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TAKE 7 顔合わせ
その翌週。予想よりもずっと早く顔合わせが行われた。
監督(脚本兼務)さん始め主要キャスト、スタッフがネットテレビ局の本社ビルに集合した。
あれから僕も享祐さんも仕事が入っていて、会うことは出来なかった。でも1度だけ、顔合わせが決まった時に彼から連絡があった。
『顔合わせの後、控室で待ってて』
何を期待したわけじゃないけれど、享祐さんの大きな手で心臓を掴まれてみたいに体が波打った。
当日、顔合わせの後と言われたけど、その前に挨拶は欠かせない。マネージャーの東さんと一緒に彼の控室を訪れた。
「よろしくお願いします」
僕よりも東さんの方が緊張してる。享祐さんのような大スターと面と向かうのは初めてだろうから無理はない。
共演が決まった時の興奮度も僕に負けず劣らずだった。少し小柄で丸い体をばね仕掛けのおもちゃのように勢いよく二つ折りしてる。その隣で僕も同じ様に頭を下げた。
「こちらのほうこそよろしくお願いします」
享祐さんのマネージャー、青木さんはこの世界では有名な超がつく敏腕女史。担当した役者を須らく売れっ子にしている。
東さんが緊張するのはこの人の存在もあるんだ。才女が放つ余裕の笑みの横で、享祐さんが立ちあがった。
「この日をとても楽しみにしていました。一緒に頑張りましょう」
と、手を差し伸べる。僕はジャケットでさっと手を拭き(汗を掻いてた)、その手を取った。
静電気でもないだろうに、触れた途端、体中に電気が走る。上目遣いで享祐さんを見ると、満足そうに口角を上げていた。
「連絡、待ってたんだけど」
無事、顔合わせが終わった。監督にはこの前に面談してたけど、ずらりと並んだスタッフ、キャスト陣が有名人ばかりで圧倒されてしまった。
ほとほとに疲れ、控室でうっぷしていたところに享祐さんがやって来た。マネージャーの東さんは、まだ打ち合わせ中だ。
「すみません。お邪魔かと思って……」
大した用事もないのに、『おはようー』とかメール出来るわけないじゃないか。僕だって、連絡したかったし、待ってたよ……。
「ん、そうだな。でも邪魔じゃないから、おはようでもおやすみでも送って。俺が喜ぶから」
なんて罪な笑顔で言われてしまった。……また鼻血が出そうだ。
「ところで、本読んでみた?」
顔合わせと同時に第一話の脚本が配布された。その後の展開もざっと書いてあったが、監督の林田さんによれば、まだ試行錯誤してるから変わるかもということだった。
「あ、いえ。まだ余裕なくて、さらっとしか」
顔合わせでは初めての重圧感の中、名前を覚えたりするのに精いっぱいで本を見ても内容が入ってこなかった。
急いで目の前に置いてある脚本を手に取りぱらぱらとめくる。
――相馬は駿矢の部屋に無言で入り、ベッドに押し倒す。
え……。いきなりこれ? あ、でも原作もそうか。
――そのままの勢いでキスをする。
……ううむ。ト書きこれだけ。ここまでワンカットみたいだから、どんなキスをどのくらいしていいのか、その先進んでいいのかわからない。役者任せってことか。
「凄い頑張っても、オンエアではカットされてたりしてな」
享祐さんがくすくすと笑い声を立てた。僕が眉間に皺を寄せて悩んでいるのを気付いたか。自分の心を見透かされたみたいで恥ずかしい。
「それは……悪趣味ですね」
「ま、俺はカットの声がかかるまで攻めるけどな」
手にした脚本を落としたのに気付くまで、約一秒かかった。
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