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第四話
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・・・恵介さん。ねぇ恵介さんってば。あらら、完全に固まってるよ、参ったな。そこまで恐がられちゃあ、さすがに蛇も可哀想だ。どれ、待ってておくれ。今お堂の外へ逃がしてくるから。
やぁやぁお待たせ。外はすっかり夕暮れだったよ。烏たちも帰り支度を始めていたね。ほら、鳴き声が聞こえるだろう?彼らは夜目が利かないから暗くなる前にねぐらへ戻れるといいけれど。
烏が不気味だって?そうかねぇ。確かに黒くて大きな身体をしちゃいるが、あれでなかなかきれいな鳥だ。今度太陽の下でよぅく観察してごらん。紫や緑に光る羽根が見れるはず。それにね、よその国では閻魔様の御使いとも言われてるんだ。・・・その顔、さては信じてないね?本当さ。彼らは賢い。恵介さんも知らぬ間に世話になったことがあるかもよ?おや、また疑って。じゃあこんな話を教えてあげよう。
昔この町に住んでいた夫婦の話だ。辺りの海が埋め立てられて、どんどん建物が増えた頃。様子の一変した町には烏も随分と増えてねぇ、誰も彼もがしかめっ面で黒い鳥たちを追い払ったものさ。なにせ電線の上から近所の路傍から、どんなところにも彼らは集ったから。そりゃ黒くて大きな鳥がわんさかいたら恐いだろうが、人間ってぇのは容赦がない。ひとたび厄介者だとレッテルを貼りゃ徹底して追い立てやがる。そんなわけで彼らも苦労してたんだ。
けれどもこの夫婦は別段烏を嫌うことはなかった。道行く人らのように睨みもしなきゃ石も投げないし、箒を持って追い回すこともしない。嫁に至っては烏にやさしく声までかけてたっていうから、彼らからしてみたら、まぁ珍しい人間だったろう。
そんな中、夫が仕事で海を渡るとなった。仕事となれば否やも言えず、嫁は旦那を送り出す。しかしねぇ、筆不精なのかなんなのか、夫は連絡をとんと寄越さないときた。長い間嫁はヤキモキしながら家を守ったのさ。夫の帰りは今日か明日かと待ちわびてね。恵介さんは将来、奥方にきちんと便りを出せる大人になるんだよ?女人を怒らせるのは寿命が縮むくらい恐いんだ。え?経験があるのかって?・・・あるような、ないような・・・そこは察しておくれよ。
ある日嫁がいつものように家事に精を出していると、庭に一羽の烏がやって来た。嫁の方をちょいと向き、明るい様子でカァと鳴く。これを聞いた嫁は「あら、夫は今日戻るのだわ」とこぼしたそうだ。まわりは当然「あるわけない」と笑ったけれど、まさかまさか。本当にその日の暮れ前に、夫がふらり帰り着いたから驚きだよ。自分が連絡もなしに戻ったのに、これっぽっちも驚かない嫁に旦那は首を傾げて見せる。「烏がそのように鳴いたから」なんて聞かされたって、普通は分かりゃしないもの。
これが一度で済んだと思ったら大間違い。夫婦の子供もその孫も、事あるごとに烏の恩恵を受けた。道に迷っても彼らの姿を追えばすんなり目的の場所に着いたし、なにか選択を迫られた時は彼らの鳴き声で良し悪しを判じた。不思議なモンで、大体当たるから八卦師・・・つまるとこ占い師も商売あがったりってなわけでねぇ。その一族は今でも「烏鳴き」と呼んで、皆あの黒い鳥たちを大事にしてるって話さ。
よく言うだろ、一寸の虫にも五分の魂。彼らにもちゃんと心や魂がある。大切にされれば向こうも憎からず思ってくれるんだ。どうだい、烏の賢さを見込んで彼らの友人になってみやしないか?人生何事も経験ってね。
そら、丁度扉の隙から、黒い目がこちらを覗いているんだし。
やぁやぁお待たせ。外はすっかり夕暮れだったよ。烏たちも帰り支度を始めていたね。ほら、鳴き声が聞こえるだろう?彼らは夜目が利かないから暗くなる前にねぐらへ戻れるといいけれど。
烏が不気味だって?そうかねぇ。確かに黒くて大きな身体をしちゃいるが、あれでなかなかきれいな鳥だ。今度太陽の下でよぅく観察してごらん。紫や緑に光る羽根が見れるはず。それにね、よその国では閻魔様の御使いとも言われてるんだ。・・・その顔、さては信じてないね?本当さ。彼らは賢い。恵介さんも知らぬ間に世話になったことがあるかもよ?おや、また疑って。じゃあこんな話を教えてあげよう。
昔この町に住んでいた夫婦の話だ。辺りの海が埋め立てられて、どんどん建物が増えた頃。様子の一変した町には烏も随分と増えてねぇ、誰も彼もがしかめっ面で黒い鳥たちを追い払ったものさ。なにせ電線の上から近所の路傍から、どんなところにも彼らは集ったから。そりゃ黒くて大きな鳥がわんさかいたら恐いだろうが、人間ってぇのは容赦がない。ひとたび厄介者だとレッテルを貼りゃ徹底して追い立てやがる。そんなわけで彼らも苦労してたんだ。
けれどもこの夫婦は別段烏を嫌うことはなかった。道行く人らのように睨みもしなきゃ石も投げないし、箒を持って追い回すこともしない。嫁に至っては烏にやさしく声までかけてたっていうから、彼らからしてみたら、まぁ珍しい人間だったろう。
そんな中、夫が仕事で海を渡るとなった。仕事となれば否やも言えず、嫁は旦那を送り出す。しかしねぇ、筆不精なのかなんなのか、夫は連絡をとんと寄越さないときた。長い間嫁はヤキモキしながら家を守ったのさ。夫の帰りは今日か明日かと待ちわびてね。恵介さんは将来、奥方にきちんと便りを出せる大人になるんだよ?女人を怒らせるのは寿命が縮むくらい恐いんだ。え?経験があるのかって?・・・あるような、ないような・・・そこは察しておくれよ。
ある日嫁がいつものように家事に精を出していると、庭に一羽の烏がやって来た。嫁の方をちょいと向き、明るい様子でカァと鳴く。これを聞いた嫁は「あら、夫は今日戻るのだわ」とこぼしたそうだ。まわりは当然「あるわけない」と笑ったけれど、まさかまさか。本当にその日の暮れ前に、夫がふらり帰り着いたから驚きだよ。自分が連絡もなしに戻ったのに、これっぽっちも驚かない嫁に旦那は首を傾げて見せる。「烏がそのように鳴いたから」なんて聞かされたって、普通は分かりゃしないもの。
これが一度で済んだと思ったら大間違い。夫婦の子供もその孫も、事あるごとに烏の恩恵を受けた。道に迷っても彼らの姿を追えばすんなり目的の場所に着いたし、なにか選択を迫られた時は彼らの鳴き声で良し悪しを判じた。不思議なモンで、大体当たるから八卦師・・・つまるとこ占い師も商売あがったりってなわけでねぇ。その一族は今でも「烏鳴き」と呼んで、皆あの黒い鳥たちを大事にしてるって話さ。
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