空に舞う白い羽根

青山ねる

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間幕

靄の記憶

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 俺の幼かった頃の記憶は、いつからか思い出しにくくなっていた。
  まあ俺を産んだ両親がいらない子だとか言って今の家に引き渡したらしいから、記憶に靄をかけたのは傷を最小限に抑えるための幼い俺なりの防衛反応。俺はそう思うことにした。
 
「これを整理……か」
夜の時間、俺は自室にあるクローゼットを開いた。色んな物が詰んである。
 俺の面倒を見ている叔父は俺の部屋にある物を整理していらない物は処分するように命じた。
 俺が一人前の天使になった区切りをつけさせたいらしい。もしやらなかったら俺の意思関係なしに全部捨てるという暴論ぶりだ。あの人のことだから本当にやりかねない。
  本来なら寝ている時間だが、多忙だったため、この時間に整理をしないとならない。眠気対策はしたので大丈夫だと信じよう。
 話を戻すが、叔父に俺の私物を捨てられたらたまらないので、整理整頓をするために必要な呪文を使うために俺は羽根を広げる。
「我に必要なき物は、外に出ることを命ず」
俺は呪文を唱えた。叔父は呪文の使用は禁止していないからだ。大量に詰まれた物を手でやれなんて言われたら流石に困る。
 黄色い光に包まれた物が次々に俺の足元に落ちてきた。古ぼけたクレヨンの箱、空っぽの虫入れ……他にも昔の俺が使っていたと思われる私物が俺の足元に溜まる。
 俺は身を屈め、一つ一つを品定めする。
「俺はこんなのを取っておいたのか」
 どう考えても成長した俺には必要無かった。俺は叔父が用意した黒い袋にクレヨンと虫入れを入れた。
「何だこれは」
俺は一冊の薄い本を手に取り、表紙に書かれた文章に目を通す。
『らふぃとりんくんとなるじすくんのこうかんにっき』
俺の字でないことは確かだ。
らふぃ……ああ、あいつのことか、同級生のラフィアのことだと俺は気づいた。成績が悪く、やかましい女というのが印象的だ。あんなやつが天使になれたのも奇跡に等しい位だ。
 自分のことを「ラフィ」と呼んでいるので、嫌でも分かる。
それにこの筆跡、あいつの字に似てる。
……そういえば、治安部隊のティーアに連れていかれてたな。まあ、俺が知ったことではないな。
「何であいつの物がここにあるんだ」
俺は呟いた。しかし考えるのはやめた。あいつの名前が入ってるなら本人に聞けばいい所だが、あいつとは何かとぶつかり合ってしまい、話しにくい。
あいつの幼馴染みのリンに聞いても構わないだろう。これは捨てずに持っていこう、リンにも返事を聞きたいしな。
 俺がそんな事を思っている時だった。
……ナルジスくん
俺を呼ぶ声がした。俺は左右を見渡し声の元を探ったが見当たらない。
叔父は仕事でいない。叔母は趣味に没頭している。メイドも今の時間帯は俺の部屋に近づかないように伝えてある。
 よって外からの声というのは無しと言っていい。
「気のせいか……」
俺は言った。もし副作用が今に出てきたら厄介だなと思った。天使の力を得ると副作用が出ることもあるとか言ってた。
その中には幻聴もあるらしい。
時間が経てば治まるとようだが、早々治まることを願った。変な声が聞こえる中で安眠はできないしな。
が、事態は俺の思うようにはならなかった。
……ナルジスくん
今度ははっきり聞こえてきた。女の声だ。どこかで聞いたことがあるが、思い出せない。
「誰だ」
俺は声の主に低い声で訊ねる。
……わたしよ、忘れた?
声は俺に答えた。意志疎通はできるようだ。
俺は立ち上がった。声を何とかしない限り片付けどころではない。
「どこにいる」
……暗くて、ジメジメしている所よ。
