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第四話 俺様な婚約者候補③
しおりを挟む「申し訳ありません、お嬢様」
サロンの使用時間がまだ残っていたので、そのまま時間まで使うことにして、カイサとエミリにも椅子に座ってもらってカイサが淹れたお茶を三人で飲む。カイサがお茶を一口含んで、カップを置き、頭を下げた。
「うん?ああ、あれのことね」
「・・・はい、申し訳ありません」
「わたくしも謝罪致します」
エミリも頭を下げる。
「お嬢様の評判に係ることでした」
「まあ、私の評判なんてどうでもよいことなんだけど。
でも、あれだけおつむの弱い人なんて思わなかったわね。アランコ王国の王族の評判はどうなの?カイサ」
「あの第三王子はダメの一言です。一番評判の良いのは貿易を担当している第二王子です。その次に現国王です。国防担当の第一王子は第三王子寄りのちょっとダメなお方です。特に女性関係で締まりがない方で、刃傷沙汰を数度起こしています。あ、第一王子と第二王子はそれぞれ担当があるため、国外へ行くことはちょっと難しいという判断でしょう。ですので、何も担っていない第三王子が候補になった様子です。あと、王女が一人居られましたが、この方は他国に嫁がれています。それに王妃が案外気さくな方らしく、庶民には人気が高いですね。この方を含めれば、第二王子、王妃、王女、国王、第一王子、最後に第三王子という順です」
「・・・ダメ王子を押し付けられた感が強いと思うのは、わたくしだけでしょうか?」
エミリが呟くように言ったが、いつの間にかお茶を飲み干してしまっていて、何も入っていないカップの底を恨めしそうにいつまでも見ている。だが、カイサの話はちゃんと聞いていたようだ。
私はカイサに目で合図する。カイサがつと立って、エミリのカップに新しいお茶を注ぎ入れてくれた。エミリが顔を上げ、最初に私に、次いでカイサに黙礼した。
「そうね、そういうことなんでしょうね」
「・・・お嬢様、特に母上様の思惑などにつきまして確認したほうがよろしいのではありませんか?」
私はカイサの言葉にしばらく考える。
「いえ、確認しなくて大丈夫だと思う。母様はいろいろ考えて居られると思う。だけど私については、どうせ私があの王子を気に入るはずがないわ、と考えて居られるのでしょうね」
私はそこで苦笑した。
「いえ、まあ、その通り、あの王子だけはないわと思うので、そこのところは母様の考えの通りなんだけど」
「・・・そうでしょうね」
「・・・わたくしもおっしゃる通りだと思います」
「あの王子がまともなら、もう一度会うにしても以前のことに謝罪してくると思うけど、まともじゃないならあの性格のまま、私に詰め寄ってくるのじゃないかと」
私のその言葉に、カイサの笑顔が凍る。怖い。それにエミリも体をぶるぶると震わせた。
「・・・わたくしはあの王子のこと、許容できません。絶対に無理です」
「・・・私だって無理なんだけどね・・・」
「・・・お願いが御座います、お嬢様」
カイサが凍った笑顔のまま口を開く。
「なあに?」
「・・・もし次回また会われることがあれば、護衛はヴィルマル・ヘーク、侍女はなしで、侍従のマテウス・ビルトか、パウル・アンドレアンをお連れくださいますように。
・・・男性ばかり連れて行って欲しいとお願いいたしますのは、いけないことだと重々承知致しておりますが、このカイサもあの王子は少々無理でございます。私が王子とお会いになるお嬢様の傍に侍ることになると、何かの場合にお嬢様の評判を下げるようなことを仕出かすかもしれません」
カイサは話の途中で一瞬迷うように言葉を区切ったが、苦し気な表情の後、諦めにも似た表情ですぐに言葉を続けた。その内容はカイサらしからぬ弱音で、私は一瞬だけ目を見張った。私の専属侍女頭になった後、いつも毅然としていたカイサが弱音を言うとは。
「・・・エミリも無理なのね?」
私の言葉に意気消沈するエミリ。
「・・・はい、申し訳ありません・・・。あれは無理です。斬る衝動が抑えきれません・・・」
さらっと怖いこと言ったよ。
「・・・耐えきれなくなったら斬っても良いと言われるのでしたら、お供します。その時は爽快でしょうね」
続けてもっと怖いこと言ってる。
「やめてもらえるかな。国際問題になるから。
つまりは二人は衝動を抑えきれないと?」
私に質問に、二人が口籠りながら答える。
「どうしてもと言われるのならば、お供致します」
そう言うけど、結局は連れていけないよね。
「わかりました。ログネルの安寧のため、アランコ王国のエルネスティ第三王子と会うことになったときは、二人は連れて行きません。
これでよい?」
「ありがとうございます、お嬢様」
「はい」
二人の懸念は、今日のあの態度に怒りを相当覚えていたということだから、次回会うことになったときには何をするかわからないというところにあるのだろう。ログネル王国と私のことを大切に思ってくれているのはありがたいことなのだが、少々騒ぎすぎだと思わないでもない。それほどのことだろうかと考えたところで、二人はあの王子の対象になってしまったことが、私に申し訳ないという意味も含め、回避と言っているのではないかと思い当たった。主人である私と会ったときに私の他にも寵愛を与えると言われたのだから、全力で回避したいと思ってしまったのだろう。
でもね、私だってあの王子は無理よ。妻になる事は絶対にないけど、仮にも見合いの席で私以外の女性に寵を与える発言する男なんて、斬り捨てたいわ。
もう会わずにお断りの手紙を送りましょう。これで縁が切れるはず。
私はそう思って、サロンを片付けてから、手紙を書いて、侍従の一人パウルに、エルネスティ王子に届けてもらった。
やれやれだわ。
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