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三章
三章5
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2021年七月 少年
加茂建少年は夜行バスで早朝の新宿に着いた。
建少年の目的は決まっている。
父の死の真相を知ることと、復讐。
その二つの中でも、建の心を支配していたのは復讐の方が大きかっただろう。
父加茂健三和歌山県会議員は、和歌山県内の土地を巡るスキャンダルに国会議員が関わっている事を知り、東京へ行くと、殺されてしまった。
建は父の死は「自殺」などではなく、何者かによって「殺害」されたのだと信じて疑わなかった。
単なる少年の妄想的推理や、憶測ではない、健三の遺品を丹念に調べた結果に基づく結果であった。
健三が肌身離さず持っていた電子スケジュール帳は何故か遺品の中に含まれて居なかったが、父の机の中に隠すように置かれていた手書きの手帳には、健三が謎の死を遂げるその後のスケジュールも丹念に書かれていた。
死の翌日、午前十時、都庁にて都知事と面談、午後二時三十・・・織田先生とある。
この織田先生というのは現文部科学大臣兼スポーツ庁特別顧問、織田敬一郎議員であることはだいたい察しが付く。
しかも健三は死の当日も織田議員と面談をしているのだ。
建少年は見慣れぬ都会の高層ビルを見上げ、とりあえず都庁を目指し歩き始めた。
意外と簡単に都庁には辿り着けたが、ここへ来たからといって何かが得られるはずもなく、父の手帳に書かれていたからという理由で都知事が見知らぬ少年に会ってくれるはずもないことは、世間の常識を実感し始めた少年には十分に理解していた。
とりあえずは、一階のロビーを歩き、これから何をすべきなのかを考えることにした。
するとある掲示板に建の視線は向かった。
都内で開かれるイベントのポスターが何枚も貼られた掲示板の前に引き寄せられると、あるチラシに目が行った。
「2020東京オリンピック激励・未来のスポーツにむけて」
会場、都庁1Fロビー、出場者には各種目のメダリストが並び、その並びからスペースを開け文部科学大臣兼スポーツ庁特別顧問・織田敬一郎とある。
ただ宛てもなく都庁に来た建にとって、その情報は収穫であった。
織田という人間を見ることが出来るチャンスがあることは大きい、その男を肉眼に焼き付けたからといって何が出来るわけでもないが、何も力を持ち合わせていない少年にとって、父の死に大きく関わってであろう男に鋭い眼差しを向けることだけで、今できる十分な復讐である。
建は自分を納得させるように鞄から大学ノートを取り出し、イベントの日時をメモすると、ふっと掲示板の横に設置されたチラシラックにあったチラシの一つに目が止まった。
「明治神宮特別展・皇室の秘宝展2021年10月開催予定=特別解説者・元・和歌山大学教授、前和歌山県知事・長須田守」
建は、そのチラシを一部取ると、小さく折りたたみメモ帳の真ん中あたりにはさみ、都庁を後にした。
都庁を出て高層ビルの隙間にある空を見上げると、黒ずんだ雲で塗りつぶされ、今にも雨が降り出しそうである。
建はよどんだ空を険しい表情で見上げると、ビル風が七月にしては冷えた風が、建の身体を通り抜けていった。
その風に連れられて来たわけでもないだろうが、建の脚は、新宿中央公園に向かった。
大きな公園のほぼ中心部に、こんもりとした芝生の丘がある。その丘の上に立つと都庁を見上げることが出来る。
建は丘から都庁を見上げると、冷たい雨が頬に当たり、やがて霧雨になって街を覆ったころ、建の瞳から涙が溢れていた。
「チクショウ」
少年は、大きく呟いた。
「チクショウ」
二度目は叫びに近い声であった。
自分はなんて無料なんだろう、怒りに突き動かされて東京まできてはみたが、自分に出来ることは何も無いと悟る事だけしか出来ていない自分、それが震えるほど空しくて、腹立たしかった。
2021年七月 少年
加茂建少年は夜行バスで早朝の新宿に着いた。
建少年の目的は決まっている。
父の死の真相を知ることと、復讐。
その二つの中でも、建の心を支配していたのは復讐の方が大きかっただろう。
父加茂健三和歌山県会議員は、和歌山県内の土地を巡るスキャンダルに国会議員が関わっている事を知り、東京へ行くと、殺されてしまった。
建は父の死は「自殺」などではなく、何者かによって「殺害」されたのだと信じて疑わなかった。
単なる少年の妄想的推理や、憶測ではない、健三の遺品を丹念に調べた結果に基づく結果であった。
健三が肌身離さず持っていた電子スケジュール帳は何故か遺品の中に含まれて居なかったが、父の机の中に隠すように置かれていた手書きの手帳には、健三が謎の死を遂げるその後のスケジュールも丹念に書かれていた。
死の翌日、午前十時、都庁にて都知事と面談、午後二時三十・・・織田先生とある。
この織田先生というのは現文部科学大臣兼スポーツ庁特別顧問、織田敬一郎議員であることはだいたい察しが付く。
しかも健三は死の当日も織田議員と面談をしているのだ。
建少年は見慣れぬ都会の高層ビルを見上げ、とりあえず都庁を目指し歩き始めた。
意外と簡単に都庁には辿り着けたが、ここへ来たからといって何かが得られるはずもなく、父の手帳に書かれていたからという理由で都知事が見知らぬ少年に会ってくれるはずもないことは、世間の常識を実感し始めた少年には十分に理解していた。
とりあえずは、一階のロビーを歩き、これから何をすべきなのかを考えることにした。
するとある掲示板に建の視線は向かった。
都内で開かれるイベントのポスターが何枚も貼られた掲示板の前に引き寄せられると、あるチラシに目が行った。
「2020東京オリンピック激励・未来のスポーツにむけて」
会場、都庁1Fロビー、出場者には各種目のメダリストが並び、その並びからスペースを開け文部科学大臣兼スポーツ庁特別顧問・織田敬一郎とある。
ただ宛てもなく都庁に来た建にとって、その情報は収穫であった。
織田という人間を見ることが出来るチャンスがあることは大きい、その男を肉眼に焼き付けたからといって何が出来るわけでもないが、何も力を持ち合わせていない少年にとって、父の死に大きく関わってであろう男に鋭い眼差しを向けることだけで、今できる十分な復讐である。
建は自分を納得させるように鞄から大学ノートを取り出し、イベントの日時をメモすると、ふっと掲示板の横に設置されたチラシラックにあったチラシの一つに目が止まった。
「明治神宮特別展・皇室の秘宝展2021年10月開催予定=特別解説者・元・和歌山大学教授、前和歌山県知事・長須田守」
建は、そのチラシを一部取ると、小さく折りたたみメモ帳の真ん中あたりにはさみ、都庁を後にした。
都庁を出て高層ビルの隙間にある空を見上げると、黒ずんだ雲で塗りつぶされ、今にも雨が降り出しそうである。
建はよどんだ空を険しい表情で見上げると、ビル風が七月にしては冷えた風が、建の身体を通り抜けていった。
その風に連れられて来たわけでもないだろうが、建の脚は、新宿中央公園に向かった。
大きな公園のほぼ中心部に、こんもりとした芝生の丘がある。その丘の上に立つと都庁を見上げることが出来る。
建は丘から都庁を見上げると、冷たい雨が頬に当たり、やがて霧雨になって街を覆ったころ、建の瞳から涙が溢れていた。
「チクショウ」
少年は、大きく呟いた。
「チクショウ」
二度目は叫びに近い声であった。
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