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第4章 スコットランドヤードとギャング
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しおりを挟む馬車は僕の診療所の前に止まった。扉が開き、若くて背の高い男と中年で小太りの男の二人がもたもたしながら降りてきた。僕たちが掻いて作った道の上を歩き、目の前まで来た。
「おはようございます。えっと、イーサン・グリフィス先生ですか?」
背の高い若い方が聞いてきた。
「そうですが。何かありましたか? 天下のスコットランドヤードがこんな田舎街に」
「私はキャンベル警部。こちらはコール警部補です。寒いですな。少し話に手間取るんで、中にいれてもらえませんか? 先生」
小太りのキャンベル警部がそう答えた。確かに寒い。僕は二人を診察室の前にある待合室に招き入れた。ジョシュアはどこに行ったのか、気配を消している。僕の胸にまた嫌な予感が沸き起こってきた。
「それで、何があったのでしょうか」
診察室のストーブに火を入れ、彼らの真正面に座った。ジュリー看護師がもうすぐ現れるだろう。その前に彼らの話を終えたい。僕は無意識に急いた。
「実は、3週間ほど前なのですが……」
そう語りだしたキャンベル警部。その日時を聞いただけで僕は喉元にナイフを突きつけられたような気分になった。3週間前。それはジョシュアがここにやってきた日に間違いないのだから。
キャンベル警部とコール警部補がかわる代わるに話した内容はこうだった。
3週間前、ロンドンでちょっとした事件があった。ダウンタウンの裏道は、金も家もない浮浪者と派手な衣装を纏う娼婦たち、そしてそれを買う男たちが徘徊する文字通り裏の世界だ。
その同じ通りには、娼婦の陰で春を売る、男の姿もあった。所謂男娼である。
レオ・ブラウンの男色事件があってから、彼らは殊更非難の目を向けられる対象となったが、それでもそういう性癖を持つ者はいる。時には富裕層の女性に買われることもあるという。
「全く世も末ですな。神様もさぞ嘆いていることでしょう」
「はあ……」
今や自分もその一人だ。恥じるべきなのだろうか。だがそれよりも、僕はここにジョシュアの名前が出てくることを恐れ、気が気ではなかった。
「その日の真昼間。くだんの裏通りで喧嘩が起こりました。喧嘩というより、リンチでしょうな」
来た……。僕は思わずこぶしを握った。だが、彼らに気取られてはいけない。何事もなかったようにうんうんと頷きながら耳を傾けた。
キャンベル警部によると、リンチをしていた連中のなかに刃物を持っていたものがいて、一人の少年を刺したのだという。
通りに倒れこむ少年、さらに連中が暴行を続けようとしたとき、倒れた少年を助けにきた者がいた。彼は、暴行した連中から少年を守ったのだが、自分も怪我を負った。
「リンチされ刺されたのはそこらで商売をしている男娼の少年でした。暴行した方は、なんでしょうな。男娼を許せない連中? でもこいつらはただの商売敵ですよ。売春婦に働かせて上前撥ねるクズどもだ。あのレオ・ブラウン男爵事件以来、好奇心で男を買うのが流行りになったもんだから腹いせに狙ったのでしょうな」
「酷い話ですね……ですが、それがまたこの田舎町とどういう関係があるのでしょう」
僕はまだ嫌な予感を拭えない。リンチをされた少年はジョシュアではないようだが。
「ちょうど見回りをしていた警官に、そのクズどもは逮捕されました。リンチを受けた少年も保護し、入院させて無事です。だが一人、その少年を助けた、これもまだ若い男のようですが逃げてしまって……そいつは未だに見つかっていないのです」
そうか。それが……ジョシュアなのだろう。喉がカラカラになってきた。僕はわからないように唾をそっと呑み込んだ。
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