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幕間 その7
しおりを挟む林田監督の『うっかり発言』(しかも事実捻じ曲げてる)に腹を立ててから、越前享祐の行動は早かった。
マネージャーの青木女史に電話し、ロケでのホテルを指定した。その日出演するメインキャストをウチクラホテルに投宿させる。予算オーバー分は自分が自腹で払うというものだ。
『なんでそこまで』
『俺が泊まりたいんだよ。折角だし。でも、俺だけってわけにいかないだろう?』
『まあ越前君がそう言うなら、構わないけど』
青木は渋々了承した。享祐が言っていたように、このホテルは彼のスポンサーでホームページにも登場している。
だから、一般的な部屋を取ってもグレードアップしてくれるのだ。
ただ、享祐は却ってそういう特別扱いが好きでない。プライベートでこのホテルを利用したことはなかった。
今回も製作側で用意してくれたホテルに泊まるはずだった。
青木女史は以前から、享祐が三條伊織に対して特別な感情を持っているのではと疑っていた。それが、例のマンションでのことで危惧へと変わっている。
――――おかしなことにならなければいいけど……。
越前はもう三十歳過ぎた大人だ。俳優としてそれなりの地位を築いたし、不倫は論外だが恋愛、結婚は自由だと思っている。
けれど、同性愛となると、これは慎重にしなければと思う。時代は間口を広げているが、人気商売である彼にとってそれはプラスなのかと。
越前はホテルのバスルームでシャワーを浴びるとバスローブを羽織った。
着替えて伊織の部屋に行こうかとも思ったが、このままで行くことにした。リラックスしたいのもあったが、もちろん下心満々だった。
――――あ、伊織もバスローブだった。
自分の選択が間違ってなかったと思う一方、伊織の色っぽいバスローブ姿に思わず息を呑む。
窓の向こうには京都の情緒ある夜景が広がっている。この美しい夜に、何かが起こる(起こす)のは必然のように思った。
「気付かなかった? 俺は伊織が好きだ」
「え!? 好きっ!」
享祐の告白にえびのように跳ねた。伊織の白いデコルテがバスローブからちらちらと見える。享祐は無邪気さと魅惑が同居する伊織が愛しかった。
「目を……閉じてくれないか」
腕の中に閉じ込めようとすると、一生懸命自分の顔を見ている。
享祐が優しく問いかけると、伊織は素直に応じた。唇に触れると少しだけ震えている。
――――もう、俺を止めることは出来ない。
覚悟を決めて、享祐は伊織を抱いた。
ずっと叶えたかった願いを成就させたことに、享祐は夢中になった。夢のような目くるめく夜。吸い付く伊織の若い肌に、享祐はのめり込んだ。
「なんだ、真壁さんか」
まだ夢から醒めない足取りで伊織に声をかけると、そこに思わぬ人物がいた。芸能人にとって天敵と言っていい、ゴシップ記者だ。
享祐も何度か不躾なマイクを向けられたことがあったし、共演者が付きまとわれたこともあった。享祐自身は一度もスキャンダルを献上したことはなかったが、いい噂を聞いたことがない人物だ。
――――伊織を守らなければ。こんな奴に付きまとわれるなんて絶対に許さない。
自分たちがようやく結ばれた朝に、なんて不吉な人物の登場だ。
享祐は表情には出さなかったが、腹の中は煮えくり返っていた。青木女史に言われるまでもなく、細心の注意を払うつもりだ。
それはドラマのためもある。ここまで順調過ぎる勢いできた。おかしな雑音を加えたくなかった。
しかし、事は思い通りに行かなかった。それが明らかになったのは、クライマックスを迎える第八話の撮影前日だった。
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