空に舞う白い羽根

青山ねる

文字の大きさ
42 / 49
裏で動き出す者

近づく決闘・3

しおりを挟む
イロウとグシオンは学校の屋上にいた。
「……何ですぐにラフィア達のいる場所に行かないんですか?」
グシオンは隣にいるイロウに訊ねた。
ラフィア達のいる場所は把握してるので、ラフィア達の元に直行するのだと思っていた。しかし実際到着したのはラフィア達のいる場所からは外れていた。
 グシオンの想像では、ラフィア達の前に現れ、イロウがベリルとの決闘のことや、場所のことを説明する手筈だと思っていた。
イロウは無表情を崩さずに答える。
「俺の弟とワゾンに用事があるからだ……サレオス、ワゾン、出てこい」
イロウは命じた。
すると空中に漆黒の魔法陣が現れ、そこからサレオスとワゾンが現れた。サレオスは羽根をはばたかせ、ワゾンは鎌を地面に刺して着地した。
「流石はイロウ様ですね。おれらに逃げる場所は無いみたいすね」
ワゾンは余裕の表情だった。
イロウが使用したのは召喚呪文を応用したもので、黒天使のみだが指定した人物を呼び出せる。
「隣には病弱のグッシか……どこにいたんすかね」
ワゾンはグシオンを見るなり、馬鹿にする言葉を投げ掛けた。
「お喋りはそこまでだ」
ワゾンの話を、イロウが遮る。彼の一言により、空気が重くなる。
「お前達が呼び出された理由は分かってるな」
「おれが暴れたことですか?」
イロウの話に、ワゾンは真面目な口調になった。暴れたとは小さな村に住む天使を皆殺しにしたことだ。
「それもあるが……サレオス、集めていた血を渡せ」
イロウはサレオスに顔を向け、真剣な物言いをした。アバドンはサレオスと交わした約束を守らない。サレオスを良いように利用したいだけだ。
 しかし、サレオスは身動き一つとらなかった。渡したくないのである。
「いくらイロウ様の命でも、それは難しいっすよ、サレオスの願いがかかってますから」
ワゾンはサレオスを庇った。イロウは横にいるグシオンの顔を見た。
「……グシオン、ワゾンを黙らせろ、重圧の呪文を使え」
「良いんですか?」
「どっちみちワゾンに仕置きをするつもりだったからな、お前もワゾンに散々言われてきて辛かっただろ」
イロウは言った。
ワゾンが口を挟んだのが気に障ったこともそうだが、グシオンがワゾンに体調や出生のことで言われっぱなしなのも気の毒に思ったのだろう。
「分かりました。腕ならしに使わせてもらいます」
グシオンは軽い運動を兼ねて右手を開閉し、三歩前に出て、黒い羽根を広げる。
「おまえ……本気でやんのか」
「イロウ様の命令をだからな、恨むならイロウ様にしろ」
グシオンは呪文を口にした。
「この者の体に重みと苦痛を与えん!」
呪文が紡がれた瞬間、ワゾンは大の字になって倒れ「ぐあっ!」と叫び声を出した。
ワゾンがいる場所は地面に割れ目が入る。それだけ強い力がかかっているのだ。
「くそ……後で……覚えてやがれよ……このクソ病弱……」
ワゾンは歪んだ顔を浮かべ、苦し気に汚い言葉を吐く。
  サレオスはワゾンの仕置きを見ていて怖くなったのか、背を向けて走り背中の黒い羽根を広げる。
イロウは弟を逃す気は無かった。
「行け、フェンリル、あいつを生かして捕らえろ」
イロウが召喚した巨大な狼・フェンリルに命じた。イロウは様々な幻獣を召喚できる。フェンリルはその一種だ。
フェンリルは疾駆し、空中を飛び、サレオスを追った。
  ワゾンが大の字になって伸びた所で、グシオンは重圧の呪文を停止する。あまりやり過ぎると相手の命を奪いかねない。
「ぐ……っ……」
ワゾンは息絶えそうな魚のように息をしていた。
「これくらいで良いですよね」
グシオンは静かに語った。いくら恨みがあるとはいえ、絶命されたら後味が悪い。
「ああ、だがワゾンはアルシエルに送る。邪魔をされたら困るからな」
イロウは言うと、少しの間黙りこんだ。テレパシーでガリアに連絡をとっているのだろう。
ガリアでなければ天界内の行き来ができないのだ。
「ガリアと話がついた。下がってろ」
グシオンはイロウに命じられるままに、二歩後ろに身を引く。
 その直後に、ワゾンは緑色の光に包まれ、姿を消した。
「……ラフィア達がいる場所に移動しよう、サレオスはフェンリルに任せておけば大丈夫だ」
イロウは言った。サレオスに構ってばかりはいられないのだ。
「いよいよ会えるんですね。俺の異父兄弟に」
グシオンは複雑な心境になった。
ラフィア達の中に腹違いの兄がいる。交信の呪文で会話は交わしたが、このまま行けば生まれて初めて会うことになる。
「怖いか?」
「少しですけど……でも俺は行きます」
複雑ながらもグシオンは意を決した。このまま引いたら後悔しそうだからだ。
 二人が話している時だった。何処からか爆音が響く。

