貴族子女の憂鬱

花朝 はな

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第十五話 小国の王の中にも野心家はいるようで④

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 女王陛下と皇帝が会談した当初は良い感触だったと聞いている。

 お互いの国を褒めあい、そのまま器量を褒める。国民の勤勉さを称えあう。そして国王同士が親しげに語りあっていたその時、女王陛下の機嫌が急降下しそのまま不機嫌さを隠すことなく、最後は手を握り合うことなくそのまま去っていくことになったそうだ。

 女王陛下はさも忌々し気な表情で、皇帝は終始首を捻りながら別れを告げることになったらしい。

 このように皇帝は真剣に同盟を考えていたらしいが、どうしてかはわからないが、女王陛下の機嫌を損ねる皇帝の発した言葉、それが何かは、当事者である女王陛下が口を噤んで話さない為不明なままだが、同盟話は物別れに終わった。

 あの時、皇国と同盟関係になれたとしたら、今このようなことで煩わされるようなことはなかったのだろうか。

 執事頭の言葉の意味を考えながら、小国の蠢いている中心にいるであろうバルスコフ侯国について考える。

 バルスコフ侯国は成り立ちからして褒められたものではない。ログネルの国民ならこのバルスコフ侯国の祖と言われているバルスコフが詐欺師であるとを知っている。

 シュタイン帝国の末期にログネルと争ったのち、急速に衰退していったのと時を同じくしてログネルにその詐欺師は現れた。バルスコフと名乗るその詐欺師はとにかく自分の容姿に自信を持っていた。フェルトホフの街でその男はシュタイン帝国に滅ぼされた貴族の末裔を称して、フェルトホフの貴族社会で名を売り始める。その時は国王は何代目かの女王陛下の御代だった。

 その女王陛下にはほぼ問題はなかったが、女王陛下の配偶者には問題があった。この配偶者はとかく希代の女好きで、シュタイン帝国との戦争で国境に出征している女王陛下が王宮に居ないときを見計らい、寝所に夜な夜な女性を引き入れていたという。当初は戦のために大事にしないようとしてきた女王陛下も、配偶者の狂乱と隠し子の存在、更には出征している貴族の留守を守る夫人に言い寄り、半ば強引に関係を持つなどの行為に怒りが爆発し、親征先から王命を下して配偶者を捕らえさせた。

 結局、配偶者は怒りの収まらない女王陛下の命令に添い、顔を傷つけられ、去勢され、利き手の手首から先を切り落とす、足の指を切り落とすと言う刑を受け、犯罪奴隷として華やかな貴族社会から追放されることになった。元配偶者は犯罪奴隷が行う仕事とされていた川上へと登る船を岸から綱で引く作業に死亡するまで従事させられた。

 この犯罪奴隷たちはほとんどは欠損などはなく、刑期が有期なものだったのだが、この元配偶者だけは女王陛下直々の命のため、自由はなし、休日もなし、付き人もなしであり、当時の女王陛下の怒りが凄まじく、哀れに思う者が恩赦に言及するだけで、役を解かれたり、前線に送られたりしたほどだったと言う。

 話がそれたが、バルスコフはそこで、配偶者を犯罪奴隷とした女王陛下の愛人となり、遊んで暮らせる財を得ようと考えたらしい。配偶者に不倫されたことからか、女王陛下はフェルトホフの王城、通称ハイゼ宮で過ごすようになっており、前線に出ることは年に数回になっていた。これは戦況の好転もあったためとも言われている。

 当時の女王陛下は戦で疲弊する貴族たちを労おうと、王宮で割と頻繁に大小の夜会や舞踏会などを開いていた。バルスコフはその会に頻繁に顔を出し、顔を売った。顔が良いバルスコフは徐々に女王陛下に顔を覚えさせ、配偶者を廃して隣を埋める存在のなくなった女王陛下が自分に絆されるだろうと高をくくっていたらしかったが、女王陛下は一切靡かず、反対に女王陛下の出席がされる会に招待されることはなくなった。時折結婚を餌に女性に金を都合させることなどを行ってきたバルスコフの言動を知る者が女王陛下に注進しており、結局バルスコフに靡いたのは、女王陛下と同じように帝国との戦いで命を落とした男爵の未亡人ぐらいだった。

 バルスコフは男爵の未亡人とねんごろになると、そのまま男爵家の財を根こそぎ奪い取り、そのままフェルトホフを出奔し、今のバルスコフ侯国と言う名のつく地域に逃げ延びた。ここはログネルとシュタイン帝国の戦端がある区域だったが、北側から攻めるシュタイン帝国とそれを迎え撃つログネル王国軍が地域の西側で睨み合う場所であったのだが、東側は戦火は及んでいなかった。そこで未亡人の財産を使ってこの地域の住民に武器を与え、住民を自分の与力として組み入れることにする。自衛のための武器を与えられた住民はバルスコフを有難がり、更に侯爵と自称するバルスコフが貴族だと信じて、バルスコフを盟主として仰ぐことにした。ここにバルスコフ侯国が誕生することになる。

 自分の容姿に絶対の自信を持っていたバルスコフはログネル王国の貴族内に受け入れられなかった事が屈辱であり、完全な逆恨みだが、ログネル王国を屈服させたいと思うようになって行った。そしてその思いはバルスコフの子に受け継がれた。こうしてバルスコフの子は、傲慢に育って、国力に相当差があることを認めることなく、ログネル王国を倒し、覇権を手にすることを国是として数代を重ねることになっている、と言うのが、バルスコフ侯国の成立だった。

 ・・・何を狙っているのか・・・。私はふと考える。・・・ログネル王国の優位は変わらない。バルスコフ侯国側が動員できる兵の数とログネル王国側との差は圧倒的だ。現実路線に国是を組みなおし、例えばログネル王国と対峙しながら同盟し、味方を作り、さらには皇国とも同盟出来たら、バルスコフ侯国が盟主となることすらできるかもしれない。・・・バルスコフの現王がそう考えていたとしたら・・・。

 「いやいや、それでも無理だから。国力差あり過ぎるから・・・ね」








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