスペシャリストと、この国の全ての情報を握ってる悪魔。かたや50過ぎのオッサンと戦闘能力のない医者とノエル。天秤に掛けたら俺達を取るほうが賢いと思いますけど。」
「それは…確かにそうね。でも、彼女は簡単にこの条件を飲むかしら?」
「単純に考えたら飲んだ方がいいでしょうね。むしろ、断る理由がないです。」
「ふむ…。そうだな。では交渉材料はこれで行こう。」
「素直に頷いてくれたらいいけどね。」
「取り敢えず、今日はこの指名手配でさぞ街が賑わってるでしょうし、実行は明日以降にしましょう。」
次の目標が無事に決まり、4人はアンジェラとの交渉に備えることにした。
ノエルの魅了さえ解ければ、あとはこっちのものだ。
この日のカラスは、夕方に一部の新聞を咥えてきた。
朝刊は既に届いているから、夕刊だろう。
ラウムはその新聞に目を通し、大きな溜息をつく。
「みんな、集まって。」
その声に、各々手を止めリビングに集まった。
「これを見て。」
ラウムが開いたページは派手な見開きページで、ジャック、リリー、ラウムの顔写真が大きく掲載されていた。
「なんすか、これ。」
「国家反逆罪で指名手配…。そんな…。」
心底アホらしいという顔のジャックと反対に、リリーは青い顔を見せる。
「俺の名前だけないな。」
アダムは不思議そうに首を傾げる。
「そりゃ、お前は死んだことになってますもん。載せる方がおかしいでしょ。」
「それもそうか。…君の写真は髪が長い時のものだな。」
「用意できなかったんじゃねぇっすか?俺髪切ってから写真なんて撮ってねえですし。」
「ラウムはスノウ・リンガルの名前で書かれてるのね。」
「人間に溶け込んでた時の姿の方が認知されてるから当然でしょう。リリーだってベル・リンガルの名前表記だわ。」
「これ、ノエルの仕業ですかね?」
「そうね。でも誑かしたのは焔みたいだわ。」
向こうの情報を逃さないように、ラウムはアンジェラ、焔、エレナ、ノエルに監視を付けていた。
彼らの会話や思惑は、ラウムに筒抜けだった。
「あのオッサン本当に仕事が早いですね…。そんなに俺達のことが目障りなのか。」
「何が何でもアンジェラに仇なす不穏分子は始末したいみたいよ。これで私達の動きは大幅に制限されることになるわね。」
「死んだことになっているアダム以外、全員お尋ね者ってわけですか。やりにくいったらこの上ない。」
夕刊を囲み、それぞれが意見を交わす。
内容は国家反逆罪と捏造された適当なものだった。
この拠点はジャックの魔術で護られているから安全だろう。
しかし、指名手配された今、ここにいる全員が堂々と外を歩けなくなった。
「それで、次はどうします?」
「ノエルの洗脳を解きたい。何か案はないか?」
「案って言われてもねえ…。」
「彼女の魅了は彼女にしか解けませんしね…。」
ラウムもジャックも難しい顔をして首を傾げる。
一度話し合った議題だ。前回もいい答えは出せなかった。
「あのっ、アンジェラ様を捕らえるというのは…どうでしょうか…。」
おずおずと控えめにリリーが声を上げる。
「捕らえたところで彼女が素直に魅了を解くとは思えません。」
「そもそも彼女は一日のほとんどを城で護られて過ごしているからガードも固いわ。」
「それに彼女も不死だ。多少の脅しは効かないぞ。」
「はい…。だから生かさず殺さずのギリギリのラインで拷問すればいいんじゃないかと…思って…。最初は爪剥ぎとか軽いものから始めて、指先から刻んでいくのはどう…かなぁ。少しずつ少しずつ刻んでいくと、凄く痛いけど出血量はそれほどじゃないからなかなか死ねないの。アンジェラ様は不死だけど痛みを感じないっていうわけじゃない。失血死するまで刻んでも復活して何度でも刻めるから精神的な苦痛も強いと思う。」
最初は控えめだったリリーだが、おとなしい顔でスラスラと残酷な言葉を並べる。
あまりに当然のことのように話すので、3人は顔が青くなった。
「…いや、それはさすがにダメだろう。」
「別に俺達は彼女に復讐したいわけじゃねえですよ。」
「ていうか、どうしたらそんな案が出てくるのよ…。」
ドン引きして呆れ返る3人に、リリーは慌てて取り繕った。
「あ、えっと、別に私の意見っていうわけじゃなくって…。焔様ならそうするから…。人を従わせるには、恐怖が1番いいって。殺すのは最後の手段で…痛みや恐怖を与え続ければ、どこかで心が折れて…言いなりになるって…。」
「あのオッサン…人の妹に何教えてんだ。」
「リリー。私達はそんな酷いことをするつもりはないわ。」
「あ…う…ごめんなさい…。」
リリーはしょんぼりと肩を落とす。
「やはり彼女に直接交渉するしかないか…。」
「だから、その交渉材料がないわ。」
「どういう条件なら彼女は首を縦に振ってくれると思う?」
「彼女の身の安全の保証…とかですかね?」
「それを俺達が守るということか?いつ、誰が攻めてくるかわからない中でそれは約束できないぜ。彼女も信用しないと思うしな。」
「でも、味方に王の実力を持つ不死がいるなら心強いでしょう?加えてこの天才魔術士と、銃器のスペシャリストと、この国の全ての情報を握ってる悪魔。かたや50過ぎのオッサンと戦闘能力のない医者とノエル。天秤に掛けたら俺達を取るほうが賢いと思いますけど。」
「それは…確かにそうね。でも、彼女は簡単にこの条件を飲むかしら?」
「単純に考えたら飲んだ方がいいでしょうね。むしろ、断る理由がないです。」
「ふむ…。そうだな。では交渉材料はこれで行こう。」
「素直に頷いてくれたらいいけどね。」
「取り敢えず、今日はこの指名手配でさぞ街が賑わってるでしょうし、実行は明日以降にしましょう。」
次の目標が無事に決まり、4人はアンジェラとの交渉に備えることにした。
ノエルの魅了さえ解ければ、あとはこっちのものだ。
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