貴族子女の憂鬱

花朝 はな

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第一話 婚約者候補に拒否られました①

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 私はため息をついた。
 とても憂鬱だった。

 「・・・ぼ、僕は買われていくのかい・・・?」

 彼のほうから呼び出された。
 まったく珍しいこともあるものだと私は訝し気にしながらも、一応誠意を見せるために言われたところへとやってきたのだが・・・。

 彼はお付きのものだろうか、同年代だろう数名と壁際に立っていた。

 私がさらに訝し気にしながらも、一礼をすると、彼はキョトキョトと目を忙し気に動かしながら私の礼を受け、優雅とは程遠いが一応礼にも見えそうなモノを見せた。

 その姿を見て声をかけようと口を開きかけたのだが、彼のほうが先に声を上げた。それが、冒頭のものだ。

 「?買われて・・・?」

 はあ?意味が分からない。何を言っているのだろう。

 「だってそうだろう?私は侯国の王子の一人だ。小なりといえ、れっきとした王侯貴族の一人。
 だがそなたはログネルの武官。そなたはログネル王宮で働いているのだろう?」

 「?その通りですが・・・。私に働くなと?しかしそれはログネルでは通用しませんが・・・?」

 脈絡がないので、さっぱりわからない。

 「そ、そういうわけではない・・・、ないのだ・・・」

 「???」

 なぜかうつむき口ごもる侯国の王子様。

 「・・・そ、そなたと婚約はしたい・・・。そ、そなたの美貌は、我が侯国でもずば抜けているからな・・」

 「・・・ありがたいお言葉です。私程度の顔はログネルでは標準ですが、そう思っていただいているのはうれしく思います」

 私の言葉に一瞬嬉し気に笑顔がこぼれる王子だが、すぐにうろたえたようになり、目をそらしてうつむく。

 「・・・だがな・・・ぼ、僕は侯国の王子。・・・学園を卒業後は侯国に戻って、父上や兄上たちの補佐をしなければならない身の上なのだ・・・。侯国内の、ま、まつりごとに携われば、その内容は、た、他の国に、し、知られてはならないんだ」

 「・・・」

 「・・・こ、このまつりごとに関しては、国のためま、守らなくては、ななならない・・・」

 「・・・」

 「僕は侯国以外の国へは、い、い、行けないことになっているんだ」

 何を言っているのかはわからないが、どうやら王子の一人である彼は、私と婚約してログネルに移動するのが嫌らしい・・・。ログネル王国は大陸一の強国だが、好戦的な民族と蔑む傾向が、侯国をはじめ大陸南側に存在する小国には多い。どうやら王子は蔑むわけではなさそうだが、ログネルは好戦的という話を聞き、武芸の成績が芳しくない王子は、私と婚約すれば、すぐさま戦場に送り込まれるのではないかと恐怖したようだ。

 まあ何を勘違いしているのかわからないが、王子、あなたのような戦でいの一番に命を落としそうなあなたはまず、戦場に行くことはないです。町の守りにつくぐらいでしょうね。なので安心して。 

 それに今回の婚約には私のお相手は必ずログネルに来て貰う。婚約したらログネル以外で暮らす選択肢はないのですよ。私が、お相手を、ログネルに連れて行く。それが今回の婚約の大前提ですよ。

 私に花束を持って求婚したときに、私の侍従が説明したと思うんだけどね、花束を受け取って隣に立った時、私をチラチラ見て何だかあっちの世界に行ってしまったのか、やけに嬉しそうだったから、ひょっとして耳に入っていないかもと思ってたけど、ね。

 「ログネルには行けない、と言われるのですか?」

 「いや、行けないのではなく国の秘密を知るものだから、王族の許可は下りない」

 「・・・」

 なんでしょうね。ずいぶん自分勝手なことを言うじゃないですか。自分はログネルには行きたくないとか言ってますよね。婚約をやめましょうか。

 どうせできもしないことをしろとは言わないから、普通に夫としての役割をしてくれれば、何も望まないつもりでしたのに。

 「ぼ、僕はどちらかというとそ、そなたの容貌は気に入っている。だが、女だてらに剣をもってログネルの王宮をうろつくのは、決して良いことではない。ち、ち、違うかい?」

 良い所は顔だけみたいな言い方してくるわね、この王子・・・。

 私の心の言葉に気づかないのだろう、彼はきょろきょろと視線をさらに動かしながら切羽詰まったように話を続ける。

 「やはり考えたんだが、僕のような侯国の王子と婚約するつもりなら、そなたが侯国へと来るべきではないか?」

 いや、もう面倒だわ、この子供王子。私は軽くそうとは気が付かれない程度のため息を漏らした。

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