 イロウとグシオンが屋上にいると知らず、ラフィア達のいる教室は緊迫した空気となっていた。
 幼馴染の弟であるユラがカーシヴに攻撃を仕掛けたためだ。突然の行為に、ラフィアは困惑していた。
 「ユラ、やめるんだ!」
ユラの背後からリンが現れ、ユラの右肩を掴む。
「止めんなよ! オレが裏切り者が嫌いなのは分かってるクセに!」
ユラは興奮混じりに口走る。 
ユラの話からしてリンからカーシヴのことを聞かされ、腹が立ったのだということだ。
 ユラのように裏切り者への拒絶反応をする天使がいても仕方がない。
「兄さんはよく平気だよな! オレは全然ダメだけどな!」
「落ち着けって!」
興奮するユラをリンは宥めた。
ユラの気持ちも分からなくはないが、状況が状況なので、このままでは危険だ。
「ああいうのは戦場で早死にするな」
ナルジスは忌々しげに口走る。
ナルジスはユラに宙吊りにされるイタズラを受けたことがあるため、ユラのことを好かないのだ。
「オマエのことはムカつくが、同意見だ。リンも大変だな」
ベリルはナルジスに背を向けたまま言った。
「……すみません、ぼくのせいでこんな事に」
「謝らないで下さい、悪いのはサレオスさんですからぁ」
謝罪するカーシヴにコンソーラは優しい言葉をかける。
 メルキが動き、教室の扉を潜り、廊下に出た。
「リン君、悪いけど離れてくれるかな、ユラ君と話をするから」
「あ、はい」
リンはユラの肩を離し、三歩後ろに下がる。
「ユラ君、少し冷静になろうよ、そんな騒いでも何も伝わってこないよ、カーシヴさんもどうして撃たれたのか訳が分からないと思うよ」
メルキはユラの目をじっと見て落ち着いた口振りで語りかける。
 冷静な言い方は流石は先生だなと思った。
「ユラ君、どうしてきみは怒ったのかな」
ユラは持っていた道具を下ろし、複雑な顔になった。
「兄さんがカーシヴさんが裏切り者だって聞いて腹が立ったんだ。兄さんが隠していて一緒に行動してたことが許せなかったんだ」
「……ユラ君、大人と話す時は敬語だからね、それは置いておくけど、リン君も好きで隠した訳じゃないと思うよ、きみの性格を考えて言い出せなかったんじゃないかな」
メルキの言ってることは合っていた。ユラは怒ると今のように後先考えずに行動する傾向がある。
「カーシヴさんのことだけじゃない! オレ思い出したんだよ! 治安部隊の裏切りって聞いてな!」
ユラは興奮混じりに言うと、ラフィアの顔を見る。
 ユラの目はいつになく真剣だった。
「ラフィ、おまえの両親はアレガニの裏切りのせいで死んだんだ!」
「アレ……ガニ?」
聞き慣れない名前にラフィアは首を傾げる。
「アレガニはおまえの従姉で、治安部隊の一人だった!」
ユラがそこまで言うと、頭がちくりと痛んだ。

 栗色の髪に、厚い唇が特徴的なアレガニは幼いラフィアと姉のクローネに笑いかけ、小さな袋を渡した。
 ラフィアはクローネと一緒に袋の中身を見て、好物のお菓子が入っていて嬉しくなり、二人で笑い合い、アレガニに礼の言葉を述べる。
 姉妹が誕生日を迎えた時は、ペンダントをプレゼントしてくれた。二人お揃いの黄色のペンダントだった。
 ラフィアはアレガニが好きだった。優しくお菓子をくれるのもそうだが、治安部隊での活動を生き生きと話すアレガニは輝いて見えたからだ。天界内で呪文を悪用して窃盗をしようとした天使や、お金を払わずに食い逃げした天使を捕まえたりした。アレガニは仕事熱心な女性でもあった。
   場面は変わり、ラフィアの両親が地面に転がり、剣を持ったアレガニがゆっくりとラフィアの方を向く。
 彼女の顔は無表情だった。

「いやあっ!」
ラフィアは頭を両手で抱え、絶叫してその場にうずくまる。
 「なんで……アレガニ……お姉さんが……」
ラフィアの声は震えていた。あの映像が事実ならアレガニが自分の両親を手にかけたことになる。
ラフィアの両親は事故ではなく、天使によって葬られたということにもなる。
「ラフィ……」
幼馴染が身近に来て、声をかけてきた。
「リンくんは……知ってたの? アレガニお姉さんの行いを……」
ラフィアはアレガニの行為を言わなかった。心のどこかでは認めたくないのだ。
「……本当のことを伝えれば、ラフィがショックを受けるから言えなかったんだ」
リンの声は沈んでいた。言い方からして今甦った記憶が真実なのだ。
ラフィアの目元が熱くなった。好きだった従姉のアレガニが両親の命を奪ったことが悲しくて辛い。
「どうして……アレガニお姉さん……わたしのお父さんとお母さんを……」
ラフィアはリンの胸で泣いた。
「言えなくて、ごめん」
リンは静かに謝罪する。しかしラフィアは首を横に振る。
「リンくんは……悪くない……こんな事実……隠したくなるの……無理ないよ……」
ラフィアはつっかえながらも言った。
「ラフィは仕方ないにしても、オレの記憶に細工したのは腹が立つけどな、しかもかけたのはオレの父さんだからな」
ユラは不機嫌そうに口走る。
まだ怒りは完全におさまってはいないが、メルキの話のお陰か、少しは落ち着いたようだ。
「文句を言うなら、きみに靄の呪文をかけたお父さんに言うんだね。記憶に細工をしたのも、きみの傷を最小限に抑えるためのものだったんだよ、リン君を責めるのは筋違いだよ」
メルキは落ち着いた言い方をした。
ユラもアレガニには世話になったし、そんな彼女が凶行に及んだとなると幼い心に深い傷を残すと判断し、リエトがユラに呪文をかけたのだろう。 
「そうする」
ユラはぶっきらぼうに言った。
『少しは理解したか、天使の醜さを』
教室中に、低い男の声が響き渡った。
ラフィアは目に涙を溜めたまま、顔を上げた。




しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...