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第一部
英雄とは
そんなわけで俺達は授業が全て終わると、王都の貴族街の中でも一等地にあるギファルド家の屋敷へ戻り、夕食を食べている。
正式な会食の場合は家族のみだが、普段は小さい頃からレオンと一緒に食べることが日常になっている。当然レオンは遠慮したが、俺が一人だと味気ないと言い強要したのだ。
「シャンティエ。今夜レオンと一緒に課題をするから俺の部屋に夜食――茶とフルーツがいいな――を届けてくれ」
古くからいる年老いたギファルド家付きの侍従に頼む。
「かしこまりました。本日はジルベール様がお好きな葡萄がございますのでお持ちいたします。レオンも好きでしたね」
この侍従は、当家子息の俺だけでなく、同じ使用人の息子――なんなら侍女であるレオンの母、クリスティーナよりも筆頭侍従のシャンティエの方が立場が上――にもかかわらず、レオンに対しても慇懃に接する。
シャンティエの人柄が素朴ということもあるが、俺とレオンが常に一緒にいて(表向きは)友人みたいな関係にあることを考慮しているのだと思う。
夕食中はいつものように俺が一方的に学園のことや異能、政治について話し、レオンは飽きた顔もせずその麗しい顔で頷きながら聞いている。
彼は常に好意的で笑みを絶やさず愛想が良く、人前で怒ったり悩んでいるところを見せない。レオンの母、クリスティーナ譲りだろう。
彼女は茶色のふわふわの髪と緑色の瞳で若い頃は絶世の美女と名が高かったらしく、現在でもその面影が存分に残っている。だがそんな彼女でも伴侶に恵まれなかったのか、レオンに父親はいない。
失踪したのか生きているのか、そもそも誰か分かっているのか――彼女が口を割らないためそれすらも謎だ。
俺の両親、即ち――ギファルド公爵夫妻だが、父アンドレの母は王家の出身、前国王の末妹なので、父上は現在の国王と従兄弟の間柄になる。
アンドレは王家に多い黒髪と薄い茶色の瞳の柔和な雰囲気で、実際の性格も明るく親しみやすい。
だが俺は幼少期から厳しく躾られ、一定の距離を保たれているのを感じるが、それは俺が唯一の跡取りなので将来を考えてのことだろう。
逆に父上は、養育に責任のないレオンに優しく接することが多い。まあ、使用人達に親和的にするのは雇い主として正しい態度だ。厳しいばかりでは反発を生む。
それと勝手な想像だが、クリスティーナの美しさも関係している気がする。彼女は素朴で控え目な性格だが、彼女が望まなくても自然と優遇される。それくらい男を惑わせる見た目を持っている。
俺の母エロイーズも負けず劣らず有名な美人で、俺の神々しいまでの金髪碧眼は完全に彼女からの遺伝だ。
ちなみに、この国は四つの階級に分けられている。まずは王家、そして――俺が属している四大公爵家がある。その次がその他貴族、そして残りの大部分が平民というわけだ。
力の均衡を保つため、婚姻に関していくつかの決まり事がある。王家に嫁いだり、降嫁したりするのは四大公爵家のみで、偏りがないよう配慮されている。
年の合う相手がいなかったり、いたとしても血が近い場合には外国の王家か高位貴族が検討され、我が国の他の貴族との関係は結ばない。
四大公爵家に関しては結託を禁じるため、四大公爵家内での一切の結婚や養子縁組が禁止されている。俺の場合は父上が王族系の血統で母上が伯爵家出身だ。
それと、王家以外は四大公爵家と貴族でも平民との婚姻が可能だ。まあせっかく高い身分の家に生まれたのにわざわざ好き好んで平民と一緒になる者は滅多にいないと思うが、念の為に言っておく。
湯浴みを終え、魔王について書かれている本を読んでいると、扉を叩く音が聞こえてきた。
「入れ」
寝巻きに着替えたレオンが何冊かの本を抱えて部屋に入ってくる。
「思ったより遅かったな」
「お待たせして申し訳ありません。資料を探すのに時間がかかってしまいました」
優秀なレオンが、我が屋敷の書庫から数冊の本を揃えるのに時間を必要とするはずがない。所蔵している本の全ての位置を把握しているからだ。おそらく使用人の手伝いをしていたのだろう。
使われる立場の苦労に同情すると共に、レオンが見せるいじらしさに欲情しそうになるが、まずは頼まれた厄介事を片付けなくてはいけない。五日後までと言われようが、有能な者なら翌日までに提出するのが最低限だからだ。
「かまわない。俺はこっちを見るから、おまえは残り半分をやれ」
「はい。ジルベール様」
論文をパラパラとめくりながら、この国の民族が生まれながらに持っている能力と英雄についての歴史について読み進めていく。
『ディーツェル大陸のほぼ中央に位置しているグレンロシェ王国は、今から約五百年前に建国された。文献によると、以前は同じ民族同士で内戦が多発し小国が乱立していたが、突如襲来した魔王と魔物によって国々は壊滅状態に陥った。そこで人々は、いがみ合うことを止めて手を取り合って戦い、ついに一人の英雄の出現により魔王は再び消え去った。そして、その者を中心として一つの大きな国を作り、その創始者一族が王家として現在まで続いている』
