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第2章
6 綱渡り
それから再び、平穏な日々が続いた。気候がいいので、空を連れてドライブに出かけたり、買い物に行ったり。
あんなことがあったので、俺もおいそれと性欲を暴発させることもなく、健全な日々を送っていた。
――――久しぶりの雨だな。
雨音に気付いて、仕事場の窓のブラインドを開く。タワマンから見える夜の街はぼんやりと滲んで見える。天気予報を見る習慣はなかったが、そう言えば週末は雨になるとイケメンの天気キャスターが言っていたような気がする。
「ああ、ようやく出てこれたよ」
背後から、擦れた感じの声が聞こえてきた。あの、ふいに空と入れ替わった朝から2週間ぶりか。カササギが現れた。
「なんだ、もう出てこれないかと思ってたよ」
「なんで?! 変なこと言うなよ!」
ほんの冗談のつもりだったが、カササギは思った以上に突っかかって来た。なんだ、こいつ、まさか出てこれない恐怖でもあったのか?
「なんだよ。冗談だよ。でもおまえ……」
「あ、いや。あんときは悪かったね。いやあ、気付いたらあいつが表に出てて……」
カササギは俺の横に立ち、目が合うなり右側の口角をくいっと上げた。
「気づいたら?」
「いつもは声をかけるんだけどね。それか、空が寝てればそのままオレも引っ込んじまう。あの日は、オレのほうが先に落ちたんだ。疲れてたんだよ。タカがあんまり激しく責め立てるからさ」
「なんだよ。俺のせいか」
「まあ、そうだな」
なんだかすっきりしないが、こいつらの中で何が起こってるのか、俺には計り知れない。もしかすると、こいつら自身にもわかっていないのかもしれないな。
「なあ、カササギ。おまえと最初に会った夜なんだが」
「なに? 今更昔話?」
そんな昔でもないだろう。2ヶ月か……少なくとも3ヶ月は経ってない。
「俺が起きたとき、どうして空はホテルにいたんだ? 呑気にシャワーを浴びてた。おまえ、すぐにホテルから出ろって言わなかったのか?」
いつの間にか、カササギは俺の懐のなかに入って来た。おのずと俺の両腕は、あいつの腰を抱く格好になっている。暖かいカササギの体。シャンプーの香りがふわりとする。
「ああ、言わなかった」
「なぜ?」
「タカは信用できるって空に伝えたんだ。だから、おまえさえ良ければ、話をしてみろって言った」
なんだと……。
「じゃあ、俺に声をかけてきたときから、計画してたのか?」
「え? まさか、そこまではしないよ。でも、そうだなあ。声をかけた時から、いけるかもって思ってた」
カササギは俺の腕の中でくるりと回転し、胸に顔を埋める。俺の背中に両腕を這わした。
「体を合わせればわかるよ。きっと空を見捨てない。悪いようにはしないって。オレはずっと空の心のなかにいて、観察してきたんだ。信用できる奴、出来ない奴。
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「カササギ……」
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――――俺の何を知って、そんなことを思ったんだ、カササギ……。おまえはその鋭敏過ぎる感覚で、俺の何を見た。
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