【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
9 / 82

TAKE 7 顔合わせ

しおりを挟む

 その翌週。予想よりもずっと早く顔合わせが行われた。
 監督(脚本兼務)さん始め主要キャスト、スタッフがネットテレビ局の本社ビルに集合した。

 あれから僕も享祐さんも仕事が入っていて、会うことは出来なかった。でも1度だけ、顔合わせが決まった時に彼から連絡があった。

『顔合わせの後、控室で待ってて』

 何を期待したわけじゃないけれど、享祐さんの大きな手で心臓を掴まれてみたいに体が波打った。


 当日、顔合わせの後と言われたけど、その前に挨拶は欠かせない。マネージャーの東さんと一緒に彼の控室を訪れた。

「よろしくお願いします」

 僕よりも東さんの方が緊張してる。享祐さんのような大スターと面と向かうのは初めてだろうから無理はない。
 共演が決まった時の興奮度も僕に負けず劣らずだった。少し小柄で丸い体をばね仕掛けのおもちゃのように勢いよく二つ折りしてる。その隣で僕も同じ様に頭を下げた。

「こちらのほうこそよろしくお願いします」

 享祐さんのマネージャー、青木さんはこの世界では有名な超がつく敏腕女史。担当した役者を須らく売れっ子にしている。
 東さんが緊張するのはこの人の存在もあるんだ。才女が放つ余裕の笑みの横で、享祐さんが立ちあがった。

「この日をとても楽しみにしていました。一緒に頑張りましょう」

 と、手を差し伸べる。僕はジャケットでさっと手を拭き(汗を掻いてた)、その手を取った。
 静電気でもないだろうに、触れた途端、体中に電気が走る。上目遣いで享祐さんを見ると、満足そうに口角を上げていた。



「連絡、待ってたんだけど」

 無事、顔合わせが終わった。監督にはこの前に面談してたけど、ずらりと並んだスタッフ、キャスト陣が有名人ばかりで圧倒されてしまった。
 ほとほとに疲れ、控室でうっぷしていたところに享祐さんがやって来た。マネージャーの東さんは、まだ打ち合わせ中だ。

「すみません。お邪魔かと思って……」

 大した用事もないのに、『おはようー』とかメール出来るわけないじゃないか。僕だって、連絡したかったし、待ってたよ……。

「ん、そうだな。でも邪魔じゃないから、おはようでもおやすみでも送って。俺が喜ぶから」

 なんて罪な笑顔で言われてしまった。……また鼻血が出そうだ。

「ところで、本読んでみた?」

 顔合わせと同時に第一話の脚本が配布された。その後の展開もざっと書いてあったが、監督の林田さんによれば、まだ試行錯誤してるから変わるかもということだった。

「あ、いえ。まだ余裕なくて、さらっとしか」

 顔合わせでは初めての重圧感の中、名前を覚えたりするのに精いっぱいで本を見ても内容が入ってこなかった。
 急いで目の前に置いてある脚本を手に取りぱらぱらとめくる。

――相馬は駿矢の部屋に無言で入り、ベッドに押し倒す。

 え……。いきなりこれ? あ、でも原作もそうか。

――そのままの勢いでキスをする。

 ……ううむ。ト書きこれだけ。ここまでワンカットみたいだから、どんなキスをどのくらいしていいのか、その先進んでいいのかわからない。役者任せってことか。

「凄い頑張っても、オンエアではカットされてたりしてな」

 享祐さんがくすくすと笑い声を立てた。僕が眉間に皺を寄せて悩んでいるのを気付いたか。自分の心を見透かされたみたいで恥ずかしい。

「それは……悪趣味ですね」
「ま、俺はカットの声がかかるまで攻めるけどな」

 手にした脚本を落としたのに気付くまで、約一秒かかった。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

処理中です...