公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します

市之川めい

文字の大きさ
8 / 57
第一部

模擬戦訓練

「第七隊員はまだ誰も捕まっていませんか?」
 
 レオンが気を取り直すように、落ち着いた声で問う。
 
「はい。僕が聞こえた範囲内ではおそらく……」
「なら、アレックス達が抜けた分、より厳しくなるな」
 
 俺はこう口にしつつ、ずっと何もラファエルが言わないことを不思議に思い、彼の顔を見た。
 
「ラファエル。どうしたんだ?」
 
 おい、目は半開きになってるし、うとうとしていないか?
 
「今は俺達への襲撃はないんだよな? なら俺は少し寝てもいいよな」
 
 それはもちろん、先ほどの話し合いで決めたことだから問題ない。だがどうして協力する姿勢を見せない? 落ちこぼれを理解しようとするのはむだかもしれないが――不思議だ。
 
「じゃあ話し合った通り、二時間たったら交代のために起こすよ。作戦決行は予定通り明日早朝で」
「というか見張りならダッドがいるじゃないか? 俺らがするよりよっぽどいいだろ」
 
 それを聞いたダッドが何か言おうとしたが、レオンが制した。
 
「ラファエル様、ダッドにも休息は必要です。ダッドの能力がなければ作戦実行にも支障が出ます。捕獲できなければ私達全員の成績にも関わりますので……」
「分かってるよ! 平民のくせに知った口利くなよ。見張りだって全部平民がやればいいのに」
 
 今度は俺が口を出そうとしたが、レオンとリューイに止められた。だがこの場でラファエルに意見できる立場のものは俺しかいない。
 
「ラファエル。作戦を成功させるためにはチームワークと体力温存が大事だ。俺達が見張っているからまずはゆっくり休め。その後は力になってもらうぞ」

 
 一回目のローテーションは、外の見張りが俺とレオン、中の見張り兼食料補給がリューイ、休息がラファエルとダッドに決めてある。
 俺はレオンとともに外から見えない位置に陣取った。入口の両脇なので少し距離があり、私的な会話はできないし、そもそもダッドがいるからどんなに小さい声で話しても内容が聞こえてしまう。俺達はじっと目を凝らして外を見るしかなかった。

 何事もなく時間が過ぎたので、当初の予定通り交代する。次は外――ラファエルとダッド、中――レオン、休――俺とリューイだ。
 傍でレオンが洞窟の内側の見張りをしている。体を休めなくてはいけないのに、視姦しかんされているようで落ち着かない。

 もうすぐ日が暮れる。暗くなれば行動に支障がでるが、相手も同条件だ。作戦としては、気が少し緩む時間――夜が明けたと思い安心する瞬間を狙い大雨を起こすことになっている。そのため、それまでいかに体力を温存しつつ第七隊から見つからないよう気を付ける必要がある。まともに狙われれば敵わない。
 だが、やはり相手は国王軍だ。その願いも虚しく見つかったようだ。

「――敵です! 一キロ以上先にいますが直接こちらに向かっているようです」

 一番に相手の襲来を察知したダッドが叫ぶ。もちろんその声に、休んでいた俺とリューイもすばやく起き上がった。

「ジルベール様。私の後ろに隠れていて、敵が来たら捕獲をお願いします」

 レオンの声に俺は頷き、岩が突き出て陰になっている部分に身を隠した。

「一キロを切りました、第七隊の隊員はおそらく二人です。気を付けてください」

 ダッドが言う。皆が神経を尖らせ、襲来に備える。緊張のためか、実際は短い時間だろうにとても長く感じられた。
 
「残り二百メートルを切りました。百メートル……六十……ラファエル様、お願いします」
「分かった」

 ラファエルが水を出す。それと同時にレオンが風で全体に広げるようにして霧雨を作った。
 そう、霧雨――だ。初めの予定は大雨だったのに。ラファエルが言っていた量より確実に少ない。体調が悪いのか盛ったのか分からないが、作戦を立てるのに確実な情報提供が基本と知らないのか?
 だが今そんなことをなげいても仕方ない。細雨さいうだろうが晴れよりは視界が悪くなるし、そもそもどんな状況にも対応できなければ魔王との戦いになど到底勝てないのだから。

