時をかける恋～抱かれたい僕と気付いて欲しい先輩の話～

第２９話 大人オーラ

　窓の外から雨音が聞こえる。自転車置き場の屋根を叩く音だ。どこからか、アスファルトが濡れる匂いが遅れて届く。
　気だるい雨の朝。梅雨の走りとでもいうのか、最近は雨が多い気がする。

『これ、生まれた時からあったらしい。母親の言うことにはだけどな。案外赤ん坊のときに火傷させたのかもしれん。湯たんぽとかで』

　昨夜、冬真から手首の痣のことを聞いた。いつもは長袖で隠れてたから、全然忘れてたんだけど、たまたま目についたんだ。

『そうなんだ。僕はタトゥーかと思ってた』
『まさか、そのようなことはしない』
『だよね』

　硬派と呼ばれる冬真が、タトゥーなどするわけがなかった。



　でも、だからだろうか。変な夢見た。久しぶりに見た大河ドラマの夢。相変わらず主演は小姓の瀬那と信永の家臣、真豪。なんだろね、このＢＬ時代劇は。

　あの夢には続きがあって、高価そうな薬を塗ってもらった真豪は、それをすごくありがたがって、後日木箱みたいなのをお礼にって渡すんだ。
　なんか無駄なやり取りしてたけど、結局瀬那はもらってた。お茶碗だったと思う。でも、それよりも。このやり取りで、二人の間が急接近したみたいに感じた。

　大体冬真が、あのままあっさり帰っちゃうから。結局僕の体に点いた火はぶすぶすと不完全燃焼を起こして。それであんなおかしな夢を見るんだよ。全く。どうしてわかんないんだよ、僕の気持ち。

　――――僕の気持ち……割と恥ずかしいぞ、自分で言うと。もうこっちから襲ってやろうか。

　ふむ、確かにそれも有りかも？　冬真は僕が未経験で怖がってると思ってるんだ。だったら、僕は全く平気だって態度見せれば……（平気かどうかはともかく）。

　そこまで考えて気づく。冬真は経験あるのか？　もう全然経験者ですってオーラは出ているが（大人オーラだけど）。

　――――そりゃあ、あの落ち着き方は人生何回目って感じだけど。やっぱりそうなのかな。じゃあ、相手は当然のことながら男性？　それとも女性だったりして。

　朝からずいぶん馬鹿なことで僕はまた悶々としだした。ホントに自分で殴りたくなるくらい乙女だよ。
　考えるのが馬鹿々々しくなった僕は、シャワーでも浴びてしゃっきりしようとバスルームに向かう。気づけば窓の外の雨音はより強くなっている。どうやら本降りになったようだ。