2 / 63
第一話 婚約者候補に拒否られました①
しおりを挟む
私はため息をついた。
とても憂鬱だった。
「・・・ぼ、僕は買われていくのかい・・・?」
彼のほうから呼び出された。
まったく珍しいこともあるものだと私は訝し気にしながらも、一応誠意を見せるために言われたところへとやってきたのだが・・・。
彼はお付きのものだろうか、同年代だろう数名と壁際に立っていた。
私がさらに訝し気にしながらも、一礼をすると、彼はキョトキョトと目を忙し気に動かしながら私の礼を受け、優雅とは程遠いが一応礼にも見えそうなモノを見せた。
その姿を見て声をかけようと口を開きかけたのだが、彼のほうが先に声を上げた。それが、冒頭のものだ。
「?買われて・・・?」
はあ?意味が分からない。何を言っているのだろう。
「だってそうだろう?私は侯国の王子の一人だ。小なりといえ、れっきとした王侯貴族の一人。
だがそなたはログネルの武官。そなたはログネル王宮で働いているのだろう?」
「?その通りですが・・・。私に働くなと?しかしそれはログネルでは通用しませんが・・・?」
脈絡がないので、さっぱりわからない。
「そ、そういうわけではない・・・、ないのだ・・・」
「???」
なぜかうつむき口ごもる侯国の王子様。
「・・・そ、そなたと婚約はしたい・・・。そ、そなたの美貌は、我が侯国でもずば抜けているからな・・」
「・・・ありがたいお言葉です。私程度の顔はログネルでは標準ですが、そう思っていただいているのはうれしく思います」
私の言葉に一瞬嬉し気に笑顔がこぼれる王子だが、すぐにうろたえたようになり、目をそらしてうつむく。
「・・・だがな・・・ぼ、僕は侯国の王子。・・・学園を卒業後は侯国に戻って、父上や兄上たちの補佐をしなければならない身の上なのだ・・・。侯国内の、ま、まつりごとに携われば、その内容は、た、他の国に、し、知られてはならないんだ」
「・・・」
「・・・こ、このまつりごとに関しては、国のためま、守らなくては、ななならない・・・」
「・・・」
「僕は侯国以外の国へは、い、い、行けないことになっているんだ」
何を言っているのかはわからないが、どうやら王子の一人である彼は、私と婚約してログネルに移動するのが嫌らしい・・・。ログネル王国は大陸一の強国だが、好戦的な民族と蔑む傾向が、侯国をはじめ大陸南側に存在する小国には多い。どうやら王子は蔑むわけではなさそうだが、ログネルは好戦的という話を聞き、武芸の成績が芳しくない王子は、私と婚約すれば、すぐさま戦場に送り込まれるのではないかと恐怖したようだ。
まあ何を勘違いしているのかわからないが、王子、あなたのような戦でいの一番に命を落としそうなあなたはまず、戦場に行くことはないです。町の守りにつくぐらいでしょうね。なので安心して。
それに今回の婚約には私のお相手は必ずログネルに来て貰う。婚約したらログネル以外で暮らす選択肢はないのですよ。私が、お相手を、ログネルに連れて行く。それが今回の婚約の大前提ですよ。
私に花束を持って求婚したときに、私の侍従が説明したと思うんだけどね、花束を受け取って隣に立った時、私をチラチラ見て何だかあっちの世界に行ってしまったのか、やけに嬉しそうだったから、ひょっとして耳に入っていないかもと思ってたけど、ね。
「ログネルには行けない、と言われるのですか?」
「いや、行けないのではなく国の秘密を知るものだから、王族の許可は下りない」
「・・・」
なんでしょうね。ずいぶん自分勝手なことを言うじゃないですか。自分はログネルには行きたくないとか言ってますよね。婚約をやめましょうか。
どうせできもしないことをしろとは言わないから、普通に夫としての役割をしてくれれば、何も望まないつもりでしたのに。
「ぼ、僕はどちらかというとそ、そなたの容貌は気に入っている。だが、女だてらに剣をもってログネルの王宮をうろつくのは、決して良いことではない。ち、ち、違うかい?」
良い所は顔だけみたいな言い方してくるわね、この王子・・・。
私の心の言葉に気づかないのだろう、彼はきょろきょろと視線をさらに動かしながら切羽詰まったように話を続ける。
「やはり考えたんだが、僕のような侯国の王子と婚約するつもりなら、そなたが侯国へと来るべきではないか?」
いや、もう面倒だわ、この子供王子。私は軽くそうとは気が付かれない程度のため息を漏らした。
とても憂鬱だった。
「・・・ぼ、僕は買われていくのかい・・・?」
彼のほうから呼び出された。
まったく珍しいこともあるものだと私は訝し気にしながらも、一応誠意を見せるために言われたところへとやってきたのだが・・・。
