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第21話
しおりを挟むスマホのバイブはいつの間にか消えていた。誰からの電話だったんだろう。美原さんはそれには気にならないのか、ゆっくりと僕の上からどいて、正座の姿勢になった。
「怖かったですよね。ごめんなさい」
「大丈夫です……」
僕は憮然としたまま脱がされた洋服を手繰り寄せ、モソモソと身に着ける。なんだかとっても恥ずかしくて惨めだ。クールな美原さんに戻るなら、もっと早くか終わってからにして欲しい。
「僕はこんなふうに人を脅して抱きたくはないんです。きちんと愛情を確かめあってお互いの理解のうえで抱き合いたい。先生ともそうしたいんです」
はあ、そうですか。それなら僕は間に合ってます。
「まさか、二重人格とか」
失礼とは思ったけど、十分失礼なことされたんでお互い様かと、敢えて言ってみた。
「あ、いえ。十分意識あるんです。でも、スイッチ入っちゃうと見境なくなっちゃって。欲望に忠実になってしまうんです」
それが本性なんじゃないですか? むしろそうならいいのに。
「美原さんのスイッチってどこにあるんですか。その……これからはそれを押さないようにしたいんで」
そうだ。君子危うきに近寄らず(近寄りたいときにはそこを押せばいいし)。
僕はシャツのボタンを全て嵌め、デニムも履き終えた。
「好きな人の前では、出来るだけ自制しようと思ってるんです。反動が凄いので。でも、お相手が僕に興味があると思ったりすると……いえ、もちろん勘違いだとわかってるんです。例えばこの間は、停電した時、先生が声をかけてくださいました」
ああ、うん。暗くなって、美原さんが玄関のタタキに落ちたりしたら大変だと思ったんだよ。
「今日は多分、眼鏡を外したときの先生の表情を、勘違いしてしまったんだと思います」
勘違い……じゃないかも。
「でも、途中で我に返ってしまうんですね」
いや、惜しいってわけじゃないよ。美原さんが惜しいんじゃないかなってことだよ。
「結局意気地がないっていうのか。それから……怒らないでくださいね。これはただの僕の印象なんです」
「はい? なんでしょう」
「抵抗されてる時は、イケイケで進むんですが……」
「はい」
「お相手が受け入れちゃうと……何故か我に返ることがあって……灯りが点くとかスマホの音はそのきっかけに過ぎない……」
――――なにっ!
僕は唇を噛み、思わず赤面した。どういうこと! それは……そういうことか。
「ぼ、僕は……」
「ごめんなさい。これは僕の勝手な印象なんです。先生、多分、力尽きちゃって、抵抗するのが弱くなったんですよ。本当にすみません。暴言も吐いてしまって……鹿島さんにも申し訳ない」
大きな体を小さくして、美原さんは頭を下げた。
僕らは別々にそこから退室。そのまま帰路についた。今回のことはギリギリセーフかな。多分舞ならアウトって言うだろうけど。今回も途中で終わってしまったし。
あ……そう思うと、なんだか体がざわついてくる。早く鹿島さんに会いたいな。
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