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File No. 27 要求
しおりを挟む金曜日の夜、僕はエプロンをロッカーに仕舞い、なにか着信あったかもとスマホを取り出した。竜崎からメッセージが来てないかと期待したんだ。
連休にどこかで遊ぶような予定もなく、なにかお誘いがあるかもと思ったのに。代わりにとんでもないものが来ていた。
『ピラミッドのキーホルダー、教授の遺体の横に落ちていた。誰のかわからなかったけど、つい拾ってしまった。あれ、君のですよね? どうして、あそこに落ちてたのか。
私は犯人ではないですよ。でも、君たちより先に遺体を見つけたものです。君は教授を殺した後、キーホルダーを落としたのに気付いて慌てて戻って来たんじゃないですか?
あの、長身の男は共犯か。可愛い顔して悪い子だね、君は』
「誤解だ! なに言ってんだこいつ。全然わかってない。てか、警察に行っても鼻で笑われる話だぞ!」
僕はバイトの更衣室で思わず叫んでしまった。他に誰もいなかったから良かったものの、聞かれたら何事かと思われるだろう。
――――けど、このメールの送り主は、僕が犯人だと思ってるんだ。僕にアリバイがあるなんて知らないだろうから……。
で……なんで証拠隠滅してんだよ。なんのため? まさか僕を脅すつもりでは……意味ないのに。このメールはサクッと警察に渡すか。
――――いや、待てよ。それはともかく、なんでキーホルダーが落ちてたんだろう。
僕はここで首を捻った。バイト先のカフェからアパートまでは歩きだ。僕はテコテコ歩きながら乱雑に散らかってる脳内から、記憶を取り出そうとまさぐった。
僕が教授の部屋でキーホルダーを落としたのは3月の中旬。あの思いだすも忌まわしい日のこと。教授が殺された日はあれから3週間以上経ってたはずだ。掃除も入ってるし、今もまだ落ちてるなんておかしな話だよな?
――――あまり考えたくないけど、教授が肌身離さず持ってたとか?
それもおぞましいけど、それよりも簡単な理由が思いつく。
「誰かが、藍を犯人に仕立てようとしたってことだな。恐らく5時半にメールを送った奴と同一人物だろう。それをまた第三者が拾ったと。ややこしいな」
土曜日の午前、僕は早速竜崎に連絡した。もちろんメールも転送してる。そしたら竜崎はすぐに飛んできてくれたんだ。なんか、ちょっとこの間抜けな脅迫者にお礼を言いたくなったよ。ただ……。
「キーホルダー、なくしたの黙っててごめん……落としたところわかってたから、逆に言えなくて」
それについてはとっても言い出しにくかった。
「ああ。いや、それはいいよ。藍が使ってないのがちょっとショックだったけどさ」
ああっ! そうなんだ。そうだよね。僕もなくすまでは鞄にくっつけて、時々眺めてはニヤニヤしてたんだよ。それが輪っかだけになっちゃって。
「まあ、エジプトの土産だものなあ。すぐ切れちゃうようなもんだったんだよ」
「そんなことないよ。クリスタルがとっても綺麗で。僕は気に入ってたんだ……だから教授の部屋で落としたの、すごくショックで」
それは本当のことだ。けど、この話を延々としてても仕方ない。竜崎も同意だったのか、話をメールに戻した。
「それで、なにか要求はしてきたのか? 最初のメールにはなかったけど」
「ううん。まだだよ。でも、教授の部屋に出入りできたんだから、やっぱり塩谷ゼミの関係者なのかな」
別に教授の部屋は立ち入り禁止じゃない。入ろうと思えば、誰でも入れるはずだ。ただ、教授が不在の時だって、ゼミ室を通らないと入れない。さすがに全くの無関係者では土屋さんやゼミ生たちに怪訝に思われるだろう。
「そういう意味なら、ゼミの関係者だけじゃなく、教授の関係者や大学事務局の人も含れば、結構な人数になる。だが状況を考えれば……」
と、竜崎が言いかけた時、スマホがメールを受信した。僕は急いでメールを開く。
「えっ!」
「どうした。藍、脅迫者からのメールか?」
「あ、えっとそのお……これは違うっ」
僕は思わずスマホを背中に隠す。とてもじゃない。竜崎に見せられない要求だったんだ。
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