貴族子女の憂鬱

花朝 はな

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第十話 悪戯好きって誰の事②

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 少々戸惑いとともに、つらつらと周りのことを考えてみる。

 アルトマイアー大陸の国々ではログネル王国以外はほぼ男性が強いと考えられていて、当然のことながら女性は家にいて、家の中を世話するという考えが一般的となっている。その場合は家の外は男性の担当となる。

 ログネル王国は、放牧民として暮らしているときは確かに男性の方が力を持っていた。放牧を止め、定住したときには男性の数はすでに減少していたようで、さらには大陸で領土争いが起こるに際し、ログネルもその争いに巻き込まれてしまう。この争いで戦に出ていくのは男性が主だったため、男性の数は減少の一途をたどり、そして支配者層の男性達も相次いで戦に出て命を落とした。支配者の男性は幼子のみとなったために、戦で命を落とした支配者の配偶者である女性が、勝ち戦に乗じて攻めてきた敵を迎撃することになった。彼女は勝ち戦に乗じ深追いしてきた敵を伏兵を置いた狭隘に誘い込み、そのまま一人も帰すことなく文字通り殲滅し、ログネルの滅亡の危機を脱した。

 戦の指揮は一時的な措置だったのかもしれなかったが、その女性はそのまま支配者となった。戦の勝敗は女性が支配者でも問題ないことを証明し、女性が支配者として立った。

 そののち、女性が支配者となったログネルを近隣の国が狙い、この女性の支配者は再三の侵略を全部退けた。反対に度重なるログネルに対する侵略を起こした周辺国は、負け続けて国力を落とし、それに乗じたログネルは、周辺国を併合し領土を拡大すると言う偉業を見せた。

 こうしてログネルの女性の地位は、未来でも国力を飛躍的に高目られる存在として認識されるに至り、男性ではなく女性も支配者として能力があるとしてしてここに現王の第一子が王位を継ぐと正式に宣言することになったのだった。

 このように女性が男性と肩を並べて戦うことがなかったら、ログネル王国の存続はなかったし、ましては大陸に支配出来るほどの勢力を築き上げることもなかっただろう。

 しかしながら残念なことにこのログネル王国の成立の歴史を知ってなお、ログネル王国女王を表面上でしか認めていないと言われている者もいるようだ。これは男性に国を支配されてきた土地で顕著で、近年ログネルに併合された領地の領主をはじめとした民は、本心から女王陛下を敬わず、表面だけ取り繕っているだけの場合もあるらしい。

 またアルトマイアー大陸の四分の一程度の地域を占める小国群は、政治は男性が担うものとされており、そのため男性王しかいない。これらの男性の方が優れていると盲目的に信じる小国群は、女性を政略的に捕えており、貴族平民を問わず、女性を有力者に嫁がせて勢力を拡大しようとしている。これらの小国群では、女性は政治の道具になっている。

 「はあ・・・」

 私は部屋で母に送る書を書きながらため息をつく。先ほどマーヤが言ったようにどういう形であれ、エルベン王国の第二王子殿下のことを書いて送ろうと考えたのだった。

 「・・・どうされました?」

 マーヤがお茶をテーブルに置きながら尋ねる。今日のマーヤは珍しく先ほどから口数が多い。そんなに私は心配かけているのだろうか。

 「・・・いや、なに、母様が何と言うか心配になって・・・」

 しかしマーヤは私の言葉に眉を寄せて謎の笑みを浮かべた。

 「・・・いえ、お嬢様の書かれた書は、確かに真面目にお読みにはなるでしょうけれど、・・・子爵様が、お嬢様がお帰りになった即、急便を仕立て上げられていましたから、この二三日中にそろそろ返答があるのではないでしょうか・・・」

 「・・・報告をしてあったのね・・・」

 私が力なく頷く。

 「・・・報告の送り先はあの方なのですから、返答はもう準備しておかれたかもしれませんが・・・。わざと問題ある人物をお嬢様のお相手に選んでいるのかもしれないですよ・・・」 

 「あー・・・、マーヤのその言葉、一番ありそうじゃない?」

 私は、あの外面のみニコニコしていて、内面の腹黒い所が全く見えない母の姿を思い出していた。

 あの母は、私や私の二人の弟にもあのニコニコ顔で質の悪い悪戯を仕掛けてくる。一番幼かった下の弟であるマウリッツは、多分あの母のおかげで腹黒に育ったのではないかと思う。すぐ下の弟であるヨハンネスは、母を反面教師にでもしたか、腹黒い所は今のところ見受けられない。まあ、継承権は私に次いで第二位なので、ひねくれられないとでも思っているのではないだろうか。マウリッツは継承権は三位でもひねくれまくっているのだけれど。

 と言うか、問題ある人物をわざと選んでいるのかどうかわからないのだが、もしそうしているのであれば、何か理由がある様な気がする。

 「・・・母様が問題ある方を相手に選んだとしたら、果たしてそれはなぜ?」

 「・・・恩を売るとか・・・?」

 マーヤの言葉に、私は素直に頷けなかった。多分顔を顰めていたのだろう、その私の表情を見たマーヤが主出そうとするように口を開く。

 「・・・お嬢様、私、この間小耳にはさんだことがあるんです・・・」

 「・・・?」

 私は何も言わず、表情だけでマーヤに先を促す。

 「・・・あのメルキオルニ侯国の第三王子も、アランコ王国の第三王子もですが、あれからログネルの貴族に失礼を働いたという噂が、それぞれの国で盛んに流されているんです・・・。ログネル王国の民が、その無礼に怒り心頭である、メルキオルニ侯国もアランコ王国もそのうちに多かれ少なかれ報いを受けるだろうと・・・、王族の評判が落ちてきているんです・・・」

 









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