「こんなの、この国の者なら平民の子どもでも知っている話だぞ」
文句を言うと、真剣な顔で読んでいたレオンが顔を上げた。
「そうですね。ですが――興味深い話も書いてありますよ。こちらです」
レオンが指で示した部分に目を向ける。
『グレンロシェの民族は、王族から平民まですべての者が生まれた時から何かしらの異能を持っている。戦闘向けや家事に役立つ能力など用途や力の強さは様々だが、ほとんどの者は父親か母親、どちらかと同じ能力を受け継ぐ。訓練により鍛えることは可能。しかし、各々の力量は出生時に確定しているため限界がある』
要するに、少しの火しか扱えない能力の平民は料理屋を営み、もう少し強い火力を出せるなら鍛冶屋をする――といった具合だ。同じ火を使う異能でも、貴族に多い戦闘向けとでは根本的に違う。その他にも遠方の天気を感じられる(天気予報屋をする)や小さい物を飛ばせる(手紙の伝達を請け負う)、人の髪色を一定期間変えられる(美容院を営む)など色々あるが、結局平民は平民の仕事から抜け出せない。
「これだってとっくに皆知っているぞ」
「いえ――その後に続いている箇所なのですが……英雄についての記載です」
『基本的に能力は我々にとって自然な行いであるため、使用時も外見などに変化は起こらない。しかし英雄が魔王と戦った時、彼の内なる血と混ざり青色の瞳が紫色になったと言われている。その後も現在までに二人、王家の血を引く者から英雄が現れた。彼らも魔王から国を守るため力を発揮した際、同様に目の色が変わったことで英雄と証明された…………』
「ご存知でしたか?」
「いや、俺も知らなかった。という事は今もまだ気が付いていないだけで英雄がいるかもしれないってことか? 興味深いな」
当然ながら自分の中にも王家の血が通っていて、その可能性があることは十分に考えている。
「そうかもしれないですが、魔王が襲ってくることは良くない事ですので……」
「そう固いこと言うなよ。実際魔王が現れても毎回解決しているんだから問題ないだろ」
もし俺なら――と、国民から熱い声援を受ける姿をいやでも想像してしまう。目の色も初代英雄と同じ青だし!
おっと危ない。ニヤつきが顔に出そうになったので、急いで頬の内側の肉を噛んで堪えた。まあレオンになら知られてもかまわないが――と思いつつレオンを見たら彼も俺をじっと見ていたので本当に気付かれたのかもしれない。
正式な会食の場合は家族のみだが、普段は小さい頃からレオンと一緒に食べることが日常になっている。当然レオンは遠慮したが、俺が一人だと味気ないと言い強要したのだ。
「シャンティエ。今夜レオンと一緒に課題をするから俺の部屋に夜食――茶とフルーツがいいな――を届けてくれ」
古くからいる年老いたギファルド家付きの侍従に頼む。
「かしこまりました。本日はジルベール様がお好きな葡萄がございますのでお持ちいたします。レオンも好きでしたね」
この侍従は、当家子息の俺だけでなく、同じ使用人の息子――なんなら侍女であるレオンの母、クリスティーナよりも筆頭侍従のシャンティエの方が立場が上――にもかかわらず、レオンに対しても慇懃に接する。
シャンティエの人柄が素朴ということもあるが、俺とレオンが常に一緒にいて(表向きは)友人みたいな関係にあることを考慮しているのだと思う。
夕食中はいつものように俺が一方的に学園のことや異能、政治について話し、レオンは飽きた顔もせずその麗しい顔で頷きながら聞いている。
彼は常に好意的で笑みを絶やさず愛想が良く、人前で怒ったり悩んでいるところを見せない。レオンの母、クリスティーナ譲りだろう。
彼女は茶色のふわふわの髪と緑色の瞳で若い頃は絶世の美女と名が高かったらしく、現在でもその面影が存分に残っている。だがそんな彼女でも伴侶に恵まれなかったのか、レオンに父親はいない。
失踪したのか生きているのか、そもそも誰か分かっているのか――彼女が口を割らないためそれすらも謎だ。
俺の両親、即ち――ギファルド公爵夫妻だが、父アンドレの母は王家の出身、前国王の末妹なので、父上は現在の国王と従兄弟の間柄になる。
アンドレは王家に多い黒髪と薄い茶色の瞳の柔和な雰囲気で、実際の性格も明るく親しみやすい。
だが俺は幼少期から厳しく躾られ、一定の距離を保たれているのを感じるが、それは俺が唯一の跡取りなので将来を考えてのことだろう。
逆に父上は、養育に責任のないレオンに優しく接することが多い。まあ、使用人達に親和的にするのは雇い主として正しい態度だ。厳しいばかりでは反発を生む。
それと勝手な想像だが、クリスティーナの美しさも関係している気がする。彼女は素朴で控え目な性格だが、彼女が望まなくても自然と優遇される。それくらい男を惑わせる見た目を持っている。