 この少ない水の量では視界を奪えないため、レオンが機転を利かし、風を竜巻のようにして洞窟の入口を防御し始めた。

「ジルベール様、ラファエル様。合図したら風を止めますので捕獲をお願いします。ダッド、相手の動きを聞いて、時機を教えてください」
「分かりました」

 風の音で聞きづらいだろうが、ダッドが集中して耳をすませている。俺もいつでも飛び込めるよう、手に青い布を持ち構えている。

「ジルベール様。一人、左側の岩の裏に隠れています。レオンくん、竜巻を止めてラファエル様と雨を作ってください。十秒後です」

 合図とともにレオンとラファエルで小雨を作り、それと同時に俺は左側の岩に向かって一気に飛び出した。それに気付いた隊員が右側にけようとしたく手を火ではばみ、その怯んだ隙に布をかけようとしたが――一瞬の内に炎は異能によって出された砂で消火され、隊員の姿が見えなくなった。どこだ?
 その答えを出す前に、後ろ側――洞窟の入口の方から突然、空気を裂くような砂嵐の音と太い叫び声が聞こえてきた。
 振り返って見ると、レオンが一人の隊員に布を付けたところだった。

「リューイ、こちらの隊員、怪我はしてないはずですが、念の為確認をお願いします」

 戦闘向きでないため、洞窟の中にいたリューイにレオンが言った。実際に魔王や魔物が現れた時も、治癒能力を持つ者が一番しなくてはならないのは戦闘回避だ。本人が負傷してしまって仲間を治せない。ちなみに――こういった模擬試験では、リューイのような生徒が正義感に駆られて戦闘に参加せず、いかに自身の身の安全確保を最優先できるかも採点される。

「ラファエル様――右です」

 ダッドの声に応じて皆が一斉にその場所を見たら、もう一人の隊員が布をラファエルに付けようと向かっているところだった。
 俺は咄嗟に火を出して援護し、ラファエルにその場を離れるよう促した。だが彼は動かない。

「ラファエル、どうした?」
「――体が動かせない」

 この隊員の異能か? 俺は二人の間に火を保ちつつ回りこんだ。距離があるが能力が分からないため迂闊うかつに近付けない。とその時、動けるようになったラファエルがレオンと連係して雨を作った。

「ジルベール様。斜め左、五メートル先です」

 ダッドの声が聞こえ俺はすぐにその方向へ行くが、やはり後少しというところで体の自由が効かなくなった。やばい、やられる――だがそれに気が付いたレオンが風を一瞬止めて視界を晴らし、そして隊員を見つけるやいなや、隊員を囲むように風を回転させた。

「ジルベール様。おそらく時間が経てば動けるようになりますので、そしたら火で向こうの動きを牽制してください」

 動けるようになると、俺はレオンに指示を出した。

「レオン。止めろ」
「はい」

 左側に行こうとした隊員の動きを炎で止め、そのまま彼から見えない位置まで行く。レオンが囮になり動きを止められた瞬間に、隊員の背中側から俺が布を付けた。

「さすがだな。国王軍にまで名が聞こえているだけある」

 捕まった隊員が感心したように言った。その目は俺達に向いているが、レオンを中心に写しているように見える。
 そして彼は独り言のようにぶつぶつと何か囁いた。おそらく監督と一緒にいる隊員に遠距離会話の異能を持つ者がいるのだろう。少ししたら一人の隊員がやってきた。

「よし。一班、二人確保だな。その調子で引き続き終了時刻まで頑張ってくれ」

 三人はそのまま俺達から離れて行った。残った俺達は一度洞窟の中へ戻り、これからの行動を話し合うことにした。
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました

多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。 ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。 ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。 攻め ユキ(23) 会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。 受け ケイ(18) 高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。 pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中

俺の名前を呼んでください

東院さち
BL
双子の妹ローレッタの代わりに王妃様のお話相手になるべく王宮にでかけたルーファスは、王太子様に庭に置き去りにされ風邪をひいてしまう。看病をされていたはずなんだけど、大人の嗜みを教わることになって……。「え、そんなことを皆やってるの?」大人の世界って怖い。 他サイト様で投稿済み。同人誌も出してます。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。 貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。 一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。 そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。   ・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め ・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。 ・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。 ・CP固定・ご都合主義・ハピエン ・他サイト掲載予定あり

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。