公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します

市之川めい

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第一部

夜は長い

「誰も怪我はしていないな? 終了までどうするか」
「どういう意味だ?」

 ラファエルは本当に分からない、という感じだ。

「二人に布を付けたからノルマは一応達成しただろう? このまま隠れて時間をやり過ごすか、他の隊員の確保も積極的に行うかだ。もちろん好戦的なほうがいいだろうが、逆に動いて俺達が捕まってしまえば評価に影響するだろう。何か意見があったら言ってくれ」
「以前聞いた話によりますと――実際に昔、魔王と対戦した際も基本的に国王軍は国民を守り、条件が良い時に攻撃をしたそうです。今はもう外も暗いですし――ここは下手に動かないほうが良いかと思います」

 リューイの言葉に皆が同意したので、俺達はまた先ほどと同じように見張り、休憩とそれぞれ持ち場についた。ダッドが聞き取れた音によって状況の変化があったことが分かれば、その都度俺達に情報を共用する。闇夜の中でいくつかの班が狙われ何人かが捕まえられたみたいだが、俺達の班は結局その後は何もなく朝を迎えた。

 昼前に、終了を告げる音が森全体に響き渡った。全員が前日の解散場所まで急いで戻る。途中いくつかの班に遭遇したが、それぞれの班で生徒数人が欠けているのが分かった。残っていた生徒が全員揃ったところで隊長が口を開いた。

「諸君。これから学園に戻るが、訓練が終了したからといって気を抜かぬように。常に魔王と魔物が襲ってくるかもしれないという緊張感を忘れるな」

 疲労が顔に出ている生徒も少なくなかったが、皆が頷き表情を引き締めた。隊長に連れられて学園への道を歩く。捕まえられた生徒はすでに学園に戻っており、それぞれ自習をしているはずだ。
 結局班のメンバー全員が残っているのは俺達を含めて十班中三班だけだったし、その二班も一人ずつの隊員に布を付けたのみだったので、俺達の班が一番の成績と言って良いだろう。

 この結果は学園内の、訓練に参加していない生徒やその家族、国王軍にもすぐに伝わる。
 案の定、レオンとの夕食時、王宮から帰宅し食堂に顔を出した父上に話しかけられた。

「父上、おかえりなさいませ」
「アンドレ様、おかえりなさいませ」
「ジルベール、レオン。模擬訓練、無事に終わったようだな。結果を聞いたが悪くはない、むしろ第七隊相手に良くやった。だが――実際に魔王が出たとしたら今のままでは防戦が精一杯だろう」

 父上は若い頃国王軍に所属して活躍し、現在は軍事宮で高官を務めている。軍での実力はもちろん政務にも優れ、ギファルド家にという名前も相まって国内でも大変な有名人だ。

「父上、お伺いしたいのですが……」
「何だ?」
「父上は魔王に遭遇――戦ったことがおありですか」

 英雄はグレンロシェの歴史、五百年の間に三人しかいないが、英雄がいない間は魔王もいない、というわけではない。

「ある。だが――私が戦ったのは隣国でだ。隣国を魔王と魔物が襲い、自国の軍だけでは制圧できず周辺の国に応援要請があったのだ」
「その時に英雄は現れなかったのでしょうか」

 父上が首を横に振って否定した。
 
「グレンロシェの国民はもちろん、魔王が襲来した隣国の国民にもいなかった。あの時は数の力で魔王を帰らせた。多くの兵士や市民の犠牲を代償にして。お前達は知っているか? 英雄がいなくとも、数カ国が協力すれば魔王を何とか退けられる。だが、英雄なら一人で互角――どころか圧倒的な強さを持つ上、被害も最小限に抑えられる。しかし、英雄の出現については、分からないことの方が多い」
「そういえば……以前の英雄について、父上はご存知ですか?」
「何が知りたい?」
「どのような立場の人で、英雄になった後はどうなったのかを……」
「初代はこのグレンロシェ王国を建てて王になった。それは知っているな?」
「はい」

 俺の横で、もちろんレオンも真剣に話を聞いている。

「次の英雄は――確かそれから約百年後に現れたが、当時の第二王子だった。だが第一王子は幼少期から病弱だったため、そもそも英雄になる前から皆、彼の方が国王になると思っていたらしい。なのでそのまま王位を継承している。その次の三人目は……今から百五十年くらい前か」