俺は目を瞑り気配を探った。暗くジメジメとしているなら、クローゼットの中だな。呪文に反応しなかった物に残っている可能性があるな。
 微かにだが、力の気配がする。目を開け俺は気配の方に意識を集中させて
クローゼットに向かって歩く。
 手に光を照らし(呪文の一種だ)俺は気配のする場所に着いた。そこには一冊のアルバムがある。
「これだな」
俺はアルバムを手に持ち、足早にクローゼットから出た。恥ずかしい話だが俺は暗くて狭い所が嫌いだ。俺が小学生の頃、叔父が門限を破った俺を罰するために長時間閉じ込めたことが原因だ。
  俺は再び身を屈め、アルバムをめくった。小学生の頃の俺が写っている。叔父の代理や学校の先生が撮ったものがほとんどだ。俺の両親を名乗る二人には一応写真は送っているらしい。今日の儀式の写真も送ったという。
 「……これだな」
アルバムを捲る手は止まった。幼い俺と男女二人が写る写真だ。この写真から気配がする。
「あいつとリンだな」
俺は写真に手を触れた。その瞬間だった。霞んでいた幼い頃の記憶が一気に晴れていくのを感じた。
 三人で過ごした楽しい思い出や、血の繋がりがなくても俺が姉と慕っていた人の顔も浮かぶ。
俺はこんな大切なことを忘れていたのか。
……思い出してくれたかしら。
俺が姉と慕っていた人の声がする。名前も分かる。
「ああ、分かったよ」
俺はやんわりと答えた。
……なら、安心ね。
姉と慕っていた人は説明してくれた。こうして話をできるのも、一人前の天使になった俺が呪文をかけてくれたことがきっかけで、俺以外が呪文をかけても反応しない仕組みらしい。
 声しか聞こえないのも、呪文の仕様だという。
 小さい頃からこの人は頭が良く、用意周到だ。話を聞いていて尚更思う。
 ……あの子は大丈夫なの?
 姉と慕っていた人は心配そうに訊ねてくる。あの子とはラフィアのことだ。彼女とラフィアは深い関係にある。
 さっきはどうでもいいと思っていたが、記憶を取り戻した今なら助けに行く必要があるのは理解できる。
「厄介ごとに巻き込まれてるから助けに行くよ」
……お願いね。 あとこの写真はあの子やリンくんにも触れさせてあげて。
「分かった」
声と気配は消えた。俺は片付けの途中だと気付いたが、叔父の言いつけよりも、ラフィアのことを優先しないといけないと判断した。
 とはいえ散乱な物は放っておくわけにはいかなかった。俺は写真をポケットに入れ、呪文を使い不要物は黒い袋に突っ込み、それ以外はクローゼットに戻した。
 片付けを終え、俺はテーブルに向かいメモを残した。
『用事ができたから外出する。ゴミは黒い袋に入れたから捨てて構わない』
俺は窓を開く前に自らに疾駆の呪文をかけた。窓には夜間に俺が脱走した時に備えて警報の呪文がかかっているからだ。
 面倒なことに解除できるのは叔父のみで、俺が通ればけたたましい音が屋敷中に響き渡る。
 俺は軽く準備運動をした。飛び出して体にアクシデントがあったら大変だからだ。
「……行くか」
俺は窓を開き、外へと飛び出した。想像通り、けたたましい音が鳴る。
「我の分身よ、ここに出ろ」
詠唱と共に、複数の俺が出現した。外にいる警備員や中にいる叔父逹の目をあざむくためだ。
 こんな時に言うのも難だが、俺の分身の数は見習いの時に比べてかなり多くなった。
「お前たちには注意を引き付けて欲しい。頼んだぞ」
俺が命じると、俺の分身逹は四方に散らばった。警備員が分身の俺を追いかけ回し、屋敷内に入った分身は俺に代わって叔父への対応をしている。
  ……待ってろよ、ラフィア
 俺は分身逹の行為を無駄にしないためにも、リンの家に向かった。ラフィアを助けるにしてもリンの力も必要だからな。
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