探偵君の憂鬱な恋愛 ─惚れた相手は運び屋でした─

夜野綾

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8 東京へ

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 トーストと牛乳という朝飯を食べ、食器も洗い、時宗は今野を待っていた。下手すると長期戦になると思っていたのだが、今野は拍子抜けするほどすぐに戻ってきた。午前11時には、シャッターを再び開ける音がしたのだ。
 ダイニングキッチンと玄関との境目で壁に寄りかかり、時宗は今野を出迎えた。ドアを開けたところで時宗と顔を合わせ、今野は溜息をついた。
「お前、帰んなかったんか」
「帰るわけないだろ。訳ありなら訳ありで事情聞くし。こっちだって探偵事務所なんて商売やってるんだ。大抵の事情には驚かない」
「そうか?」
 ぼそっと言うと、今野は時宗を押しのけるようにダイニングキッチンに入った。コートを着たままだ。ぐるりと部屋を見渡すと、冷蔵庫を開けて中を確認している。時宗が冷蔵庫に入れておいたマグカップを出して牛乳を一気飲みし、パックの残りを流しに捨て、テーブルに置かれたままの冷えたトーストをかじる。
「買い物行くのか?」
「行かね。オレこれから仕事」
「また出かけるのか?」
 今野は答えず、手早く皿とマグカップを洗った。それから奥の部屋へ行き、PCやライトのコードを引き抜き、クローゼットから小ぶりの旅行用バッグを取り出す。中身はすでに詰められているようだった。それを肩にかけると、こちらへ戻って灯油ストーブの火も消し、洗濯機の水道を止めたりガスの元栓を閉めたりしている。
「……長く空けるのか?」
「うん。だからお前ほんとに帰れ」
「ついてく」
 今野は嫌そうに顔をしかめた。
「だめだ。仕事なんだから」
「何の仕事だ」
「お前に関係ねぇ」
「関係なくないだろ。俺だって仕事なんだ。なぁ一回じいさんに会ってさ、それから決めたっていいんじゃないか?」
 時宗が食い下がると、今野はダイニングキッチンの真ん中に突っ立って時宗を見つめた。どうしたらいいかわからない、そんな不安な雰囲気が無表情な顔にかすかに漂っている。時宗は言いつのった。
「な? このまんまじゃどうにもならない。俺、お前の仕事手伝ってもいいし、どこで待ってもいい。とにかく、お前が東京行ってじいさんに会うか、会えない事情をちゃんと俺に説明するかしない限り、俺は絶対お前から離れないからな」
 今野は黙ってしばらく考えてから言った。
「オレの仕事、手伝うんか?」
 頷いて見せると、今野は諦めたように力なく笑った。
「わかった。……お前東京帰れ」
「だから!」
「……オレこれから、仕事で東京行くことになったんだ」
 時宗は目を見開いた。なんだって?! それってつまり……。一石二鳥っていうか、なんかそういう……。今野は皮肉っぽく口をゆがめた。あぁ。屈託なく笑う顔のほうがいい。
「お前飛行機で帰るべ? 千歳まで送ってやる」
「お前だって飛行機だろ?!」
「オレ飛行機じゃない。車で行くんだ。だから手伝いたかったら、オレの車に乗ってずっと行かなきゃなんねぇ」
 時宗の答は決まっていた。
「お前の車に乗ってく」
「んじゃお前、後で文句つけんなよ」
「つけるわけないだろ」
「どうだか」
 そう言って、今野はニヤリと笑った。さっきより素が出た笑顔は、ちょっと可愛げがあると時宗は思った。

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