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第6章 イーサンの苦悩
(5)
しおりを挟む咄嗟に僕はそう叫んだ。ジョシュアが年少の者の扱いに慣れていたとしても、それは浮浪者同士の話だ。一抹の不安を持ちながら、僕はそれを深く考えず放置してしまった。もし、フランクに何かがあったら。
「ごめん、俺」
泣きながら姉のところに走ってきたフランクの頬が少し腫れているように見える。
「ジョシュア、フランクを叩いたのか!?」
僕は席を立ってジョシュアに詰め寄り、彼の右腕を取った。
「お待ちなさい、イーサン。話は聞くものよ」
冷静な姉の声に僕は驚いて振り向いた。ランパード氏も同様に穏やかな笑みを浮かべている。
「フランクは一人っ子でわがままなところもあるから。ジョシュア君が悪いわけじゃないと思うよ」
低いが温かみのある声だ。泣きじゃくっていたフランクは姉の膝に顔をうずめている。が、もう既に泣き止んでいた。
「ゲームをしていたんだけど。飽きたみたいで……」
フランクはジョシュアにゲームを投げつけたらしい。それが何度めかの仕草だったので、ジョシュアは軽く頬を張った。
「五歳の子供なんてそんなものだ。何も叩くことはないじゃないか」
「俺だってイーサンの甥っ子じゃなければ放っておいたよ。でも、キャサリンの子供だし。どこかでそれは我儘だってことを教えないと駄目だって思ったんだ。余計なお世話だったら謝るよ」
僕に手を掴まれながらジョシュアはそう言った。こうしてみると、ジョシュアは背が伸びた。来た当初はもっとやせ細っていたし、子供に見えた。今はもう、長身の僕と目線がそんなに変わらず、数センチ下にあるぐらいだ。
「ジョシュア、ありがとう。ほら、フランク、お兄ちゃんに謝りなさい」
泣いた子供がもう笑っている。母親に諭され、自らの罪を告白したようだ。そして『ごめんなさい』とジョシュアに頭を下げた。
「ウチでも手を焼いていてね。余計なお世話じゃないよ」
とランパード氏もそう言ってくれた。
「イーサン、デザートが食べたいわ」
「俺、用意するよ」
呆けたような僕をしり目に、ジョシュアが台所に入っていった。なんだか物凄くバツが悪い。自分だけ子育てに関して無知なのを露呈した格好だ。
僕は他にしようもなく、すごすごと自分の椅子に座った。
「だから……早く家庭を持ちなさいと言ってるのよ」
と、姉に一言、おまけのパンチまでもらってしまった。
――――家庭……ジョシュアは子供が欲しいだろうか。僕と二人きりではなくて、いつか、子供が欲しいと思うのだろうか。
何を考えている。あまりに非現実的じゃないか。僕はふと脳裏を掠めた、僕たちの『家庭』の幻想を、頭を振って消し去った。
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