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第2章
5 性格の違う双子
しおりを挟むそれから数10分後……。
ダイニングテーブルを挟んで、俺たちは無言でブランチを食べている。空はあれからシャワーを浴び、キッチンで食事の支度をしてくれた。
もう昼近いからと、たっぷりのサラダとパン、それにベーコンエッグ、デザートのフルーツヨーグルトまで完璧なメニューだ。
文句をつけようないくらい美味しいし腹は満たされていくのだが、何を言っても白々しく聞こえそうで何も言えないままだ。
「珈琲お代わりどう?」
「あ、もらう」
ようやく空が話しかけてくれた。俺は注がれる珈琲を見ながら、大きく息を吸った。
「今朝は、すまんっ」
「えっと……それは。久遠のせいじゃないし。僕の方こそ、突然出てきて……」
まるで浮気現場を見られたような罪悪感。だが、空は知らなかったわけではない。大体体は一緒なんだし、なんだろ、この面倒くささは。
これまで、こんなこと一度もなかった。俺のなかでは、二人の人間と……性格の違う双子と同居してるようなもので……。だが、そんなことを言っても始まらない。
「あんなふうに、突然入れ替わることはあるのか?」
空もお腹は空いているようだ。そりゃそうだろ、ベッドの上であってもあれは結構なカロリーを消費してる。皿に盛ったサラダはもう平らげてあった。
「どうだろう……。カササギは男の人と寝て疲れると、僕を起こすんだ。で、さっさと逃げろって言って自分は引っ込んじゃう。でも、知らないうちにお金が財布に入ってたこともあるから」
「そうか……」
確かに、最初に会ったときもそうだった。俺が目を覚ましたとき、ホテルにいたのは空だった。それに、カササギは自分がしたことを空に黙ってることもあると言ってたな。
「今朝は、気づいたらあの場に居て。別にカササギに起こされたわけじゃないんだ。あいつ、よっぽど疲れてたのかも……」
ちらりと俺を上目遣いで見る。いや、責めてるわけじゃないだろうが、ちょっと居心地悪い。
「わかった。これからは気を付ける」
こんなことは止める。とは言えない。俺のためにもカササギのためにも、空のためにも。けど、気持ちのなかは俺のためが8割。
今の俺は、カササギを手放すことなどできるはずもない。それは自分自身が一番よくわかっていることだ。
――――俺はそれほどカササギにのめり込んでるんだろうか。あいつの体に? いや、それは否定しないけど、あいつの存在に……惹かれてる。
そうは言っても、俺はカササギがなかなか出てこなくて焦れるわけじゃない。もの寂しさは感じるものの、空がいればカササギもいるってことで安心してる気がする。まるで空を人質に取ってるみたいな言い草だが……。
それはともかく、こんなことは二度と御免だ。入れ替わりはどうやらカササギが主導権を握っているようだから、次に出てきたときはきっちり話をつけないと。
――――性格の違う双子。
もし空とカササギがそうであるなら。俺はもう一人の別人とキスしたことになる。ゆっくりと味わうようなキスだ。
悪いことをしたような想いと、どこか甘美な背徳感が同時に沸き起こってくる。全く違う人格と体を交わすことに興奮しないと言えば嘘になる。
――――でもまあ、もう一人の方は、俺をウェルカムじゃないんだからな。
『キス……』
ふと、俺はあの朝のキスを思い出した。カササギらしからぬ甘えた仕草。
――――はは、まさかな。
顔を上げると、空はヨーグルトを食べている。いつもと変わらない朝だ。俺もまた、食べかけのベーコンエッグに箸をつけた。
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