俺の母エロイーズも負けず劣らず有名な美人で、俺の神々しいまでの金髪碧眼は完全に彼女からの遺伝だ。
ちなみに、この国は四つの階級に分けられている。まずは王家、そして――俺が属している四大公爵家がある。その次がその他貴族、そして残りの大部分が平民というわけだ。
力の均衡を保つため、婚姻に関していくつかの決まり事がある。王家に嫁いだり、降嫁したりするのは四大公爵家のみで、偏りがないよう配慮されている。
年の合う相手がいなかったり、いたとしても血が近い場合には外国の王家か高位貴族が検討され、我が国の他の貴族との関係は結ばない。
四大公爵家に関しては結託を禁じるため、四大公爵家内での一切の結婚や養子縁組が禁止されている。俺の場合は父上が王族系の血統で母上が伯爵家出身だ。
それと、王家以外は四大公爵家と貴族でも平民との婚姻が可能だ。まあせっかく高い身分の家に生まれたのにわざわざ好き好んで平民と一緒になる者は滅多にいないと思うが、念の為に言っておく。
湯浴みを終え、魔王について書かれている本を読んでいると、扉を叩く音が聞こえてきた。
「入れ」
寝巻きに着替えたレオンが何冊かの本を抱えて部屋に入ってくる。
「思ったより遅かったな」
「お待たせして申し訳ありません。資料を探すのに時間がかかってしまいました」
優秀なレオンが、我が屋敷の書庫から数冊の本を揃えるのに時間を必要とするはずがない。所蔵している本の全ての位置を把握しているからだ。おそらく使用人の手伝いをしていたのだろう。
使われる立場の苦労に同情すると共に、レオンが見せるいじらしさに欲情しそうになるが、まずは頼まれた厄介事を片付けなくてはいけない。五日後までと言われようが、有能な者なら翌日までに提出するのが最低限だからだ。
「かまわない。俺はこっちを見るから、おまえは残り半分をやれ」
「はい。ジルベール様」
論文をパラパラとめくりながら、この国の民族が生まれながらに持っている能力と英雄についての歴史について読み進めていく。
『ディーツェル大陸のほぼ中央に位置しているグレンロシェ王国は、今から約五百年前に建国された。文献によると、以前は同じ民族同士で内戦が多発し小国が乱立していたが、突如襲来した魔王と魔物によって国々は壊滅状態に陥った。そこで人々は、いがみ合うことを止めて手を取り合って戦い、ついに一人の英雄の出現により魔王は再び消え去った。そして、その者を中心として一つの大きな国を作り、その創始者一族が王家として現在まで続いている』
「こんなの、この国の者なら平民の子どもでも知っている話だぞ」
文句を言うと、真剣な顔で読んでいたレオンが顔を上げた。
「そうですね。ですが――興味深い話も書いてありますよ。こちらです」
レオンが指で示した部分に目を向ける。
『グレンロシェの民族は、王族から平民まですべての者が生まれた時から何かしらの異能を持っている。戦闘向けや家事に役立つ能力など用途や力の強さは様々だが、ほとんどの者は父親か母親、どちらかと同じ能力を受け継ぐ。訓練により鍛えることは可能。しかし、各々の力量は出生時に確定しているため限界がある』
要するに、少しの火しか扱えない能力の平民は料理屋を営み、もう少し強い火力を出せるなら鍛冶屋をする――といった具合だ。同じ火を使う異能でも、貴族に多い戦闘向けとでは根本的に違う。その他にも遠方の天気を感じられる(天気予報屋をする)や小さい物を飛ばせる(手紙の伝達を請け負う)、人の髪色を一定期間変えられる(美容院を営む)など色々あるが、結局平民は平民の仕事から抜け出せない。
「これだってとっくに皆知っているぞ」
「いえ――その後に続いている箇所なのですが……英雄についての記載です」
『基本的に能力は我々にとって自然な行いであるため、使用時も外見などに変化は起こらない。しかし英雄が魔王と戦った時、彼の内なる血と混ざり青色の瞳が紫色になったと言われている。その後も現在までに二人、王家の血を引く者から英雄が現れた。彼らも魔王から国を守るため力を発揮した際、同様に目の色が変わったことで英雄と証明された…………』
「ご存知でしたか?」
「いや、俺も知らなかった。という事は今もまだ気が付いていないだけで英雄がいるかもしれないってことか? 興味深いな」
当然ながら自分の中にも王家の血が通っていて、その可能性があることは十分に考えている。
「そうかもしれないですが、魔王が襲ってくることは良くない事ですので……」
「そう固いこと言うなよ。実際魔王が現れても毎回解決しているんだから問題ないだろ」
もし俺なら――と、国民から熱い声援を受ける姿をいやでも想像してしまう。目の色も初代英雄と同じ青だし!
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