 溜息ためいきを小さくついた後、話を続けた。

「当時のベルディア公爵と降嫁された王族出身の夫人の間にできた子息だった」

 ベルディア公爵家はラファエルの家だ。だから威張っているのか……という感情とともに、ではなぜ英雄を出す血筋なのに能力が低いのか……という疑問も湧く。

「グレンロシェの国王は男系重視だが絶対ではない。そのため英雄であり、王家の血を引くその彼を次期国王にと推す声が多かったらしい。だが当時の国王――英雄にとっての伯父が、我が子を優先させるために濡れ衣を着せて英雄とその両親である公爵夫妻を捕らえ、取引をしたそうだ」
「取引――ですか?」
「ベルディア公爵家を取り潰さない代わりに爵位を弟に譲り、英雄である甥は王宮で王子我が子のサポートをするようにと」
「それで……英雄の父上はその条件を飲まれたと?」
「ああ。公爵は取り潰しによって職を失う使用人達の身を案じたようだ。実際は――その取引に公爵の弟も絡んでいたという噂もあったらしい。そして……英雄は監視をされながら、飼い殺しのような形での王宮生活を強いられた」

 兄一家を国王に売ってまで爵位を継ぎたがるような人の子孫であるならば、ラファエルの性格も納得というものだ。

「文献にもこういう話までは載っていませんので勉強になりました。父上、ありがとうございます」
「ジルベール、魔王はいつ現れるか予測がつかない。そのためいつでも大丈夫なよう、これからも励むが良い。レオンもだ」
「はい」
 
 頷くと、父上はシャンティエを伴い自室へと向かった。料理は冷めてしまったが仕方ない。新しい物を作り直そうとする使用人達を笑顔で止め(もちろん本心からではない)、食べ終えると冷えた胃を温めるために熱い茶を頼んだ。
  
「レオン」
「はいジルベール様、何かございますか」
「今夜、支度が全部終わったら寝る前に俺のところへ来い」
 
 レオンは一瞬その緑色の瞳に感情を浮かべたように見えたが、俺はその思いを掴み取り損ねた。
 
「はい、かしこまりました。遅くならないようにいたします」

 
 ソファに座って本を読んでいると、来客が来たのを告げる――扉を叩く音が耳に入った。
 
「入れ」
 
 寝る前にと言ったので、いつものレオンらしいきっちりとして皺ひとつない服ではなく、無礼にならない程度のゆったりとしたズボンとシャツを着ている。これも見慣れているとはいえ、普段との違いに欲情する。
 湯上り後すぐに来たのか、髪は完全に乾いておらず顔も少し赤く火照っている。
 やばい――本当に美味そうだ。がっつきたいくらいに俺の服の下は興奮しているが、それを表面には出さいないよう抑え込む。

「疲れているか?」
「いえ、大丈夫です」

 俺は奥の方の部屋へ行きベッドに腰をかけ、普段はこちらに入らないレオンにも来るように促した。

「ジルベール様、横になっていただけますか?」

 レオンの方から積極的にするとは都合が良い。天井を見るようにそのまま寝転んだ。

「いえ、仰向けではなくうつ伏せでお願いします」
「うつ伏せ? 何でだ?」
「あの……マッサージをするにはうつ伏せでないと……」

 ああ、マッサージ……違うことを考えすぎて頭から抜けていた。模擬訓練だったから、レオンはマッサージのために呼ばれたと思っているのだろう。その後に性欲処理をさせることもあるが、まさか俺がレオンとやりたいと考えているなどとは想像もしていないに違いない。

「いや、マッサージは必要ない」

 起き上がりながら言うと、レオンは合点がいったように違う提案をしてきた。

「分かりました。ではいつものように口でいたします」

 頼む――と言おうとしたが、達したらまたすぐにできるようになるか分からない。それに初めに挿れる準備をしたほうが効率が良いだろう。
 
「大丈夫だ」

 レオンが黙った。主人が何を望んでいるのか必死に考えている。

「レオン、服を脱げ」

 恭順なレオンは何も顔に出さず、素直に従った。もちろん脱いだ服は綺麗に畳んでいる。

「こちらに置かせていただいてもよろしいでしょうか」
「かまわない」

 ベッドの横にあるローテーブルにシャツとズボンを置いたレオンに、俺は告げた。

「下着もだ」

 一瞬の硬直と瞬きの後、レオンはその一枚も取り除いた。
 初めて目にしたレオンのそれは、控えめで慎重な性格とは裏腹に、大きく主張している。漆黒の髪の間に見える緑色の瞳に写っているのは羞恥心だろうか。

「こっちに来い」

 明日の朝の授業はないし夜は長い――楽しめそうだ。
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