彼はお付きのものだろうか、同年代だろう数名と壁際に立っていた。
私がさらに訝し気にしながらも、一礼をすると、彼はキョトキョトと目を忙し気に動かしながら私の礼を受け、優雅とは程遠いが一応礼にも見えそうなモノを見せた。
その姿を見て声をかけようと口を開きかけたのだが、彼のほうが先に声を上げた。それが、冒頭のものだ。
「?買われて・・・?」
はあ?意味が分からない。何を言っているのだろう。
「だってそうだろう?私は侯国の王子の一人だ。小なりといえ、れっきとした王侯貴族の一人。
だがそなたはログネルの武官。そなたはログネル王宮で働いているのだろう?」
「?その通りですが・・・。私に働くなと?しかしそれはログネルでは通用しませんが・・・?」
脈絡がないので、さっぱりわからない。
「そ、そういうわけではない・・・、ないのだ・・・」
「???」
なぜかうつむき口ごもる侯国の王子様。
「・・・そ、そなたと婚約はしたい・・・。そ、そなたの美貌は、我が侯国でもずば抜けているからな・・」
「・・・ありがたいお言葉です。私程度の顔はログネルでは標準ですが、そう思っていただいているのはうれしく思います」
私の言葉に一瞬嬉し気に笑顔がこぼれる王子だが、すぐにうろたえたようになり、目をそらしてうつむく。
「・・・だがな・・・ぼ、僕は侯国の王子。・・・学園を卒業後は侯国に戻って、父上や兄上たちの補佐をしなければならない身の上なのだ・・・。侯国内の、ま、まつりごとに携われば、その内容は、た、他の国に、し、知られてはならないんだ」
「・・・」
「・・・こ、このまつりごとに関しては、国のためま、守らなくては、ななならない・・・」
「・・・」
「僕は侯国以外の国へは、い、い、行けないことになっているんだ」
何を言っているのかはわからないが、どうやら王子の一人である彼は、私と婚約してログネルに移動するのが嫌らしい・・・。ログネル王国は大陸一の強国だが、好戦的な民族と蔑む傾向が、侯国をはじめ大陸南側に存在する小国には多い。どうやら王子は蔑むわけではなさそうだが、ログネルは好戦的という話を聞き、武芸の成績が芳しくない王子は、私と婚約すれば、すぐさま戦場に送り込まれるのではないかと恐怖したようだ。
まあ何を勘違いしているのかわからないが、王子、あなたのような戦でいの一番に命を落としそうなあなたはまず、戦場に行くことはないです。町の守りにつくぐらいでしょうね。なので安心して。
それに今回の婚約には私のお相手は必ずログネルに来て貰う。婚約したらログネル以外で暮らす選択肢はないのですよ。私が、お相手を、ログネルに連れて行く。それが今回の婚約の大前提ですよ。
私に花束を持って求婚したときに、私の侍従が説明したと思うんだけどね、花束を受け取って隣に立った時、私をチラチラ見て何だかあっちの世界に行ってしまったのか、やけに嬉しそうだったから、ひょっとして耳に入っていないかもと思ってたけど、ね。
「ログネルには行けない、と言われるのですか?」
「いや、行けないのではなく国の秘密を知るものだから、王族の許可は下りない」
「・・・」
なんでしょうね。ずいぶん自分勝手なことを言うじゃないですか。自分はログネルには行きたくないとか言ってますよね。婚約をやめましょうか。
どうせできもしないことをしろとは言わないから、普通に夫としての役割をしてくれれば、何も望まないつもりでしたのに。
「ぼ、僕はどちらかというとそ、そなたの容貌は気に入っている。だが、女だてらに剣をもってログネルの王宮をうろつくのは、決して良いことではない。ち、ち、違うかい?」
良い所は顔だけみたいな言い方してくるわね、この王子・・・。
私の心の言葉に気づかないのだろう、彼はきょろきょろと視線をさらに動かしながら切羽詰まったように話を続ける。
「やはり考えたんだが、僕のような侯国の王子と婚約するつもりなら、そなたが侯国へと来るべきではないか?」
いや、もう面倒だわ、この子供王子。私は軽くそうとは気が付かれない程度のため息を漏らした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
悪役令嬢まさかの『家出』
にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。
一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。
ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。
帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる