36 / 49
裏で動き出す者
白銀の天使人形・1
しおりを挟む
「……何だ。それは」
「これから必要になるから作ったのよ」
イロウに聞かれ、イロウに背を向けているガリアはどこか嬉しそうに答える。 イロウはガリアの様子を見に、ガリアの研究室に訪れるのだ。
ガリアの手元には白い羽根を生やした少女が目を閉じて眠っている。ガリアが発明品として作った人形だが、精巧で一目見ただけでは人形とは分からない。
「どうして俺の娘に似てる?」
イロウの口調は冷静だが、怒りが混ざる。
天使人形は、イロウの娘であるエイミーに酷似している。エイミーは黒髪に左右のお団子をしているが、人形は白銀の髪に同じ髪型である。
エイミーはイロウの妻のオリビアと共にグリゴリ村にいるが、家族を大切にするイロウにとって、いくら人形とはいえ、エイミーにそっくりなのはいい気はしないのだ。
余談だが、イロウの右手にはエイミーが作ってくれたブレスレットを付けている。
「ごめんなさいね、いいアイデアが浮かばなかったから、貴方の娘をモチーフにしたわ」
ガリアは謝罪を口にした。
「まさか戦いに巻き込んだりしないよな」
「心配しなくても、この子は戦いには使わないわ」
ガリアは言った。この子とは今は眠る人形のことだ。
ガリアは立ち上がり、イロウを見る。
「そろそろ準備しなくて良いの? 決戦が近いんでしょ」
ガリアは言った。イロウは「ああ……」と答える。
「二人の戦いの場の準備は私に任せてね。あの子はそのために作ったの」
リンとラフィアが住んでいる家には、ロウェルとリエトがいた。
「貴方の口に合うと良いですけど」
ロウェルは丁寧な口調で、椅子に座るリエトに紅茶を差し出した。
「いや、私の方から勝手に来たんだから十分だよ」
リエトは言うと紅茶を一口飲む。
リエトがこの家に訪れることは離婚して以来ほとんどない。
リエトと会うのは、月に一度の食事会の時くらいだ。
「それで何の用ですか? 先に言っておきますけど、リンとラフィアは今はいませんよ」
ロウェルは切り出した。リンは書き置きを残していなくなり、ラフィアは治安部隊に連行された。
リエトは空のカップを木のテーブルに置く。
「天界内に黒天使が侵入したのは君にも分かるね」
「ええ、気配がしますから分かりますよ、それがどうかしたんですか」
「黒天使の侵入はラフィアが原因だよ」
リエトはきっぱり言い切った。
リエトがラフィアを良く思っていないのをロウェルは理解していたが、リエトの発言はあまりにも行き過ぎだとロウェルは感じた。
「どうしてそうなるんですか」
ロウェルは納得がいかず、怒り混じりに元夫に訊ねる。
「ラフィアは他の天使と違うと感じていたからね、あの子が元で何か起きると思っていたよ、案の定黒天使が天界内に入ってきたよ」
「ラフィアに責任を押し付けるようなことを言わないで下さい。黒天使が入ってきたのは黒天使の問題です」
ロウェルは歯切れのいい声で言った。リエトは話を続ける。
「今からでも遅くないから、ラフィアは別の天使に引き取ってもらった方が良い」
「何てことを言うのですか」
ロウェルはリエトの話に怒りが込み上げてきた。 今のリエトの言葉をラフィアだけでなく兄弟にも絶対に聞かせたくない。
「私は言ったはずだよ、あの子を引き取るのは反対だって」
リエトと離婚したのは、両親を失ったラフィアを引き取るか、取らないかで口論になったことだ。
結果として、ラフィアは引き取ったものの、ユラはリエトが引き取る形で離婚となってしまった。ロウェルは兄弟だけでなく、ラフィアにも申し訳ないと心から感じている。
リンの悲しげな顔は今でも忘れられない。
この話は三人には伏せ、離婚の原因はお互いが合わなくなったと三人に伝えている。
「それは貴方の都合です。私はラフィアを引き取って後悔したことはありません、例えどんな苦労があったとしてもです。
貴方が何と言おうとラフィアを手離すなんてできません」
ロウェルは芯の通った声で言った。
二人の子を女手一つで育てるのは並大抵ではない。それでも二人はロウェルの気持ちを理解できる子に成長したと思う。
「私から質問しますけど、ユラはどうしたのですか」
ロウェルは訊ねた。ユラはリエトの家で暮らしている。黒天使が入ってきた以上、ユラだけを残してここに来たのなら問題はある。
「ユラは君やリンに会うと言って透明マントを被って出ていったよ」
リエトはラフィアの名を上げなかった。ラフィアは他人の子なので仕方ないとロウェルは割りきった。
「どれくらい前ですか?」
「二時間くらい前だよ、ユラのことだから道草を食ってるのかもな」
「マントがあっても外は危険なんですよ、何考えてるんですか」
ロウェルはリエトに憤りを抱いた。
リエトは平気だと考えるのかもしれないが、ロウェルは不安で仕方がない。
リンとラフィアは天使になったので問題ないだろうが、ユラは見習い天使で、もし黒天使に襲われたらひとたまりもない。
「私はユラを探しに行きます」
「そんなに心配なら私も君と行くよ」
「いえ、貴方はここで待っていて下さい、ユラと行き違いになったら困りますから」
ロウェルはリエトの申し出を拒否した。親のどちらかが残った方が、万が一子供がこの家に帰ってきた時安心するだろう。
ラフィアはリエトを見て良い顔をしないが、それでも誰もいないよりはマシである。
呪文を使い、身支度を整えると、ドアノブに手を掛けた。その時だった。
ドアを叩く音がした。
「こんばんは」
「これから必要になるから作ったのよ」
イロウに聞かれ、イロウに背を向けているガリアはどこか嬉しそうに答える。 イロウはガリアの様子を見に、ガリアの研究室に訪れるのだ。
ガリアの手元には白い羽根を生やした少女が目を閉じて眠っている。ガリアが発明品として作った人形だが、精巧で一目見ただけでは人形とは分からない。
「どうして俺の娘に似てる?」
イロウの口調は冷静だが、怒りが混ざる。
天使人形は、イロウの娘であるエイミーに酷似している。エイミーは黒髪に左右のお団子をしているが、人形は白銀の髪に同じ髪型である。
エイミーはイロウの妻のオリビアと共にグリゴリ村にいるが、家族を大切にするイロウにとって、いくら人形とはいえ、エイミーにそっくりなのはいい気はしないのだ。
余談だが、イロウの右手にはエイミーが作ってくれたブレスレットを付けている。
「ごめんなさいね、いいアイデアが浮かばなかったから、貴方の娘をモチーフにしたわ」
ガリアは謝罪を口にした。
「まさか戦いに巻き込んだりしないよな」
「心配しなくても、この子は戦いには使わないわ」
ガリアは言った。この子とは今は眠る人形のことだ。
ガリアは立ち上がり、イロウを見る。
「そろそろ準備しなくて良いの? 決戦が近いんでしょ」
ガリアは言った。イロウは「ああ……」と答える。
「二人の戦いの場の準備は私に任せてね。あの子はそのために作ったの」
リンとラフィアが住んでいる家には、ロウェルとリエトがいた。
「貴方の口に合うと良いですけど」
ロウェルは丁寧な口調で、椅子に座るリエトに紅茶を差し出した。
「いや、私の方から勝手に来たんだから十分だよ」
リエトは言うと紅茶を一口飲む。
リエトがこの家に訪れることは離婚して以来ほとんどない。
リエトと会うのは、月に一度の食事会の時くらいだ。
「それで何の用ですか? 先に言っておきますけど、リンとラフィアは今はいませんよ」
ロウェルは切り出した。リンは書き置きを残していなくなり、ラフィアは治安部隊に連行された。
リエトは空のカップを木のテーブルに置く。
「天界内に黒天使が侵入したのは君にも分かるね」
「ええ、気配がしますから分かりますよ、それがどうかしたんですか」
「黒天使の侵入はラフィアが原因だよ」
リエトはきっぱり言い切った。
リエトがラフィアを良く思っていないのをロウェルは理解していたが、リエトの発言はあまりにも行き過ぎだとロウェルは感じた。
「どうしてそうなるんですか」
ロウェルは納得がいかず、怒り混じりに元夫に訊ねる。
「ラフィアは他の天使と違うと感じていたからね、あの子が元で何か起きると思っていたよ、案の定黒天使が天界内に入ってきたよ」
「ラフィアに責任を押し付けるようなことを言わないで下さい。黒天使が入ってきたのは黒天使の問題です」
ロウェルは歯切れのいい声で言った。リエトは話を続ける。
「今からでも遅くないから、ラフィアは別の天使に引き取ってもらった方が良い」
「何てことを言うのですか」
ロウェルはリエトの話に怒りが込み上げてきた。 今のリエトの言葉をラフィアだけでなく兄弟にも絶対に聞かせたくない。
「私は言ったはずだよ、あの子を引き取るのは反対だって」
リエトと離婚したのは、両親を失ったラフィアを引き取るか、取らないかで口論になったことだ。
結果として、ラフィアは引き取ったものの、ユラはリエトが引き取る形で離婚となってしまった。ロウェルは兄弟だけでなく、ラフィアにも申し訳ないと心から感じている。
リンの悲しげな顔は今でも忘れられない。
この話は三人には伏せ、離婚の原因はお互いが合わなくなったと三人に伝えている。
「それは貴方の都合です。私はラフィアを引き取って後悔したことはありません、例えどんな苦労があったとしてもです。
貴方が何と言おうとラフィアを手離すなんてできません」
ロウェルは芯の通った声で言った。
二人の子を女手一つで育てるのは並大抵ではない。それでも二人はロウェルの気持ちを理解できる子に成長したと思う。
「私から質問しますけど、ユラはどうしたのですか」
ロウェルは訊ねた。ユラはリエトの家で暮らしている。黒天使が入ってきた以上、ユラだけを残してここに来たのなら問題はある。
「ユラは君やリンに会うと言って透明マントを被って出ていったよ」
リエトはラフィアの名を上げなかった。ラフィアは他人の子なので仕方ないとロウェルは割りきった。
「どれくらい前ですか?」
「二時間くらい前だよ、ユラのことだから道草を食ってるのかもな」
「マントがあっても外は危険なんですよ、何考えてるんですか」
ロウェルはリエトに憤りを抱いた。
リエトは平気だと考えるのかもしれないが、ロウェルは不安で仕方がない。
リンとラフィアは天使になったので問題ないだろうが、ユラは見習い天使で、もし黒天使に襲われたらひとたまりもない。
「私はユラを探しに行きます」
「そんなに心配なら私も君と行くよ」
「いえ、貴方はここで待っていて下さい、ユラと行き違いになったら困りますから」
ロウェルはリエトの申し出を拒否した。親のどちらかが残った方が、万が一子供がこの家に帰ってきた時安心するだろう。
ラフィアはリエトを見て良い顔をしないが、それでも誰もいないよりはマシである。
呪文を使い、身支度を整えると、ドアノブに手を掛けた。その時だった。
ドアを叩く音がした。
「こんばんは」
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる